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国交・厚労・経産省■労働時間改善へ協議会 全ト協 適正運賃の最後の砦

 国土交通、厚生労働、経済産業の各省が近く設置する「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」(仮称)に期待が集まる中、全日本トラック協会(星野良三会長)、自民党トラック輸送振興議員連盟(細田博之会長)の動きが活発化してきた。全ト協サイドは同協議会を「適正運賃の最後の砦(とりで)」(全ト協首脳)と位置付けており、物流政策上の最大の課題である長時間労働改善と適正運賃収受という悲願成就に、最後の望みを懸ける構えだ。(北原秀紀)  自民トラ議連の細田会長、赤澤亮正事務局長は15日、自民党雇用問題調査会(森英介会長)に「今後の労働法制への対応について」と題する文書で申し入れを行った。全ト協からは坂本克己副会長と福本秀爾理事長が同行。調査会の川崎二郎顧問、厚労省の岡崎淳一労働基準局長、国交省の田端浩自動車局長も同席した。  これを受け、自民の同調査会は16日、経団連(榊原定征会長)、日本商工会議所(三村明夫会頭)、全国中小企業団体中央会(鶴田欣也会長)に、トラック業界の長時間労働の改善に向けた協力を要請した。  今国会で労働基準法改正案が成立すると、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が現行の25%から50%へ引き上げられ、適用除外だった中小企業も19年4月から対象となる。長時間労働が常態化しているトラック業界や飲食業界などは、労働環境の改善が待ったなしで、現状のままだと大きな負担は避けられない。法案に反対すると、長時間労働を世間にアピールすることになり、労働力確保がますます深刻化するリスクを負う。  細田氏らは、トラック業界の長時間労働が改善されなければ、大きな負担となることを強調した。とりわけ、今回は企業への指導監督権限を持つ厚労省が〝後ろ盾〞となっていることから、荷主と事業者の調整に期待が高まる。議連は申し入れで、協議会の早期立ち上げ、都道府県単位の協議会では主要な荷主をメンバーに加えて長時間労働の実態を根本的に解決することなどを求めた。  これに先立ち、全ト協は都道府県トラック協会に対し、主要な荷主や長時間労働で知られる荷主をピックアップするよう文書で要請。7日の専務理事連絡会議で、福本氏が改めて回答するよう協力を呼び掛けた。  行政(国交省)、荷主、事業者によるこれまでの「トラック輸送適正取引推進パートナーシップ会議」を衣替えし、新たに厚労、経産両省を加えた取引環境・労働時間改善協議会に格上げする今回の措置。物流業界の労働力不足が我が国の経済発展の足かせにならないための政府の判断とも言え、トラック業界の「最後のチャンス」に懸ける並々ならぬ意気込みが伝わってくる。 【写真=森会長(左から2人目)に文書を手渡す細田会長(その右)】

 ワークマンは16日、群馬県伊勢崎市に流通センターを新設する、と発表した。流通センターの床面積は約3万3千平方メートルで、伊勢崎宮郷工業団地内に建設する。関越自動車道の高崎玉村スマートインターチェンジ(IC)まで6キロ、北関東自動車道の駒形ICまで4キロに位置し、関東や東北各店舗への出荷に便利な立地。完成は、2017年2月で土地取得と建設・設備費を含む総投資額は約38億円になる見込み。(井内亨)  ワークマンは、全国で749店舗を出店し、ワーキングウエアや用品の小売りで高いシェアを誇る。3年連続で増収増益を続け、社員一人当たりの株式時価総額は上場企業で1位を獲得。業績好調の裏には、口コミで人気化したプライベートブランド(PB=自主企画)の存在がある。プロ向け商品だが一般顧客への販売も急増し、PB比率が上昇中。5年計画で、「PB比率は16.7%から30%まで上昇する」としている。  PB品は、中国や東南アジアで量産しコンテナ数個単位で輸入するため、広い保管場所と作業場所が必要。既存の伊勢崎流通センター(床面積約2万2千平方メートル)はフル稼働状態のため、新センター建設が決まった。完成後は、「旧センターには在庫回転率の低い製品を保管し、回転率の高い製品は最新鋭の出荷用自動仕分け設備を備える新センターで保管する。近接する両センターを専用の10トントラックで1日数回往復し、在庫を一体的に管理する」としている。 【写真=新センターと同じ構造の滋賀県竜王流通センター】

