【密着ルポ】物流現場の女性進出
人材・育成
働き方改革
2021/12/31 4:00
年末年始特別本紙ピックアップ
2021年2月23日付 終面
女性進出が遅れているとされるトラック業界。特にドライバー職は、労働時間や体力、男性中心の職場環境などがネックとなり、他の職種に比べて女性比率はまだまだ低い状況だ。人手不足が深刻化する業界で、女性の進出は極めて重要な課題。そんな中、物流を支えるエッセンシャルワーカーとして活躍し、業界を目指す女性の道しるべとなる女性の働きぶりを紹介する。
会社の勧めで大型取得
2020年12月3日、午前6時。1日の中で最も気温が下がり、暗いといわれる日の出前。ロジコム(鳥屋正人社長、佐賀市)三神営業所(佐賀県上峰町)のドライバー、小島博美さんは普段通り出社してきた。
暗闇にひときわ明るい事務所では、アルコールチェックや運行計画を確認する声が慌ただしく響き渡る。三神営業所はグループのドライバーの夜間点呼を統括管理する拠点。夜間専門の運行管理者がモニターを眺めながら、遠隔点呼で出発前確認を行っていた。小島さんは対面点呼で、血圧や体温、呼気などを運行管理者と念入りに確かめる。
点呼が終わると、担当の大型ウィング車に移動。バンパーから荷台後部まで、小島さんの手でぴかぴかに磨き上げられている。12月の佐賀平野は凍えるほど寒い。かじかんだ指をこすりながら点検ハンマーを握り締め、タイヤボルトの締まり具合を1本ずつ確認。かん高い金属音が車庫に反響する。入念に始業前点検を済ませ、いよいよ出発だ。「行ってきます」「ご安全に」を合図にアクセルをゆっくりと踏み込み、大型車はずしりと動き出した。
油断・慢心「起こさない」
本紙記者は、農協の選果場に納める青果梱包用段ボール箱の輸送業務に同乗した。コックピットは驚くほど広く、シートも快適。だが、景色に見とれている暇は無い。プロドライバーの安全確認をつぶさにチェック。小島さんは、目視に加えてバックミラーやモニターを駆使し、左折時に巻き込みの危険は無いか、右折時、横断歩道、交差点に歩行者、自転車がいないか、無駄の無い動きで的確な安全確認を繰り返す。
コックピットの左右のピラー(柱)には「前後、左右確認大丈夫?」「後ろに人や車いない?」とのステッカーが貼ってある。理由は「油断と慢心を起こさないため」だ。
筑後川に近付くと、天気予報に反してかすかな雨粒がフロントガラスに落ちた。「屋根の無い配送先で荷物がぬれてしまわないよう、荷下ろし前にフィルムを巻く必要があるかも……」。何気ないつぶやきに、品質管理に対する気配りが伝わってくる。
小島氏は真面目でおとなしい性格。ドライバー職に向いていると感じて25年前、地元の運送事業者の門をたたいた。小型車での配送業務からスタートし、会社の勧めで20年前に大型免許を取得。それからトラックドライバー一筋の人生を歩んできた。
天気予報通り雨は上がった。トラックは目的地の福岡県久留米市の市街地に入った。「運転がもともと好きな方ではない。だからこそ、事故には人一倍気を付けている。幅の狭い田舎道も十分な注意が必要だが、車や人の通りが多い都会は、更に気を付けるポイントがたくさんある」と気を引き締める。
荷積みから点検一人で
運転はもちろん、フォークリフトによる荷積み荷下ろしや車両の点検まで一人でこなす。「パレット化の進展で手積み、手下ろしという力仕事は無い。ドライバーは女性でも長く続けられる仕事。多くの人にチャレンジして欲しい」と期待する。
お昼過ぎ、三神営業所に帰着。倉庫のリフトで翌日の荷物をトラックに積み込んで仕事を終えた。
