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【2024年問題⑭】取引環境改善の好機/運賃改定

2024年問題

2022/08/12 3:00

 運送業界の9割以上を占める中小零細事業者にとって「2024年問題」は、労務改善など課題もあるが、運賃改定など荷主との取引環境を改善する好機にもなりそうだ。ただ、荷主や元請け、物流子会社、実運送会社など、サプライチェーン(供給網)の各層間だけでなく各層の中でも、立場や認識の違いによって危機感に「温度差」がある。それでも物流網の維持は必須で、それぞれがバランス感覚を持って歩み寄ることが求められている。(高橋朋宏)

「歩み寄り」必要

 「横暴な言い方かも知れないが、低水準の運賃、それに起因するドライバー不足により物流が機能しなくなった現実を荷主や社会に突き付ければ、我々を取り巻く状況が変わるのではないか」と指摘するのは、トーヨーエキスプレス(東京都大田区)社長の佐藤文平氏(36)。
 「荷主は物流費を商品価格(全体のコスト)の何%と決めることが多い。運賃が低く抑えられる主因だ。本来なら、製造コストや(運送事業者の健全経営が成り立つ)適正な運賃を積み上げて商品価格を決めるべきだろう」と続ける。
 国土交通省が20年4月に告示した標準的な運賃については「健全経営に必要な水準。『高い』とネガティブに捉える運送事業者もいるが、異常なのは現状だ」との見解を示す。
 全日本トラック協会(坂本克己会長)が22年3月に公表した20年度版経営分析報告書(19年10月から21年8月に2687社から提出された決算書に基づく)によると、営業黒字の事業者は44%、19年度版(2387社)では37%。6割が営業赤字だ。
 現在は原油価格の高騰などで厳しい経営環境が続いており、22年4~6月期の決算を見ても、大手でも減益を強いられているところがある。この状況がいつまで続くか不透明だが、24年4月からはドライバーの時間外労働の上限規制も加わる。廃業が増え、運び手が少なくなるほど実運送の価値は高まる。自社製品の配送に最終責任を持つ荷主に対し、運ぶ荷物(荷主)を選べる運送事業者の立場が好転することも考えられる。社内環境を整備して乗り切れば、光明が見えてくるかも知れない。
 ただ、経営が苦しい荷主も当然いる。荷主が標準的な運賃を支払いやすくなるような国の施策が必要かも知れない。特に深刻なのが、運んだ荷量で運賃が決まる従量制の根強い出版物流業界。出版不況で荷物は減り続けるが、人件費やトラックなどの固定費は増加傾向にあるからだ。
 東京都トラック協会出版・印刷・製本・取次専門部会の部会長を30年近く務める瀧澤賢司氏(72)は、荷主団体と例年開催している懇談会で「このままでは出版物物流は成り立たなくなる」と訴え続けてきた。しかし、出版、取次、書店・コンビニエンスストアなどステークホルダー(利害関係者)が多いこともあって改善は進まない。
 かつて七十数社だった会員は現在、二十数社。他業界の荷主へ転換していった。瀧澤氏は「最後の1社がいなくなってから『絶滅危惧種』に指定されるのだろうか」と皮肉る。
 踏ん張っているのは、複雑なオペレーションが求められることにやりがいを感じるとともに、文化に携わっているという誇りを持つ事業者。出版物物流部門の赤字は、不動産事業や他荷主の仕事の利益で補てんしているケースが多いという。
 瀧澤氏は「我々にも荷主にも選択肢は複数あり、振るえる『包丁』を皆が持っている。全体像を決めないまま、それぞれの思惑で包丁を振るえば物流網は崩壊する。24年問題についての議論が活発になっている今こそ話し合うべきだ」と提案する。

事業者減れば運賃上昇

 「24年問題は運送事業者にとって追い風」と言うのは、デジタル技術で運送事業者の業務と財務を「見える化」し、経営改善や荷主との交渉を支援するアセンド(新宿区)社長の日下瑞貴氏(32)。最優先事項に「競争環境の整備」を挙げる。
 同氏は「24年度の後半、時間外労働時間の上限規制を守らない(守れない)事業者が出てくるだろう。国は守らない事業者に対して罰則を確実に付さなければならない。脱法事業者、著しく低い運賃で請け負う事業者が生き残っているから業界は疲弊している。逸脱する事業者には退出してもらった方がいい。事業者が減り、需給ギャップが拡大すれば運賃は上がるはずだ」と見ている。
 一方、「運賃が大幅に上がり、中長期的に下がらない見込みならば、荷主は物流を内製化し、営業用貨物運送市場は縮小する」。日下氏が考える、運送事業者にとっての最悪のシナリオだ。
 最良のシナリオは、荷主に過度の負担を掛けない適正な運賃を収受して健全経営を確立し、インフラとして経済と暮らしを支え続けること。24年4月まで1年と半年余り。まだ間に合う。
=おわり





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