 【広島】道原運送(道原伸二社長、広島県三原市)のグループ会社である無垢(同)は、社会福祉法人神石よつば会(延岡博行理事長)と業務提携し、同社で取り扱っている尿素水エコツーライトの製造の一部を委託した。障がい者の就労を支援するとともに、リスクヘッジとしても位置付けており、4月から操業を開始している。(矢野孝明)  同会が運営している就労継続支援B型事業所のゆき作業所に2月下旬、簡易型プラントを設置。費用は無垢が負担した。作業所に通う障がい者3~5人が従事し、週3日前後の稼働で月間10~15トンの尿素水を生産する計画。品質の均一化と安全性を保つため、管理基準を同社と統一したほか、全製品のサンプルを取り置くことで流通履歴の追跡も可能となっている。  業務委託する意義について、道原社長は「社会貢献の一環であると同時に、当社にとっては製造拠点を分散することで、リスクヘッジのメリットも出る」と説明する。  また、延岡理事長は「作業所に依頼される仕事が限られる中、安定した収入を見込めるありがたい事業だ。需要が増えれば、他の作業所にも展開できる。施設で作った尿素水を積極的に使ってもらうよう行政などにPRしながら、販売にも協力していきたい」と話している。  なお、エコツーライトの製造元であるオプティ(猪野栄一社長、三重県川越町)では、これまで全国4カ所で障がい者施設に製造を委託しているが、代理店としては初となる。 【写真=3~5人が従事し、月間10~15トンを生産する計画】

 【三重】プライド物流(八木昭人社長、三重県川越町)は1日、大幅な組織変更を行った。主力業務に関わるセクションを3部に再編し、物流部内に作業専門の「工事チーム」を新設した。7月には給与体系も全面的に改定、時間給制度を導入する。(星野誠)  3部の内訳は、建設資材の入出庫とメンテナンスを行う「センター管理部」、配車チーム及び総務管理チームからなる「運行管理部」、輸送業務や関連作業を行う「物流部」。このうち物流部は、三つの物流チームと新たに設けた工事チームで構成する。  八木社長は「これまで社内では、センター管理部を『ヤード』、運行管理部は『配車センター』、物流部が『ドライバー』とそれぞれ通称で呼んでいた。役割分担をより明確にした上で、正式名称として部に再編した。準備に半年かかったものの、満足がいく形になった」と説明。  一方、工事チームを新設した理由については、「運搬と作業のスタッフを分けることにより、ドライバーが輸送業務に特化できる。例えば、ユニットハウスを運んで設営する時に、ドライバーが現場に張りつく必要が無くなるため、他の仕事もこなせるようになる。荷物とスタッフを同時に運べるダブルピック車を増車し、建設事業の許可も申請している」という。  現場作業には豊富な専門知識と経験が求められるため、工事チームには、入社10年以上のスタッフを3人配置した。「運賃とは別に作業料金をいただく以上、プロフェッショナルの仕事をするのは当然。玉掛けや移動式クレーン、顧客によっては更に細かい資格も必要だが、それが付加価値であり、他社にまねできない強み」(八木氏)  物流部を構成する各チームの社員は職能に応じて、上からリーダー、インストラクター、マイスター、一般社員の4等級に分かれる。7月から導入する時間給制では、4等級が給与計算のベースとなる。八木氏は「資格や知識などの職能で給料が上がる、分かりやすい給与体系。