【2024年問題⑨】「働きやすい設備」重視/物流施設
2024年問題
2022/07/22 2:50
荷物を保管する「倉庫」としての役割が大きかった物流施設は、2024年4月からのトラックドライバーの残業規制に対応できる拠点として機能させるため、先進的な設備の導入が重視されつつある。IT(情報技術)を活用したシステムや快適な休憩室、次世代型の運送網を受け入れるスペックを備えた施設はテナント企業のみならず、ドライバーの労働環境の改善につながる。そのため、ディベロッパーには多様なニーズをくみ取った開発が求められている。(園川萌子)
無機質なイメージ刷新
21年度の国土交通省の調査によると、1運行当たりの荷待ち時間は平均1時間34分。3時間を超える荷待ちも発生しており、ドライバーの労働時間を圧迫する要因となっている。
荷待ち時間削減のため、大和ハウス工業では、トラックの入場予約システムを採用。11月竣工予定の埼玉県宮代町の物流施設に導入し、ドライバーがバースの予約をウェブ上で行うことで、テナント企業は施設内作業や物資の移動計画が立てやすくなり、平均待機時間を従来の7割(59分)減らせるという。
日本GLP(帖佐義之社長、東京都港区)は、グループ会社モノフル(藤岡洋介社長、同)のトラック受け付け・予約サービス「トラック簿」を物流施設に導入し、待機時間短縮に貢献している。
また、物流業界は中高年層の男性の労働力に大きく依存しており、ドライバーの高齢化も進む。高齢者の退職を機に今後、労働力不足は更に深刻さを増すとみられている。このため無機質な物流施設のイメージを一新し、カフェテリアや休憩室、シャワー室などの福利厚生を充実させることで、ドライバーの雇用を若者や女性に広げる必要がある。
プロロジス(山田御酒会長兼CEO=最高経営責任者、千代田区)は、多くの物流施設でシャワー室をドライバーへ開放し、待機中に汗を流せるようにしている。17年にリニューアルした東京都大田区の物件では、利用者の声を反映して女性用トイレにパウダースペースを設けた。
更に、トラックに代わる輸送手段や、自動運転と言った最新技術への対応も欠かせない。大和ハウスは5月、日本貨物鉄道(JR貨物)と共同で、札幌市の貨物ターミナル駅内に物流施設「DPL札幌レールゲート」を竣工させた。トラック輸送と鉄道輸送をシームレスにつなぐことで、輸送効率を向上。大和ハウスの浦川竜哉・取締役常務執行役員は「2024年問題やモーダルシフトへの対応といった今後の物流業界の課題解決に重要な役割を果たす」と語る。
分散戦略 中継拠点として利用
完全自動運転トラックや後続車無人隊列走行、ダブル連結トラックの利用を視野に開発を進めるのが三菱地所だ。2月、日本初となる高速道路インターチェンジ(IC)直結型物流施設の開発計画を発表した。一般道に下りることなく、専用ランプウェーから施設に入れる仕様だ。26年完成予定のため、時間外労働規制の始まる24年度には間に合わないものの、課題解決の一手として注目されている。
一方、ヒト・モノが集まる首都圏など大都市近郊で開発されるケースが多い物流施設だが、24年問題の解決手段となる中継輸送拠点として機能させるため、地方での開発も進む。
プロロジスでは、物流施設の空白地だった北東北に進出。23年冬にも延べ床面積10万平方㍍の「プロロジスパーク盛岡」(PP盛岡、岩手県矢巾町)を完成させる。山田会長は「戦略の一つとして施設の分散を進めた。特に東北エリアは南北に長く、PP盛岡は24年問題に際して中継拠点となり得る」と強調する。
ただ、地方は物流マーケットや施設開発のニーズをつかみにくいといった面がある。その一方、EC(電子商取引)市場の拡大でラストワンマイル輸送の需要も増えることから、都市部ではラストワンマイルに特化した小規模施設の開発も目立つが、首都圏では施設の供給過多を指摘する声も多い。
山田氏は「ドライバーの働き方に関して、これまでディベロッパーが真剣に考えてこなかった面はあった。ただ、投資開発をする上で、迫り来る24年問題への対応は急務だ。戦略的に考えなければならない」と対応の重要性を示す。ディベロッパーは事業者の需要に基づき、立地戦略や労働環境整備を進めていくことが一層重要になる。
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