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物流とメディア/SNS、「炎上対策」研修が必須

その他

2024/01/26 15:52

 SNS(交流サイト)が普及し、誰でも簡単に情報を発信できる時代が到来した。人材確保などで有効に活用している物流事業者がある一方、使い方を誤ったり、外部の人の投稿により一部の悪行が大きく拡散され、業界全体のイメージダウンにつながるケースもある。物流事業者のSNS活用事例と、その際の注意点について考える。(特別取材班)

求職者、応募のきっかけに

 北日本重機(高橋和彦社長、岩手県北上市)は、2023年1月から画像・動画共有アプリ「インスタグラム」による発信をスタートさせた。これにより、11月中旬までに20~40代の若い世代が4人入社。インスタグラムを見てから面接に応募する人も多いという。
 高橋久美子常務は「社員の家族も見ているので、子どもに親の仕事を知ってもらえるのがうれしい。『家族を安心して送り出せる会社』という目標の達成にもつながる」とメリットを語る。また、動画のコメント欄に、荷主から「搬入ありがとうございました」などの投稿があり、顧客とのコミュニケーション強化にも寄与しているという。
 フジトランスポート(松岡弘晃社長、奈良市)は、動画投稿サイト「ユーチューブ」などでトラック関連の動画配信を行う「トラックユーチューバー」を男女ともに複数人抱えている。本業に支障のない範囲で副業を許可しており、企業の知名度向上に大きく貢献している。また、SNSのノウハウを生かした社内向けの動画を作成するなど、SNSを積極的に活用している。
 また、デザインにこだわったトラックを発信して若手人材の確保に成功しているトラック会社も多い。ユーチューブでは、車窓からの風景、サービスエリアなどでの「トラック飯」も人気で、業務の中で「映える」写真や動画を撮りやすい物流業界とSNSとの相性は良好と言えそうだ。
 物流事業者が活用しているSNSとして多いのは、短文投稿サイト「X(旧ツイッター)」、インスタグラム、動画投稿サイトの「ユーチューブ」「ティックトック」。利用している世代や適したアピールの方法がそれぞれ違うため、目標やターゲティングに沿ったSNSを選ぶことで訴求効果が高まる。
 SNSのフォロワーを増やすためには継続的な更新も必要だが、人員が限られた中小企業では、更新が続かない、運用に適した人材がいないという課題を抱えるところもある。
 平戸梱包運送(平戸伸和社長、神戸市中央区)はユーチューブで20年から配信していたが、ここ1年ほどで更新頻度をかなり減らしている。動画編集の外部委託で費用がかさんだこともあるが、テーマを見つけるのが難しかったのも大きい。現場目線の配信を目指したが、内気な性格の社員が多いため積極的な参加を促し切れず、ネタ不足に陥ったという。動画の参加者は平戸社長が中心だった。
 平戸氏は「日々の業務を動画で使うには顧客、荷主の同意が必要になる。その都度許諾を取らなければならず、手間になっていた部分もある。ただ、若い求職者のほとんどはスマートフォンやSNSを利用しており、こうした媒体で訴えていくことは不可欠だと考えている」と話す。
 動画配信での反省を踏まえ、全社員にSNS活用の意義を説明するとともに、肖像権に関する同意書など社内的な整備を進めている。「参加を嫌がる社員へ強制しないのはもちろんだが、社員に自ら加わってもらえるように持っていきたい」
 北日本重機の髙橋常務も「これまで、真冬に重機を積み上げている躍動感のある現場の様子や、現役の先輩ドライバーの声などの動画を上げてきた。今後も頻繁に更新したい気持ちはあるが、なかなかネタが見つからない」と漏らす。

「いつでも晒される」危険

 また、多くの企業が恐れているのが、悪評として拡散される「炎上」のリスクだ。交通違反のトラックを捉えたドライブレコーダーの映像が、社名やナンバー入りでSNSに投稿され、コメントで批判の的となっているケースを目にすることがある。Gマーク(安全性優良事業所認定)のシールを貼って信号を無視するトラックの姿もアップされた。関西国際空港で荷物を放り投げる物流企業の作業員の動画が拡散され、テレビなどで大きく扱われたこともあった。
 こういった行為はごく一部に限られるものの、一部の悪評が業界全体の評価につながる可能性がある。更に、悪意はなくても、一部の場面を切り取って断罪される危険性もある。
 大阪府のある運送会社の社長は「サービスエリアで駐車する場所がなく、どうしても我慢できずにトイレに行くためだけに乗用車のスペースにトラックを止めていた写真がSNSに投稿され、炎上した。社名やナンバーも出ていたのでクレームの電話が多数入り、業務に支障が出た」と振り返る。
 ドラレコの普及に加え、スマホのカメラ機能が年々向上し、遠くからでも鮮明な動画を撮影可能になっている。個人情報を晒(さら)す側にも非はあるが、SNSで誰もが情報を発信できるようになったこの時代、「いつでも録られているし、発信される」という意識でコンプライアンス(法令順守)を徹底することが更に求められそうだ。

ルール化「社員を守る盾」に

 対策として、社内ルールの設定やSNSについての教育が挙げられる。フジトランスポートでは、新入社員研修の中で、SNSを使用する場合の注意点を説明する研修会を実施。顧客は撮影しない、会社に関する事を発信する場合は管理規程に従い発信を行う、といった内容を説明している。
 北日本重機の髙橋氏も「自社の社員であっても、動画に映っていれば載せてもいいか必ず確認している。更に、背景や一緒に映っている物などに問題がないかも必ずチェックし、背景をぼかすなどの工夫もしている。現場での作業動画であれば、荷主への確認はもちろん欠かさない。載せていいか判断に迷う時は専門家に相談し、アドバイスを受けた上で載せている」という。
 他にも、「個人のアカウントで社名を公表しない」「詳細な業務内容を書かない」などの対策が有効だろう。
 SNSで情報共有が便利になった半面、社員がSNSで「悪目立ち」した場合、会社も大きな痛手を受けることになる。拡散された動画で社名入りの制服を着ていなくても、それまでの投稿内容から名前や住所、会社名まで特定されてしまう。SNSの影響力を矛として強力かつ無料のブランディングの手段として利用しつつも、ネットリテラシーについての研修を実施したり、ルールを設定したりといった対策を講じ、会社と社員を守るための盾を用意しておくことが重要になりそうだ。

北日本重機のインスタグラムの投稿

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