残業代は全て支払った上で、適正な労働時間管理に努めていきたい。顧客満足のためには、社員の満足も不可欠」と強調する。  2015年春には、女性1人を含む高卒新入社員9人を採用し、従業員数は97人となった。「プロフェッショナル=基本」を今期のスローガンに掲げ、大幅な組織変更に踏み切った背景には、トラック業界の地位向上への思いがある。  八木氏は「トラック、バス、タクシーが事故を起こすと、『運転手』という表現で報じられる。本来は会社員と呼ぶべきで、職業差別ではないか。こうした風潮を払しょくするため、仕事に誇りを持つプロフェッショナルを育て、若い人が憧れる、魅力ある業界にしたい」と力を込める。 【写真=本社には「プロフェッショナル=基本」のスローガンを掲示】

 名門大洋フェリー(阿部哲夫社長、大阪市西区)は7月1日、クラウドサービスをベースした新基幹システムを本稼働させる。利用者の利便性向上と業務効率化が狙い。大阪・南港(住之江区)―北九州・新門司港(北九州市門司区)航路就航30周年記念の一環で、社内体制見直しや働きやすい職場環境づくりも進める。(落合涼二)  5月に旅客の予約から一部運用を開始する。インターネット上で予約から決済まで一貫して行えるようになるのが特徴で、決済終了後に認証コード(2次元バーコード)を発行。乗船口のスタッフがバーコードリーダーを使い読み取ることで、チケットレスでの乗船が可能になる。  これまでは、フェリーターミナルの窓口で必要な手続きを済ませていた。そのため、繁忙期になると窓口が混雑するだけでなく、スタッフの作業負担も増え、効率悪化が問題となっていた。  山本哲也常務執行役員は「フェリー会社は、船体の償却費、燃料代、人件費が3大コスト。省力化しつつ、市場で勝ち残っていくために様々な仕掛けを考えていく。新システム移行に伴い、料金の新割引制度も導入したい」と話す。  貨物については、無人航走化が一層進展すると予想。子会社のフェリックス物流(小塚勉社長、門司区)と共に、従来、二重入力してきた車番情報などの一元化を目指し、運送会社側で必要なデータを入力すればフェリーの予約が完了する仕組みを整える。  7月からテストを始め、効果の検証や課題を抽出しながら、最適な方法を模索。将来的にはパートナーの運送会社にもシステムを公開し、利用を呼び掛ける。  2014年12月に大阪・南港―北九州・新門司港の就航30周年を迎え、その集大成として9月と11月に、新たに2隻のフェリーを投入。総トン数は1.5倍に拡大し、積載能力がアップする。  船体の大型化に合わせ、新門司港ターミナルビル(同区)の新築工事と大阪南港支店(大阪市住之江区)の改装にも着手。桟橋の延長や乗船口の完全バリアフリー化により利便性を高めるとともに、新年度のスタートに合わせ、本社事務所の受け付けスペースをリニューアル。社内レイアウトも変更し、労働環境の快適化を図った。  ドライバー不足や労務管理面から長距離輸送の手段としてフェリー活用が増えつつあり、山本氏は「営業面でもクラウドを活用した情報共有の仕方を検討している。30周年を契機に、心機一転、更なるグッドサービスの提供に努めたい」と意欲をみせる。 【写真=本社事務所の受け付けスペースをリニューアル】

 4月に就任した、ヤマト運輸(東京都中央区)の長尾裕社長(49)は20日、本紙のインタビューに答え、ドライバー不足について、「特に幹線輸送の担い手不足を懸念している。適正な運賃体系、運行と荷役作業の分離によるドライバーの負担軽減、協力会社との発展的関係の構築に加え、中長期的には高速道路のトラック自動運転など、業界を挙げて取り組まないとロジスティクスは維持できない」との考え方を示した。(高橋朋宏)  中長距離ドライバー、セールスドライバー(SD)の確保について、「我々内部で解決すべき課題と業界を挙げて取り組まなければならないケースがある」とした上で、「最も懸念しているのは幹線輸送を担うドライバーの不足だ。