【インタビュー】コロナ収束後のトラ業界 立教大教授 首藤 若菜氏
その他
働き方改革
2022/01/03 4:00
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2021年12月17日付 1面
団体戦で商慣行転換を
新型コロナウイルスの感染状況は落ち着きを見せており、新型株が拡大する懸念はあるものの、収束を見据えた取り組みが求められつつある。他業種に比べ新型コロナの影響を比較的小さく抑えられたトラック運送業界だが、ドライバーの労働条件の是正や運賃の適正化といったコロナ禍前からの懸案を多く抱えている。立教大学経済学部の首藤若菜教授は「労働環境改善の機運を再び盛り上げることができるのか」と疑問を投げかけるとともに、行き過ぎた物流効率化の議論に警鐘を鳴らす。(田中信也)
もう荷主側の都合で動けぬ
――コロナ下でトラック運送業界の労働環境に影響はあったか。
コロナ前に高まっていた「物流危機」の解消に向けた労働環境改善の意識が吹っ飛んでしまった。特に、運賃上げの機運が盛り上がりつつあったのが、停滞してしまった。
――アフターコロナを見据え必要な取り組みは。
ドライバーの労働環境改善の機運を再び盛り上げることができるのか。賃金を上げるにはまず運賃上げで、標準的な運賃告示に基づき、荷主との交渉を進めることが重要となる。
気になるのが、技術革新による物流効率化の取り組みだ。政府がデジタル化の旗を振る中、重要な政策だと思うものの、こうした施策による物流の効率化が果たして労働環境の改善につながるのか。必要な荷物がどこにあって、これを運ぶことができるドライバーや車両がどこにいるかといった情報を把握し、積載率の向上、荷物の集約につなげる――という仕組みの構築は素晴らしい。ただ、労働者側からみると、配送先や積載量が一定ではないことで負担が増加する。
効率化、別の非効率を生む
――DX(デジタルトランスフォーメーション)は、非接触・非対面型の新しい生活様式として推進している面もあり、新型コロナの影響ともいえる。
荷主や消費者にとっては効率化で利益をもたらすかも知れないが、トラック事業者にとっては安値競争の側面が強まる恐れがある。実際、運賃の値崩れにつながるからと、求貨求車システムに参加せず、以前からの横のつながりを重視する事業者もいる。また、トラック予約受け付けシステムでは、前の搬入先の業務が早く終わっても、受付時間を変更できないため、どこか別の場所で待機するしかなく、「荷待ち」ならぬ「予約待ち」を強いられるという、「効率化した結果、別の非効率が生じる」矛盾を指摘する声もある。
DXやフィジカルインターネット(PI)を前提とした物流効率化の議論が進んでいることに大きな違和感を感じている。このままでは荷主主導で効率化が進み、トラックの事業者やドライバーが置いてけぼりになる可能性が高い。どんな最新技術でも、労働者に適正な賃金、労働条件を確保するという仕組みは変わらない。そこを加味した議論が必要だ。
――個人事業主のドライバーが多い欧米の仕組みを日本でそのまま導入するのは無理がある。
効率化や生産性の向上といった議論になると、ドライバーの賃金や労働時間の話が置き去りにされがちだ。労働集約型のトラック業界で、長時間労働改善の問題は避けて通れない。
コロナ下の景気低迷で長時間労働の問題が影を潜めたが、景気が回復するとまた問題がぶり返すことは歴史が証明している。コロナ禍が収束する前の段階で改善に向けた取り組みを進めなければならないが、(委員として参加している)厚生労働省の専門委員会での改善基準告示見直しの検討も着地点が見えない。
――労使代表の委員の見解に溝がある。
労働時間を短くしないことには業界が良い方向に向かうことはない。「もう荷主側の都合では動けない」というメッセージを発し、商慣行の転換につなげるべき。それには個々の事業者ではなく、団体戦で取り組む必要がある。トラック協会の役割は大きいのではないか。