家庭では3人の子供を育て上げた。「渋滞などで帰宅時間が遅れて困ったり、きつい仕事の時もあったりしたが、家族を思えば力が湧いてくる。今は孫たちに会うことが専らの楽しみ」。小島さんは今日も、大切な荷物と、子供や孫たちへの思いを載せてハンドルを握っている。(高松美希)
普段は和気あいあい 仕事モード 真剣な表情、確かな腕
「気が置けない仲間」「仕事は真面目に、休み時間は自由奔放」「家に居るより会社の方が楽しい」――。ミヤハラ物流(宮原章彦社長、佐賀県吉野ケ里町)102物流センターに勤務する田代恵理子さん、三井所小百合さん、末永邦子さんの3人は、それぞれ明るい笑顔で職場の雰囲気をこう話す。末永さんと三井所さんは梱包作業、田代さんはフォークリフト作業がメイン。
ファストフードやレストランチェーン向け食品などのサードパーティー・ロジスティクス(3PL)を提供する同社では、倉庫作業時に重い営業用缶詰を扱うこともしばしば。ピッキングやリフトは経験と技術を要し、相談・協力し合えるリレーションシップが欠かせない。周りの仲間も女性だからと特別扱いすること無く、分け隔て無く接してくれる雰囲気が、長く仕事を続けられる理由の一つだろう。
仕事を離れると3人とも家事や育児に奮闘するお母さん。産前・産後休業や育児休業も積極的に取得してきた。子育てのために時短勤務制度を活用する女性社員も多いという。
田代さんも出産・育児で多忙を極めていた頃、育児休業を申請すれば仕事に穴を開けてしまうのではないかと悩んでいた。「思い切って社長に相談したら『好きなだけ取っていい』と快く承諾してくれた。親しみやすい人柄なので何でも話しやすくてありがたい」と笑顔で語る。
宮原社長は「普段は和気あいあいとしている3人だが『仕事モード』に入った途端、真剣な表情に切り替わり腕も確か」と信頼を寄せている。(高松美希)
歴23年の大ベテラン 会社代表で省エネコン
JA物流かごしま(妹尾洋介社長、鹿児島市)は、JA鹿児島県経済連グループの物流企業として、コメや野菜、果物、花、牛肉、豚肉、鶏肉、卵といった県産の農畜産物を全国に届けている。県内集配業務を担当する森綾子さんと、下夷あづみさんは、ともに歴23年の大ベテラン。会社を代表し、鹿児島県トラック協会(鳥部敏雄会長)主催の安全・省エネ運転コンテストに参加するなど、ドライバーとしての知識、技術を高く評価されている。
森さんは、県内各地の選果場からの集荷業務を担当。選果場から出荷された野菜や果物を長距離輸送のトラック、フェリーにつなぐ。「農家の皆さんは『採れたてを運んで欲しい』という思いがある。出荷前倒しの協力は広がっているが、人手不足、高齢化で収穫や持ち込みの作業に苦労している。できる限り待ってあげたいが……」と農業の現状を話す。
趣味はドライブ。休日には目的地を決めずにハンドルを握り、思わぬ景色に出会うのが何よりの楽しみ。ドライブのグルメスポットはもちろん、グループの県産黒牛・黒豚レストラン「華連」がイチオシだ。
下夷さんの安全運転のモットーは「毎日、初心者の積もりで運転すること」。安全確認、いったん停止など基本的なことを確実に実践することで無事故・無違反に努めている。農機の部品供給とグループ内のメール便配送が主な仕事だ。鹿児島県霧島市の農機部品センターから、県内の各農協に向け部品を日配。出発前の積み込み作業は早朝から始まり、午前6時にセンターを出発。耕運機やトラクターなどの修理、メンテナンスを物流の面から支え続けている。「人手不足や高齢化が深刻な農業にとって、農機は欠かせない設備。『代わりが利かない』という思いで、責任感を持ち荷物を届けている」(上田慎二)