大型自動車免許の取得者は高齢化している一方、今の若者が大型免許を取るとは考えづらい」と強調。  更に、「(協力会社の)経営安定や労働環境の整備を図らないと人は集まらない。そのためには、適正な運賃体系を構築しないといけない。協力会社から運賃改定の要望をいただいており、対応を進めている」と述べた。  東名阪に大型物流施設を整備し、夜間だけでなく日中も多頻度運行をする「ゲートウェイ構想」を念頭に、「この形だと協力会社のトラックの回転は上がる。単純に1路線の単価を引き上げる方法もあるが、長続きしない可能性がある。多頻度運行で、ドライバーを交代しながら24時間運行すれば収益は改善する」と解説。安全運行やサービスの向上を真剣に考えている運送事業者と一緒に、幹線輸送の在り方を考えていく。  また、「運行と荷役をきっちりと分けるなどしてドライバーの負担を軽減しないと、業界に人は入ってこないのでは」と考察。「個人的には、高速道路でのトラックの自動運転は今の技術水準で可能だと考えている。幹線運行専用の道路などを国が本当に検討していかないと、国民生活や経済の要であるロジスティクスを維持できない」と指摘した。  SDの確保については、「主婦層を中心に、通勤が無く、短時間だけ働きたいというニーズがあるので、主婦の活用を一層拡大させたい。主戦力となる中途の採用は各地域が主体的に行っているが、これからはもっと本社が関与すべきだと考えている。どういう媒体で採用を働き掛け、どんなキャリアビジョンを描けば魅力を感じてもらえるか、戦略を再構築していく」と語った。  東日本大震災以降、宅急便などグループが保有する経営資源を活用して地域活性化を図る「プロジェクトG(government)」にも力を入れている。「生活支援サービスは、グループとして大きな柱と位置付けている。無償の支援や補助金による事業など一過性の関わりではなく、本業を通じてどのように地域に継続的に貢献できるのかと考えている。ヤマト運輸のSD、宅急便でないとできないサービスがある」と説明した。  「例えば、どんな山奥の集落でも宅急便を1日に1個も運ばないことはほとんどない。そうすると、せっかく毎日行っているんだから何かしら行政サービスの代行を、となる。協定を結ぶ自治体は非常に増えている。協定を結んで終わり、ではなく、何ができるのか行政と共に考えていきたい」

 ジェイアール東日本物流(松崎哲士郎社長、東京都墨田区)は16日、市川物流センター(千葉県市川市)に設けた「総合研修センター」の開所式を行った。15年ぶりに策定した中期経営計画「Go plan」の根幹である人材育成をより一層強化。熱い「物流魂」を体現する中核基地と位置付け、安全・安心の実現や営業力の底上げを図っていく。(沢田顕嗣)  松崎社長が「今年度から中期経営計画をスタートしている。株主や荷主の期待にしっかりと応えるため、安全と品質を確保しなければならない。人づくりのために『総合』と名付けた研修センターを設置することを決断した。荷主や協力会社の皆さんと一緒に安全と品質を追求していく」と経緯を報告。  その上で、「トラックの運転技術を磨く訓練コースを設けた。また、駅構内の作業で安全を確保する実地訓練を行うほか、社内の階層別研修や営業強化研修、社会人としてのマナー教育も実施する。初年度は80日間で延べ1400人が研修を受ける。より良い研修センターにしていきたい」と述べた。  研修センターは総合教育施設と位置付け、協力会社を含む業務従事者が技能の取得やスキルアップに励む。実務レベルだけではなく、社歴年表や過去の事故・失敗の記録を展示した点も特徴。バーストしたタイヤなどの現物をあえて陳列することにより、事故の未然防止につなげる。  屋内では運転シミュレーターによる訓練や、駅構内での安全作業に用いる階段昇降機、カーゴ台車を使用。点呼執行台などを駆使して運行管理者の模擬訓練を実施するとともに、ドライブレコーダーのヒヤリ・ハット映像も視聴できる。  一方、屋外には日常点検や視覚体験、狭あい道路、車庫入れなどの訓練コースを設定。併せて、一般道を活用した訓練も行い、運転技術の向上を促進する。  祝賀会では、橋場(東京都港区)の橋場一晃社長が「駅の指定納品代行事業者として、一括物流を手掛けている。特に安心の提供が求められており、今後も頑張っていきたい」と表明。  名糖運輸の若田部守一事業部長は「ジェイアール東日本物流と取引を開始して12年目に突入している。研修センターから優秀な人材が巣立って欲しい」と祝福した。 【写真=テープカットに臨む松崎社長(左端)ら】

