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【スペシャル】交付金法制化10年 労組系議員の理解が力

団体

行政

2022/01/01 4:00

年末年始特別本紙ピックアップ

2021年8月24日付 終面

 10年前に成立した運輸事業の振興の助成に関する法律(運輸事業振興助成法)は、民主党政権下でなければ実現していなかったといわれる。もちろん、政党を超えた多くの関係者の協力があったからこそ、みんなの党を除く与野党の賛成で成就した。当時の民主党には多くの労働組合出身議員がいて、とりわけ全国自治体労働組合(自治労)や日本教職員組合(日教組)を母体とする国会議員らの同法案への理解は、大きな力となった。舞台裏を追った。=2021年8月24日1面参照、肩書は当時(北原秀紀、田中信也、小菓史和)

地方分権一括法で危機

 自治省(現総務省)事務次官通達を根拠とする交付金制度は、地方分権一括法により、大きな危機を迎えた。同法により国が地方自治体の財政に口出しできなくなったからだ。交付金額の削減は、ピーク時には23府県にまで及んだ。交付金をできれば給付したくない知事たちは、支給を努力義務とする運輸事業振興助成法案に喜んで賛同するわけはない。
 また、トラックやバスを所管する国土交通省は、同法の成立に向け奔走する全日本トラック協会をはじめとする業界関係者に協力することはなかった。当時を知る関係者は「高みの見物で、お手並み拝見というスタンスだった」と振り返る。
 では、行政の協力もなく、地方分権一括法で国の関与がなくなり喜んでいた都道府県知事が立ちはだかる中、なぜ運輸事業振興助成法は成立できたのか――。
 当時の民主党政権下では小沢一郎氏率いる幹事長室が絶大な権限を握っていた。党の力が政府を上回る、いわゆる「党高政低」である。税制・財政を仕切っていたのは、中野寛成氏が会長を務めていた党税制調査会だ。同党トラック議員連盟会長となる奥村展三氏は小沢氏と親しく、地元滋賀でトラック運送事業を経営。全ト協副会長だった坂本克己氏は、大阪府が地盤の中野氏はじめ、多くの民主党議員と親交があった。
 筆頭副幹事長だった高島良充氏も坂本氏と同じ大阪府の出身で、自治労や日本労働組合総連合(連合)のトップを務めた。民主党参院会長だった輿石東氏は山梨県教職員組合委員長から政界に入った。全ト協会長の中西英一郎氏や坂本氏ら首脳は、運輸・交通系だけでなく、こうした幅広い労組系出身の議員にも法案の説明を行い、理解を求め、賛同を得た。
 トラック業界を重要視した小沢氏は全ト協も訪問。同氏の仲介で企業団体委員長だった細野豪志衆院議員との折衝では、中西氏の父親(正道氏)の出身地が細野氏と同じ滋賀県近江八幡市だったことで打ち解けたことも寄与した。
 大きな後ろ盾となったのが高島氏や輿石氏ら自治労、日教組の出身議員。両労組は各自治体の首長には大きな影響力を持っている。民主党主導で成立を目指す運輸事業振興助成法案に、知事たちも正面切って反対を唱えるのは難しい。
 そんな中、鳥取県知事時代に交付金制度に異議を唱え、地方分権一括法を主導した片山善博氏が民間から総務相に登用された。真っ先に交付金額の削減に踏み切った片山氏は通達を根拠とする交付金制度には反対したが、「根拠が必要」という立場で早い段階で法制化には賛意を示していたことも大きい。

「建て付けをよくすべき」

 民主党政権で目玉政策となった事業仕分けで、民間団体の事業で唯一、トラックの交付金制度が対象となった。事業仕分けのトップを務めた枝野幸男行政刷新相は、交付金が事業仕分けの対象になった時、「建て付けが悪い」と指摘するとともに、「法制化して建て付けを良くすべき」と発言した。これが法制化のブースターとなったが、この発言は、幹事長室を通じての全ト協によるロビー活動が動機付けになったようだ。

事業仕分けの際に枝野行政刷新相が交付金制度について「法制化して建て付けを良くすべき」と主張(10年)


