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【2024年問題⑫】受け入れの是非検討を/外国人ドライバー

2024年問題

2022/08/02 3:00

 少子高齢化による人口減少が避けられない中、トラック運送業界はドライバーの新規獲得に頭を悩ませている。新規学卒者など若年層の採用が厳しさを増す中、女性・高齢者の活躍などにも活路を求めているが、外国人労働者の受け入れも視野に入れるべきとの意見は根強い。ただ、在留資格のドライバー職への緩和や、トラック業界内の合意形成など課題は山積している。(特別取材班)

「在留資格緩和」課題

 「営業用トラックドライバーが2025年に20万8千人、28年には27万8千人が不足」。鉄道貨物協会(瀬山正理事長)が19年に発表した報告書は、トラック業界のみならず多くの利害関係者に衝撃を与えた。
 「2024年問題」の中でも、最も深刻かつ難易度が高い問題に対応するため、トラック業界や関係省庁は労働条件の改善に加えて女性・高齢者が活躍できる社会環境の整備、大・中型免許の受験資格緩和による若年層の就業拡大など様々な取り組みを推進。ただ、いずれも決定力に欠ける感は否めない。
 「ドライバー不足で近い将来、トラック事業の使命が果たせなくなる。『一手の遅れは千手の遅れ』。そろそろ総論は卒業し、各論を探究しなければならない」――。かねて外国人ドライバーの活用を提唱してきた熊本県トラック協会の住永豊武会長は、全日本トラック協会(坂本克己会長)に対し、早急に検討するよう訴えている。
 全ト協も「セーフティーネットの観点で外国人活用を検討する必要はある」(藤原利雄前常務)との姿勢だが、外国人の在留資格緩和に対して慎重な意見が少なくなく、検討は停滞している。
 現行の在留資格のうち現場の労働力として期待できる「技能実習制度」「特定技能」ともに「ドライバー」は対象に含まれていない。こうした中、自民党政務調査会の外国人労働者特別委員会(片山さつき委員長)は「運輸(トラック運送)」を対象拡大職種の候補に挙げている。21年に行った業界へのヒアリングで、全ト協は運転、荷役、庫内作業などを包含する「道路貨物運送」を技能実習、高度な運転技能が求められるトレーラなど大型車両のドライバーを特定技能とする「2本立て」での認定を視野に入れるべき――と主張した。
 ただ、技能実習制度を巡るトラブルが頻発し、入管法の在り方も問題視されている。こうした中、法務省が特定技能・技能実習制度に関する勉強会を22年1月に設置。これを受け、自民特委の検討も棚上げ状態となった。「勉強会の結論を踏まえ、是非を含め検討を再始動することになる」(藤原氏)とみている。

価値観近い国や大手から

 事業経営の現場はどう考えているか。大原運送(和歌山県紀の川市)の大原伸規社長は「日本語を話すことができれば問題ない」として在留資格の緩和に賛同。「外国人を本格的に採用する場合、勤勉で真面目な価値観を持つ国から始めるとスムーズに進む」としている。
 現行法でも、日本人の配偶者を持つ外国人は就労制限を受けない。道前運送(森川公社長、愛媛県西条市)は10年ほど前、日本人と結婚して永住権を得ていたザンビア人男性を雇用し、大型車での集配業務に5年ほど従事してもらったことがあった。会話能力は片言程度で、漢字の判読が困難といった支障もあったが、勤務態度は真面目だったという。安全運転に徹して無事故を続けていたものの、家庭の事情により転居、退職することになった。
 こうした経験を踏まえ、森川社長は「商習慣の違いや日常のやり取りで違和感を覚えることはあるかも知れないが、日本人同士でも世代が違えばギャップがあるし、おかしな人もいる。外国人の雇用には基本的に賛成で、まずは、海外進出し異文化を受け入れやすい大手から採用を進めてはどうか」と指摘している。
 熊ト協の住永会長は「EU(欧州連合)、米国のドライバー職は高い技能と知識が求められている。熊ト協では、受け入れ機関の機能・資格の確保、教育・訓練など多角的な検討を行っている」と強調。全ト協も、運行管理者への登用も視野に特定技能を「本命」に見据える。
 人口減少で物流市場が縮小する可能性も指摘されるが、EC(電子商取引)市場の成長は続くとみられ、ドライバーの減少に歯止めが掛からなければ、「運びたくても運べない」危機が現実になる。外国人活用の是非を問う本気の議論に向け、機は熟したのではないか。

今後の鉄道物流の在り方に関する検討会の会合で中間取りまとめとして決定(7月28日)




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