 【茨城】エムアンドエー運輸(中山誠社長、茨城県筑西市)を母体とするリサイクル事業者のアーストリンク(中山淳社長、同)が中心となって発足した、レアメタル(希少金属)回収組織のネットワークSanrageLine(サンレージライン、矢沢一人代表幹事)が4月から稼働している。資源の少ない日本で多く蓄積されている「都市鉱山」レアメタルを、パソコンなど不要となったOA機器を回収して集め、国内での有効活用を図っていく。(谷本博)  エムアンドエー運輸は以前から、トラックで機密書類の出張裁断によるリサイクル事業を手掛けており、最近では、機密電子媒体の出張データ消去業務が増えている。今回、「不要となったOA機器からデータ消去だけでなく、資源回収を図っていくことで、付加価値を出す」(中山淳社長)ため昨秋、レアメタル回収を目的としたアーストリンクを設立した。  一般的に不要となったパソコンなどの買い取りは①資源として回収②中古転売――の二通りを目的としている。中国企業などは転売を目的としていることから、1台2千円ほどで買い取るが、アーストリンクでは資源として買い取るため、1台50円から100円程度しか払えない。このため、大半が中国をはじめとした海外に流出しているのが事態だ。  日本からレアメタルが海外に流れれば、パソコンなどの価格は高騰することとなる。こうした事態を回避するため設置したのが、今回のネットワーク組織。古いパソコンほどレアアースやレアメタルが多いため、資源としてリサイクルするには好都合。そこで目を付けたのが、大手企業や官庁が集中する首都圏に眠る都市鉱山だ。今でも米マイクロソフトがサポートを終了した基本ソフト(OS)「ウィンドウズXP」を使用している企業や自治体は多く、今後、大量のパソコン回収が期待されている。  アーストリンクに籍を置き、今回発足したネットワーク組織を主導する佐藤勝善氏(営業担当)は「当社は茨城県、栃木県など北関東エリアに特化するしかなく、日本国内に眠る資源を有効活用するには、広域ネットワーク構築が欠かせない。当面は関東から東北エリアのメンバーで展開していくが、『資源としての買い取り』を前面に出しながら全国展開を目指していく」と意欲を示している。 【写真=レアメタル回収に意欲を示す中山社長(左)と営業担当の佐藤氏】

 我が国は、世界でもまれに見るほど高度かつ高密度に整備されたインフラ網を背景にして、高い経済成長と安全・安心・快適な暮らしを享受してきた。しかし、その足元を支えてきたインフラが今、転換期を迎えようとしている。  我が国のインフラは、東京五輪(1964年)前後に整備されたものが大半を占めており、20年以内に、建築後50年以上経過した社会資本の割合が50%以上を占めるようになる――と試算されている。  物流業界にとって最も重要なインフラの一つである道路に注目すると、我が国には15メートル以上の道路橋が約15.5万橋存在し、うち築50年以上の橋梁(きょうりょう)は約8%となっている。しかし、この割合が、10年後には26%、20年後には53%に増加する――と見込まれている。橋梁の劣化は現在も進行中であり、損傷・劣化などにより通行規制を行っている橋梁(地方管理15メートル以上)は、2008年に680あったが、11年には1129に増加しており、インフラ老朽化による影響は大きい――と言えよう。  