 民主党内の足固めを進めていく中、法案の審議に向けた最後の難関が衆院の総務委員会及び同党政策調査会総務部門会議のボードメンバーへの調整だった。当時、衆院総務委の筆頭理事を務め、後に野田佳彦内閣で総務大臣政務官に就く稲見哲男氏は、大阪市職員組合時代に坂本氏と親交があったことから、賛否の分かれるつわものぞろいの総務委で、調整役として貢献し、合意形成に努めた。その結果、当初目指した法案に「交付の義務化」を盛り込むことは断念したものの「努力義務規定」で決着。法案成立後は、総務政務官として交付金を減額していた知事に満額交付を呼び掛けてくれた。
 下野していた自民党で「最も理解していただいた」(坂本氏)のが自民党トラック輸送振興議員連盟会長の古賀誠衆院議員だ。坂本氏とは昵懇の仲で、紹介された運輸省OBの赤沢亮正衆院議員と法案をすり合わせた。野党とはいえ、自民党の協力がなければ、ほぼ全会一致での円滑な成立に至らなかったといえる。
 こうした人とのつながりや交流、全ト協首脳の必死の交渉といった舞台裏があって、知事たちから強い反対もなく、野党だった自民党の協力も取り付けて法案成立が成就したのである。
 全ト協は交付金の使途の一つに、トラックドライバーの待遇改善を含め労働環境改善を挙げている。それは「現場で汗を流すドライバーへの思い」をことあるごとに口にする坂本氏の基本スタンスと、労組系をはじめとする国会議員の同法成立への協力が背景にある。

東ト協 2年間受給できず

 運輸事業振興助成交付金は1976年度に制度化されたが、一部のトラック協会では様々な困難を抱えた。制度スタートから2年間受給できなかった東京都、一時交付額ゼロを経験し、今も減額が続く大阪府が代表例だ。どういう背景や経緯があったのか、振り返ってみる。
 東京都は76年当時、美濃部亮吉知事の革新都政。都は、国から地方自治体に支払われる地方交付税の唯一の対象外で、当時は財政難だった。トラック協会に支払う交付金は一般財源からの持ち出しとなることなどから、都は交付に難色を示した。
 東京都トラック協会の鈴木元徳会長らは交付金運営委員会を組織し、副知事や都市計画局長に陳情を行った。都もこれに対し、同局長の諮問機関として運輸事業対策検討委員会を設置。座長の東洋大学教授を含む有識者4人で構成。10回にわたる会合の結果、77年10月に「都の意向に沿う事業内容にのみ交付金を認めるという基本姿勢を明確にすべき」という内容の答申をまとめた。
 答申には①交通問題の解決と都民生活の利便性、安全性の向上に役立つ目的でトラック・バス事業者が行う事業の補助事業として実施②財源は貴重な一般財源を割愛することになる以上、都民が十分理解、納得し、公正に実施③都は自治・運輸両省の通達趣旨を参考にするとしても、基本的には独自の立場で実施――などが盛り込まれた。
 こうした経緯を経て、78年4月に2年度分として23億6080万円を給付した。しかし、実施計画の策定や基金などの管理を行うのは「東京都助成金事業運用委員会」で、使途や基金の在り方などに都の厳しい監視の目が注がれた。委員には都、東京陸運局(現関東運輸局)の関係者や学識経験者、更には労働組合、東ト協首脳、事業者の代表らが選ばれた。後に東ト協会長、全ト協会長を務める浅井時郎氏や当時ヤマト運輸社長だった小倉昌男氏も入っていた。
 東ト協は76、77年の2年間の暫定措置だった交付金を3年目にしてようやく手にしたのである。

大阪ト協 異例のゼロ査定

 一方、大阪府では2008年に就任した橋下徹知事が「財政再建プログラム案」を打ち出し、支出の大幅な見直しを断行。この中には大阪府トラック協会などに対する運輸事業振興助成交付金も含まれた。
 10年度予算の編成に当たり、橋下氏は府庁舎に大阪ト協の大和健司会長をはじめ、坂本克己、辻卓史の両副会長らを呼び出し、テレビクルーが待ち構える中で、算定式に基づく交付額の7割カットを一方的に通告、業界団体への助成カットを大々的にアピールした。事前に取材を知らされていなかった大阪ト協幹部は、大いに面食らったという。
 橋下氏は、算定式通りの交付を求める大阪ト協の要請を「一つの制度に基づき、そのまま一斉に予算が執行されると各事業の精査が甘くなる。(減額は)財政管理を府の方針に従って査定するように指示した結果」と一蹴。翌11年度には異例の「ゼロ査定」とした。
 大幅な減額は11年の「運輸事業振興助成法」の成立以後も続き、大阪ト協の財政を圧迫。府は交付金の額を独自に算定する根拠として「大阪府運輸事業振興助成補助金交付要綱」を12年に制定。交通安全、環境対策、府民の利便性向上、緊急輸送体制の整備など、府が補助対象と認める事業について細かく規定、現在もこれに基づいて予算編成している。
 その後、粘り強い働き掛けにより、安全対策や緊急輸送体制の整備といった項目で少しずつ増額され、21年度は算定式の42.2%カットまで回復したものの、「府が使途に関与できない」という理由で中央出捐金分は全額カットされるなど、満額交付には至っていない状況にある。大阪ト協では、独自財源から予算を補てん、出捐金を拠出するという厳しい運営が続いている。


