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「即刻事業停止」開始3年半、処分後8割が継続 当初の狙いとかけ離れ 在り方を検討する時期

行政

2017/07/20 0:00

 2014年1月から適用された改正行政処分基準に基づき、「即刻事業停止」の処分が出された事例はおよそ3年半で38件に及び、うちトラック運送事業者が32件と大多数を占めている。このうち、30日間の事業停止後も事業を継続しているのはトラックで25件(うち1件は当該営業所を廃止)と8割近くに上る。改善する意欲のある事業者に、行政が立ち直りを促すのは理解できる。ただ、輸送繁忙期の処分を避けたり、事業者やその荷主の経済的事情を配慮したりするケースがあり、安全確保や輸送秩序確立のため「悪質な事業者を退出させる」という当初の狙いから、かけ離れた感は否めない。行政処分の在り方について、検証する時期を迎えている。(田中信也)  中国運輸局が3日に処分を命じた樋口運送(樋口和之社長、広島市西区)の即刻事業停止は、38件目となった。内訳はトラック32件、タクシー6件で、バスは乗合、貸切事業者を含めてゼロとなっている。  違反内容に基づき、車両停止処分を科すとともに違反点数を付与し、累計81点を超えない限り事業許可が取り消されることの無かった従来の行政処分の考えを大きく転換。重大な違反が一つでも発覚すれば、営業が1カ月ストップする即刻事業停止は、関越自動車道での高速ツアーバスによる死傷事故が発端だ。  ところが、ふたを開けてみればトラック事業者の事業停止ばかりが増えていく。これに対し、国土交通省自動車局安全政策課の内山正人安全監理室長は「適正化事業実施機関が無かったバスと異なり、トラックは事前の指導が行き届いているはずなのに……」と首をかしげる。  「一発アウト」になるのは①運行管理者不在②整備管理者不在③全運転者に対する点呼未実施④監査拒否、虚偽の陳述⑤名義貸し、貸し渡し⑥乗務時間の基準(改善基準告示)に著しく違反⑦全ての車両の点検が未実施――のケース。  いずれか一つに該当すれば30日間、2件で60日間、3件では90日間と、違反事項が重なれば事業停止日数が30日ずつ加算される。ただ、運行管理者不在と点呼未実施は物理的に重複が避けられないため、30日間の停止としている。  トラック32件の違反事項の内訳(複数違反含む)をみると、運行管理者不在が12件で最も多く、以下、改善基準告示に著しく違反7件、整備管理者不在と名義貸しがそれぞれ6件、点呼未実施は4件となっている。監査拒否、虚偽の陳述と点検整備未実施は一件も無かった。  運行管理者や整備管理者の不在という極めて初歩的な違反は、新基準の開始当初多くみられた。しかし、15年6月にトラック事業の新規許可手続きを厳格化し、運輸開始前に運行管理者・整備管理者の選任届の提出を求め、運輸開始後の特別巡回指導を届け出後3カ月以内に前倒しした効果もあり減少。一方、トラック事業での労働力不足や長時間労働が深刻化する中、改善基準告示違反による処分が増えつつある。  停止期間は30日間が29件と圧倒的だが、SHINKO(山口昭社長、静岡市清水区)が整備管理者未選任と名義貸し、中広運輸(岩坂勝宏社長、大阪府東大阪市)の埼玉営業所が改善基準告示違反と点呼未実施、八洲運輸(鶴谷一誠社長、東京都江東区)は運行管理者と整備管理者不在で、それぞれ60日間の事業停止となっている。このうちSHINKOは事業を継続しているが、八洲運輸は事業廃止、中広運輸は埼玉営業所を廃止している。  処分期間中の樋口運送以外の31件中、事業を継続しているのは、当該営業所を廃止した中広運輸を除く24営業所。複数の営業所を構える事業者ならば、他の営業所で補うことが可能なため、事業を継続しやすいように思えるが、中広運輸、ほくうん(森高義男社長、札幌市東区)、ツインズ(田中透社長、広島市安芸区)、美優物流(坂田進社長、神戸市中央区)を除くと、本社営業所のみの事業者とみられる。  32件を保有車両数別(営業所ベース)にみると、「100台以上」がほくうんのみで、「50~100台」は樋口運送の1件、これに対し、「10台未満」は23件に上る。  14年8月、整備管理者不在により関東運輸局から事業停止を受けた若松屋(茨城県つくば市)の高野健司社長は、本紙の取材に対し「1カ月間、仕事ができなかったので、個人の預貯金で埋め合わせた。大変だったが、従業員も辞めることなく継続できた。違反事項については、お金と時間をかけて改善した」と当時を振り返る。  処分時点での同社の保有車両数は6台。中小・零細だからこそ、事業停止による"穴”が小さかったため、持ちこたえることができた、といえそうだ。  なお、処分を受けた各事業者は、処分後3カ月以内に確認監査を受ける必要がある。若松屋を含めた13社が事業再開後に確認監査を受けている。  一方、事業廃止は4社と少ないが、事業を休止した事例が2件あり、いずれも14日時点で営業を再開していない模様。運行管理者の不在が発覚し、全国で初めて即刻事業停止処分を命じられた小松組(小松善美社長、東京都大田区)は、監査実施前に東京運輸支局に事業休止届を提出したため、いまだ事業停止が適用されていないようだ。休止届には予定期間を明記する必要があるが、具体的な期間ではなく「運行管理者が従事するまで」といった事例も認められているため、運行管理者をまだ配置できていないとみられる。  また、貨物運送事業としての再開を断念したとも考えられる。同社は、12年3月に一般貨物運送事業許可を受けているが、一般建設業許可も取得。1981年から食品機械の搬入・据え付け、重量機器の搬入・配置を生業(なりわい)としてきた。本紙13日の取材に対して「現在も普通の業務は行っている」と答えているが、自動車局貨物課の適正化対策室は「運搬が主たる業務でなく、据え付けがメインの中での付帯的業務であれば問題ない」との見解を示している。  運輸当局は「問題のあるところは退出してもらう」という強い対応の半面、改善する意欲のある事業者に対しては立ち直りの余地を残している。樋口運送に対しては「輸送が滞ると経済活動に著しい影響を及ぼす」との判断から、即刻事業停止のケースでは初めて、特殊仕様の6台に限り使用を容認した。行政処分基準の運用に関する通達に基づく措置だが、「特例中の特例」(内山氏)という。  危険物輸送をメインとする東京都の事業者は、樋口運送に対する措置について「危険物の業界でも日本に数台しかないトラックはある。ある意味仕方ない」と肯定する。ただ、行政処分基準の大前提である「安全の確保」ではなく、「経済性」を考慮した今回の判断に対しては、賛否が分かれるだろう。 【写真=全国で初めて即刻事業停止処分を命じられた小松組は「トラック事業」を休止中(14年8月)】





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