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<羅針盤>日本総合研究所 アソシエイトディレクタ 段野孝一郎 顕在化するインフラ老朽化 民間とICT 対策のカギ

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2015/04/20 0:00

 我が国は、世界でもまれに見るほど高度かつ高密度に整備されたインフラ網を背景にして、高い経済成長と安全・安心・快適な暮らしを享受してきた。しかし、その足元を支えてきたインフラが今、転換期を迎えようとしている。  我が国のインフラは、東京五輪(1964年)前後に整備されたものが大半を占めており、20年以内に、建築後50年以上経過した社会資本の割合が50%以上を占めるようになる――と試算されている。  物流業界にとって最も重要なインフラの一つである道路に注目すると、我が国には15メートル以上の道路橋が約15.5万橋存在し、うち築50年以上の橋梁(きょうりょう)は約8%となっている。しかし、この割合が、10年後には26%、20年後には53%に増加する――と見込まれている。橋梁の劣化は現在も進行中であり、損傷・劣化などにより通行規制を行っている橋梁(地方管理15メートル以上)は、2008年に680あったが、11年には1129に増加しており、インフラ老朽化による影響は大きい――と言えよう。  我が国の公共投資は、1995年度の42兆円をピークに、ほぼ一貫して減少傾向が続いている。2009年度の公共投資額は21兆円であり、この15年間で21兆円も公共投資が削減されたことになる。GDP(国内総生産)に占める割合も、この間に8.4%から4.5%へ低下した。この背景には、GDP比率で180%超にも達する我が国の債務残高の存在があり、今後、公共投資分野において大幅な支出増を期待することは難しいだろう。  他方、地域ごとにインフラ維持管理を担う地方自治体においても、インフラ分野への投資余力は減少してきている。経常収支比率(使途が特定されておらず、毎年度経常的に収入される財源のうち、人件費、公債費のように毎年度経常的に支出される経費が占める割合)は、ここ数年95%弱で高止まりしている。すなわち、地方自治体が自らの裁量で使える財源には限界があり、インフラの更新が必要であることは認識していても、そのための資金手当てが困難な状況だ。  国土交通省では、同省所管の社会資本8分野(道路、港湾、空港、公共賃貸住宅、下水道、都市公園、治水、海岸)を対象に、60年度までの維持管理・更新費用を推計している。従来通りの維持管理費用の支出を継続するシナリオでは、37年度には投資可能費用を維持管理・更新費用が上回り、最終的に更新が必要なストックのうち約19%(約30兆円)が手付かずになる――と試算している。先進的な予防保全を全国で実施するシナリオでも、47年には投資可能費用を維持管理・更新費用が上回り、約3%(約6兆円)のストックが手付かずになる――と試算されている。  従って、まず手掛けるべき業務は予防保全の徹底である。実際の業務は地方自治体が担うことから、当該業務に対する資金供与の多様化やガイドライン整備などが必要となろう。また、既存施設の保全が優先される一方で、真に必要な新規建設においては、国や政令市が関与して民間資金の投資に足る事業スキームを構築するなどの施策も必要になるだろう。  海外では、米ミネソタ州における橋梁崩落事故(07年)、同メリーランド州の水道管破裂事故(08年)など、インフラに物理的な損傷が発生し、本来の機能提供が困難になる「フィジカル・クライシス」が頻発している。老朽化した社会資本を抱える我が国にとっても、対岸の火事ではない。  社会資本の維持管理には予防保全が最も有効であるが、全国の市区町村の約4分の1(23%)が、予防保全に必要な橋梁の点検を実施していない。点検を実施していない主な理由は、予算が確保できないこと(62%)と技術力の不足(65%)である。地方財政の逼迫(ひっぱく)による予算と職員の削減が、社会資本の維持管理にも影響しているのだ。  地方自治体の財政力、技術力が低下している中、橋梁の適切な維持管理を行っていくためには、民間との大胆な連携が必要となるだろう。具体的には、技術力を持った民間企業(または企業連合体)が、複数の地方自治体から、点検・修繕計画策定・工事発注に至る一連の維持管理業務を包括受託するスキームが考えられる。現在の制度上、橋梁の修繕計画など行政判断を伴う業務を民間企業が行うことは難しく、また発注側と施工側を厳密に切り分ける必要もあり、実現には様々な課題がある。しかし、海外においては、社会資本の維持管理と管理監督業務を一括して民間企業に委託する形態も存在する(英国Management Agent Contract=MAC契約など)。我が国でも、社会資本の維持管理分野の民間開放は決して不可能でない――と考えられる。  国交省はインフラ老朽化対策として、①総点検・修繕②維持管理の基準・マニュアルの改善・明確化③維持管理情報のプラットホーム構築④新技術導入、既存技術の横断的活用⑤地方公共団体への支援⑥維持管理等の担い手支援⑦体制・法令等の整備⑧長寿命化計画の推進――を進めている。この中でも③、④に関連して、非破壊検査技術の開発・導入・普及、モービルマッピングシステムによる効率化、IT(情報技術)などを活用したインフラモニタリングシステムの構築、維持管理・更新情報等のプラットホームの構築を進めている。ITなどを活用したインフラモニタリングシステムについては、東京ゲートブリッジにセンサーを貼り付け、挙動をモニタリングする実証などを始めており、その成果に注目が集まっている。  我が国のインフラ、とりわけ道路インフラについては、老朽化による影響が顕在化しつつある中、維持管理・予防保全の在り方も見直しを迫られている。この中でとりわけ重要となるテーマが、維持管理の担い手の創出、低コストでの維持管理を可能とするためのICT(情報通信技術)活用である。  歴史をひもとけば、道路が社会の公共財として、国や自治体による維持管理がなされるようになったのは近代以降である。日本には、昔から「道普請(みちぶしん)」の精神で住民が協力し合い、道路や橋などの生活基盤を維持管理してきた歴史がある。今後のインフラ老朽化対策に求められる考えは、「道普請」の精神に基づく担い手の育成ではないだろうか。  この観点に立つと、物流業界による貢献可能性、物流業界にとっての新たな事業機会が見えてくる。例えば、国や自治体と協力し、既存の車両にセンサーを導入してマッピングビークルとして活用する、道路の破損や老朽化に関する情報を収集して業界横断的に共有する――という取り組みが考えられよう。  物流業界は、これまでは道路など社会インフラの一大ユーザーとして、高度に整備されたインフラ網の恩恵を享受してきた。今後のインフラ老朽化による影響は、ひとごとでは済まされない。改めて、物流業界にとっての「道普請」の在り方を考えてはどうだろうか。  だんの・こういちろう 京都大学大学院工学研究科修士課程修了。日本総合研究所で、環境・エネルギー、通信・ICT、交通、資源・水ビジネスなどの社会インフラを領域とした事業戦略・マーケティング戦略に関するコンサルティングを行っている。





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