最大23府県が減額

 運輸事業振興助成金制度が誕生して45年になり、念願の法制化から10年を迎える。う余曲折を経て現在の姿に落ち着いている同制度について、これまでの変遷をたどりながら解説する。
 Q 交付金は軽油引取税の値上げの際に1976年に制度化されたが、業界に対する「還付金」との位置付けだったのか。
 A 76年に軽油引取税の30%値上げの際に設けられた制度で、還付金という性格を持っていた。このような制度ができたのは、トラック、バスの事業の持つ「公共性」に対する評価が基本にあるが、軽油の値上がりによる過重な負担の問題点を指摘し、「還付金制度」の創設に向けて活動した当時の関係者の努力もあった。
 しかしその後、軽油引取税が道路特定財源ではなく、2011年8月に成立した運輸事業振興助成法で、交付金の経費が都道府県の基準財政需要額に算入されることになり、「還付金」との性格はなくなった。現在はトラック事業の公共性に着目して都道府県の一般財源(国民全体の税金)から支出される助成交付金と位置付けられるようになった。
 Q 04年に鳥取県は交付根拠が脆弱との理由から、交付金の一部削減に踏み切り、以降、運輸事業振興助成法が制定されるまでの間に最大23府県が減額される事態となったが、なぜか。
 A 交付金制度ができて以来、都道府県が支出する根拠は「自治省(現総務省)事務次官通達」だった。その後、地方自治体の拡大充実を目指す観点から、00年にいわゆる「地方分権一括法」が施行された。この法律により、法律的な根拠を持たない次官通達など国からの指示などで都道府県の支出を左右することは否定されることになった。
 したがって、この地方分権一括法成立以降、トラック事業に対する助成をどうするかは、各自治体の判断に任されることになった。その結果、最大でほぼ半数の自治体が一部削減に踏み切った。


 Q 運輸事業振興助成法の立法化は奇跡的だと当時、政界や官界では注目を集めたが、なぜ成立できたのか。
 A 交付金の削減という状況を変えるためには、地方分権一括法と同列に並ぶ「法律という形」で交付金制度を位置付ける必要があった。トラック協会でも何らかの形で「法的根拠」をつくらなければならないと関係者に働き掛けをしていた。
 そんな時、民主党のいわゆる「事業仕分け」が行われ、交付金制度は「建て付けが悪い。透明性を確保するべきだ」と指摘された。その後、業界トップらが奮闘。10年12月の11年度税制改正大綱で「交付金制度の透明性を図るとともに、交付基準額の確実な交付を確保するため、法整備等を受け所要の措置を講じること」と、交付金の「法的根拠」についての方向性が示されるに至った。
 この大綱の指摘を受け止める形で、永田町や霞が関から見て特例的ともいえる法律が成立。交付金制度に「法的根拠」が与えられることになった。実現できたのは全ト協首脳らの努力、国会議員など関係者の協力があってこそだが、やはり根本にはトラック事業の公共性に対する社会の理解があったことが大きいといえる。
 Q 新型コロナウイルス禍で都道府県でも財政が逼迫してきているといわれる。この状況下でも交付金は減額されることはないのか。
 A 法制化により、交付金の経費は、国から都道府県に交付される地方交付税の額の算定に用いる「基準財政需要額」に算入されることになっており、法的根拠のある仕組みとなっている。
 ただ、法律では、「都道府県は(中略)交付するよう努めなければならない」と規定され、厳格な意味での法的義務ではなく、いわゆる都道府県の努力規定となっている。
 コロナ禍でトラック事業の持つ「ライフラインの確保に向けた欠くことのできない社会性」が社会に広く認識されてきた。だが、減額といった状況にしないためにも、多くのエッセンシャルワーカーの力を結集し、トラック事業が社会へ大きく貢献していることについて、広く理解を求めていくことが必要だ。
 Q 今後の交付金の使途についてはどうか。
 A 輸送の安全確保、環境対策、事業の適正化、緊急物資輸送体制の整備、事業者の経営の安定などこれまでの使途は透明性を確保しつつ進めなければならない。法制化の経緯を踏まえると、ドライバーの待遇改善や労働環境の整備にも活用すべきだろう。

運輸事業振興助成法成立後、民主トラ議連の総会であいさつする坂本副会長(12年)




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