【2024年問題⑩】分業化で負担軽減へ/労働環境改善
2024年問題
2022/07/26 3:10
「2024年問題」でクリアしなければならない最大の課題は、労働時間の短縮だろう。トラック業界では車両による輸配送だけでなく、物流センターを構え、ドライバー以外の現業職を抱える企業も多いことから、分業化によりドライバーの負担軽減を図ろうとする動きが見られる。休日を増やしたり、福利厚生を充実させたりして、働きやすい環境を整えることも重要だ。業務慣習の変更など荷主を巻き込んだ対策も求められるが、荷主への強い責任感があだとなり、改革を阻む要因となるケースも出てきている。(特別取材班)
休日増やし働きやすく
ドライバー以外の庫内作業員などには、大企業は19年度から、中小企業では20年度から、労働基準法の一般則である「年720時間」の時間外労働規制が適用されている。そのため、倉庫部門などでは早くから時短が進められてきた。精密機械の保管・運送・据え付けなどを手掛ける三鷹運送(橋本幸明社長、東京都三鷹市)は18年10月から、社内業務の全行程を分解して再構築。誰でも従事可能な作業と、精密機械を扱うための教育が不可欠な専門作業に分割し、常態化していた長時間労働を解消した。
こうした取り組みをドライバーの時短にも生かそうとするケースは多い。重量物輸送を主力とする備福運送(小林政嗣社長、広島県福山市)は、積み込みと運転業務の分業化を進めている。専門技術が不可欠な重量物の積み込み、安全を確認する立ち会いの両業務には専従者をそれぞれ配置。運転と付帯業務を切り分け、時短とドライバーの肉体・精神面の負担軽減を図ろうとしている。ただ、これには荷主先での業務慣習を変える必要があり、顧客の理解が得られるよう交渉している段階という。
また、長くなる運行時間を分割する試みもある。アサヒロジスティクス(横塚元樹社長、さいたま市大宮区)は長距離輸送の中継ポイントとしても使える施設の整備を進めている。5月に開設した盛岡共配センター(岩手県滝沢市)は、仙台―青森の中継地としても活用。東日本エリアの輸配送で、よりきめ細かな対応を図りながら、運行時間の削減を進めたい考えだ。
改善基準告示を厳守する仕組みで対応しているのが菱木運送(菱木博一社長、千葉県八街市)だ。09年から、デジタルタコグラフを独自に改造。改善基準で求められる連続運転時間や最大拘束時間などの規制をカウントダウン方式で表示し、ドライバーがルールを守れる仕組みを構築した。
また、ドライバーの休日を増やす試みも有効だ。アサヒは22年度から基本給を下げず年間休日を6日増やし、計111日にした。また、休暇取得の障害になる「走るほど稼げる」体制から脱却するため、21年度に賃金体系を見直し、固定給の割合を増やした。備福運送ではドライバーの週休2日制の実現を目指し、数年前から傭車比率を上げている。以前は9割が自社輸送だったが、パートナー企業と関係を深め、今は4割以上を外部委託している。
更に、関東運輸(高瀬雅企社長、前橋市)が本社休憩棟の仮眠室をリニューアルするなど福利厚生を拡充する動きもある。ただ、中継拠点の設置や機器の導入も含め、こうした取り組みには費用が掛かる。ドライバー業務の分業化も、倉庫部門と異なり切り分けられる業務が少なく、人件費が増す恐れがある。休日を増やす取り組みも同様だ。ドライバーの労働環境を整えるためにも、適正な運賃の確保が求められる。
運転者 責任感で逆効果も…
一方、残業削減による給与減少以外の理由で、ドライバーが時短を拒むケースもある。北関東の運送事業者では、待機時間の長い工業品メーカーへ時短要請を出すことにドライバーが抵抗した。同社幹部は「荷主の無理を受け入れるのをサービスと教育したのがあだになった」と話す。
ドライバーは「あの荷主は元請けメーカーの無理な発注に対応しているため、荷待ちが長いのは仕方がない。待つのもサービスの一環だ」と時短を拒否。改善できなければ取引停止とした条件に「うち以外に頼れる運送屋がいない荷主を見捨てるのか」と態度を硬化させたという。
こうした事例について、三鷹運送の橋本社長は「ベテラン従業員ほど荷主への責任感が強く、作業工程の短縮を受け入れられない」と説明する。仕組みの単なる再構築だけでなく、新しい品質やサービスを従業員に納得させることも求められている。
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