都市部の共同輸配送、福岡市で先駆者苦境 大手離脱など形骸化
行政
2015/07/27 0:00
物流サービスの高度化や再開発の進展により、都市部での共同輸配送が曲がり角を迎えている――。エリア共同輸配送の先駆けとなった、福岡市天神地区共同輸送(イエローバード)は、ヤマト運輸(長尾裕社長、東京都中央区)や佐川急便(荒木秀夫社長、京都市南区)など大手宅配事業者が離脱し、再開発ビルでは物流事業者が一括管理(タテ持ち)する館内物流が主流になるなど形骸化が進んでいる。国土交通省では「今後の物流政策の基本的方向性」の一つとして都市内物流の共同化を掲げる方針だが、システムを持続させるためのエリアマネジメントの在り方が問われそうだ。(田中信也) 23日に開かれた、社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会の物流小委員会(根本敏則委員長、一橋大学大学院教授)と交通政策審議会交通体系分科会物流部会の物流サービス小委員会(苦瀬博仁委員長、流通経済大学教授)の合同会議で、事務局が都市内物流の事例として、イエローバードの現況についての参加事業者へのヒアリング結果を報告した。 イエローバードは、地下鉄工事による天神地区(福岡市中央区)での交通事情の悪化を契機に、1978年に同地区の配送業務を2社に集約したのが始まり。その後、集荷業務にも対応し、94年には「天神共同輸送株式会社」を設立し、36社参加で共同輸配送を事業化した。事業開始により、地区の二酸化炭素(CO2)排出量は改善した。 だが、取扱個数、参加事業者は減少している。クール便や時間指定、荷物追跡の宅配サービスの高度化に対応できないことなどを理由に、ヤマト、当時ペリカン便を運行していた日本通運、佐川が撤退した。 また、再開発ビルでは館内物流にシフトし、ビルごとの共配システムから離脱するケースも増加。イエローバードも館内物流の受託を目指しているものの、東京などにある開発会社と大手物流の本社ベースで契約が交わされるため、これに加わることすら困難だ。 運送事業者やビル管理者、地元商工会、自治体で構成し、共配システムを主導してきた協議会は2002年を最後に開かれておらず、関係者でこうした現況すら共有が図れていない。事例を踏まえ事務局は「システム発足後もこれを持続させるための継続的枠組みが必要」と問題提起した。 続いて、今後の物流政策の基本的方向性の中間とりまとめに関する論点整理を行い、都市内物流関係では、「物流に配慮した建築物の設計・運用」「宅配便の再配達の削減」とともに、共同輸配送や荷さばき施設の共用化といった「エリアマネジメントの促進」が取り上げられた。しかし、イエローバードの現況への評価を巡って、「まちの魅力を高めるには少々の不便が必要で、時間帯による通行規制や駐車料金に格差を設けるといった対応で利用を誘導すべき」「便利さが享受されている日本で不便を強いることは難しい」など委員の意見は様々で、「地域の全体最適を追求するのか、個々の事業者の営業活動を優先するのか」が新たな論点として浮上した。 また、取り組みを束ねるエリアマネジメントに関しても「公的制度で規制するか、地域の取り組みに委ねるのか」が論点となり、野尻俊明委員(流通経済大学学長)は「まちが美しいことは良いが、(都市内物流で)本当に困っている人がいるのか。調整は難しい」と指摘。羽尾一郎物流審議官は「制度では無く(地域の)枠組みで合意形成すべきで、物流に対する国民の理解を高める必要がある」との見解を示した。ただ、地域連携によるシステムを持続させるには、いかなる形でも公的機関のサポートは不可欠といえそうだ。 【写真=「地域の全体最適を追求するのか、個々の事業者の営業活動を優先するのか」が新たな論点に】