我が国の公共投資は、1995年度の42兆円をピークに、ほぼ一貫して減少傾向が続いている。2009年度の公共投資額は21兆円であり、この15年間で21兆円も公共投資が削減されたことになる。GDP(国内総生産)に占める割合も、この間に8.4%から4.5%へ低下した。この背景には、GDP比率で180%超にも達する我が国の債務残高の存在があり、今後、公共投資分野において大幅な支出増を期待することは難しいだろう。  他方、地域ごとにインフラ維持管理を担う地方自治体においても、インフラ分野への投資余力は減少してきている。経常収支比率(使途が特定されておらず、毎年度経常的に収入される財源のうち、人件費、公債費のように毎年度経常的に支出される経費が占める割合)は、ここ数年95%弱で高止まりしている。すなわち、地方自治体が自らの裁量で使える財源には限界があり、インフラの更新が必要であることは認識していても、そのための資金手当てが困難な状況だ。  国土交通省では、同省所管の社会資本8分野(道路、港湾、空港、公共賃貸住宅、下水道、都市公園、治水、海岸)を対象に、60年度までの維持管理・更新費用を推計している。従来通りの維持管理費用の支出を継続するシナリオでは、37年度には投資可能費用を維持管理・更新費用が上回り、最終的に更新が必要なストックのうち約19%(約30兆円)が手付かずになる――と試算している。先進的な予防保全を全国で実施するシナリオでも、47年には投資可能費用を維持管理・更新費用が上回り、約3%(約6兆円)のストックが手付かずになる――と試算されている。  従って、まず手掛けるべき業務は予防保全の徹底である。実際の業務は地方自治体が担うことから、当該業務に対する資金供与の多様化やガイドライン整備などが必要となろう。また、既存施設の保全が優先される一方で、真に必要な新規建設においては、国や政令市が関与して民間資金の投資に足る事業スキームを構築するなどの施策も必要になるだろう。  海外では、米ミネソタ州における橋梁崩落事故(07年)、同メリーランド州の水道管破裂事故(08年)など、インフラに物理的な損傷が発生し、本来の機能提供が困難になる「フィジカル・クライシス」が頻発している。老朽化した社会資本を抱える我が国にとっても、対岸の火事ではない。  社会資本の維持管理には予防保全が最も有効であるが、全国の市区町村の約4分の1(23%)が、予防保全に必要な橋梁の点検を実施していない。点検を実施していない主な理由は、予算が確保できないこと(62%)と技術力の不足(65%)である。地方財政の逼迫(ひっぱく)による予算と職員の削減が、社会資本の維持管理にも影響しているのだ。  地方自治体の財政力、技術力が低下している中、橋梁の適切な維持管理を行っていくためには、民間との大胆な連携が必要となるだろう。具体的には、技術力を持った民間企業(または企業連合体)が、複数の地方自治体から、点検・修繕計画策定・工事発注に至る一連の維持管理業務を包括受託するスキームが考えられる。現在の制度上、橋梁の修繕計画など行政判断を伴う業務を民間企業が行うことは難しく、また発注側と施工側を厳密に切り分ける必要もあり、実現には様々な課題がある。しかし、海外においては、社会資本の維持管理と管理監督業務を一括して民間企業に委託する形態も存在する(英国Management Agent Contract=MAC契約など)。我が国でも、社会資本の維持管理分野の民間開放は決して不可能でない――と考えられる。  国交省はインフラ老朽化対策として、①総点検・修繕②維持管理の基準・マニュアルの改善・明確化③維持管理情報のプラットホーム構築④新技術導入、既存技術の横断的活用⑤地方公共団体への支援⑥維持管理等の担い手支援⑦体制・法令等の整備⑧長寿命化計画の推進――を進めている。この中でも③、④に関連して、非破壊検査技術の開発・導入・普及、モービルマッピングシステムによる効率化、IT(情報技術)などを活用したインフラモニタリングシステムの構築、維持管理・更新情報等のプラットホームの構築を進めている。