荷主への規制的措置導入、「共同責任者」自覚を 協力体制構築 最初の関門
団体
行政
2024/04/12 3:00
ドライバーへの時間外労働の上限規制が1日から適用された。「2024年問題」に対応するため、官民を挙げて物流改善の取り組みを加速度的に進めてきたが、着荷主も含めた荷主に対し、物流負荷軽減の規制的措置を導入する物流総合効率化法の改正案を通常国会に提出したことは特に画期的だ。成立後1、2年で措置が施行されるが、荷主事業者・団体が物流の「共同責任者」であることを自覚し、トラック運送事業者との協力体制を構築できるかが、30年代までの「物流改新」実現の最初の関門となる。(田中信也、矢野孝明)
経産省 持続可能な物流を検討
「物流危機」が強く訴えられるようになったのはここ最近だが、物流2法施行に伴う規制緩和で事業者数が徐々に増え、トラック業界は既に20年以上前から厳しい状況にあった。過当競争にもかかわらず市場規模が横ばいのため、他産業に比べ「労働時間が2割長く、賃金水準が1割低い」局面でも危機が明るみにならなかったのは、「どうにかこうにかドライバーを確保できていた」からだ。
だが、少子高齢化の進展に加え、終戦後の第1次ベビーブームに生まれた、団塊世代が相次ぎリタイアし、労働人口の減少が加速。一方、EC(電子商取引)市場の拡大で宅配便需要が急増し、「物が運べなくなる」ことが現実味を帯びてきたことにより、危機が共有されるようになった。
経済産業省商務・サービスグループの中野剛志物流企画室長は「90年代後半以降、物流コストはデフレ状態となった。しかし、2003年をピークに供給量は減少の一途をたどり、10年代に入り需要が供給を上回る物流コストのインフレ状態となり、これまでの経営戦略が通用しなくなった」と指摘する。
こうした危機感から、経産省は「政府レベルでは恐らく世界初」のフィジカルインターネット(PI)のロードマップ(行程表)策定を推進。国土交通省などとの持続可能な物流に向けた検討も主導し、着荷主を含めた荷主に対する規制の方向性を打ち出した。
自主計画・法改正が両輪
この方向性は、23年6月に政府が策定した「物流革新に向けた政策パッケージ」にそのまま反映された。まずは、業界団体・大手企業に対して荷待ち・荷役時間の削減、積載効率向上に関する自主行動計画の策定・公表を求めた。
3月22日時点で、132団体・事業者が策定。日本鉄鋼連盟(広瀬政之会長)は、着荷主であるユーザー団体と、発荷主側のサプライヤー(供給者)団体、輸送事業者との間で課題の洗い出しを行い、3者連携で課題解決を図ることを明記している。石油連盟(木藤俊一会長)では、燃料油の納入先であるサービスステーションとの間の計画配送を事前通知。これにより、荷待ち時間を短縮するほか、「バーター取引や出荷基地の共同利用の推進による積載率の向上を図る」としている。
着荷主側からも、日本チェーンストア協会(三枝富博会長)は、店舗の荷待ち・荷役作業時間の独自目標として「1時間以内ルール」を設定するなど意欲的な計画が公表されている。
もう一つ、政策パッケージで荷主向けの目玉施策として打ち出された物流負荷軽減に向けた規制的措置の導入は、物流総合効率化法の改正案として通常国会に提出。3月22日に審議入りしており、近く可決、成立する見通しだ。
発・着荷主と物流事業者に物流効率化に向け取り組むべき措置(荷待ち時間の短縮、荷役作業の軽減など)を規定し、努力義務を課す。その上で、主務大臣が判断基準を策定するとともに、取り組み状況を踏まえて指導・助言。大手荷主・物流事業者(特定事業者)には中長期的計画の策定が義務付けられ、違反した場合、最高100万円の罰金などが科せられる。
オタフクソース(佐々木孝富社長、広島市西区)は、各拠点でトラックの待機時間が2時間を超えていないか調査し、グループの製造・販売・物流の全体会議で情報を共有している。荷役料金についても契約内容を改めて確認し、パートナー企業や納品先とも協議しながら、必要があれば見直していく構えだ。
また、事業者からの運賃値上げの要請が5年ほど前から続いており、高速道路通行料金や燃料サーチャージ制の負担を含め、物流コストは毎年2%近く上昇している。このため、自社製品の共同配送や物流拠点の在庫を増やすなど、効率化や合理化に努めている。
このような荷主による物流改善の取り組みが進んでいることについて、中野氏は「(荷主も)物流が我が事になってきたのではないか」としている。ただ、業界団体が行動計画を策定・公表したからといって、その業界に属する全ての事業者に周知が図られ、かつ対応してくれる保証はない。
「関係者相互連携」基本に
改正物効法案では冒頭、「物流は国民生活及び経済活動の基盤であり、生産・製造者、流通の担い手といった関係者が相互連携を図ること」を基本理念に掲げている。物流に対する共同責任を負っていることを荷主は自覚しなければならない。
一方、トラック事業者は荷主の圧力に屈することなく、真っ向から理解を求め続けることが必要だ。
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