ITなどを活用したインフラモニタリングシステムについては、東京ゲートブリッジにセンサーを貼り付け、挙動をモニタリングする実証などを始めており、その成果に注目が集まっている。  我が国のインフラ、とりわけ道路インフラについては、老朽化による影響が顕在化しつつある中、維持管理・予防保全の在り方も見直しを迫られている。この中でとりわけ重要となるテーマが、維持管理の担い手の創出、低コストでの維持管理を可能とするためのICT(情報通信技術)活用である。  歴史をひもとけば、道路が社会の公共財として、国や自治体による維持管理がなされるようになったのは近代以降である。日本には、昔から「道普請(みちぶしん)」の精神で住民が協力し合い、道路や橋などの生活基盤を維持管理してきた歴史がある。今後のインフラ老朽化対策に求められる考えは、「道普請」の精神に基づく担い手の育成ではないだろうか。  この観点に立つと、物流業界による貢献可能性、物流業界にとっての新たな事業機会が見えてくる。例えば、国や自治体と協力し、既存の車両にセンサーを導入してマッピングビークルとして活用する、道路の破損や老朽化に関する情報を収集して業界横断的に共有する――という取り組みが考えられよう。  物流業界は、これまでは道路など社会インフラの一大ユーザーとして、高度に整備されたインフラ網の恩恵を享受してきた。今後のインフラ老朽化による影響は、ひとごとでは済まされない。改めて、物流業界にとっての「道普請」の在り方を考えてはどうだろうか。  だんの・こういちろう 京都大学大学院工学研究科修士課程修了。日本総合研究所で、環境・エネルギー、通信・ICT、交通、資源・水ビジネスなどの社会インフラを領域とした事業戦略・マーケティング戦略に関するコンサルティングを行っている。

 日本郵便(高橋亨社長、東京都千代田区)は、郵便・物流機能再編を目的としたメガ物流局(地域区分局)の第1弾「東京北部郵便局」(埼玉県和光市)を5月4日にオープンする。日本郵便で初めて営業倉庫(物流ソリューションセンター)を併設しており、サードパーティー・ロジスティクス(3PL)事業を展開していく。  東京外環自動車道・和光北インターチェンジ(IC)に近接し、鉄骨造り地上6階建て、延べ床面積が7万8千平方メートル。郵便、ゆうパック、ゆうメールなどの区分作業と、物流ソリューション業務に特化しており、一般向けの郵便、貯金、保険などの窓口業務は行わない。  新宿、豊島、中野、板橋、練馬の各区と、武蔵野市、三鷹市など多摩東部エリアの集配局の区分業務を集約。新東京局、東京多摩局と共に、都内の郵便・物流業務の一翼を担う。  区分業務では、1日当たりゆうパック11万5千個、郵便450万通を処理。ゆうパックが5月4日に業務を開始するが、ゆうメールと郵便は8月23日からスタートする。  6階の物流ソリューションセンター(延べ床面積9910平方メートル)は、初の営業倉庫として開設。商品の保管、受発注、梱包から配送までを請け負う3PL事業の拠点としていく。  15日、東京北部局で披露式典を開催し、施設を公開した。高橋社長が松本武洋和光市長、施工した大和ハウス工業の石橋民夫副社長らとテープカット。地元保育園の園児による、ゆうパックを仕分けする小包区分機の始動式を行った。  高橋氏は「郵便とゆうパックなどの区分作業に加え、(物流の)上流のソリューションビジネスも行う複合施設として、荷主の内々の業務も含め事業を開拓したい」とあいさつ。また、プロモーション映像で、同局を皮切りに全国各地で大型の地域区分局を開設し、物流ネットワーク再編による「物流革命」を目指すことを宣言した。(田中信也) 【写真=郵便、ゆうパックなどの区分作業と物流ソリューション業務に特化】

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