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【ウォッチ】迅速な対応へ体制構築 トラック協会/災害への備え

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2021/12/30 4:00

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2021年3月9日付 終面

 大規模災害時に行政の要請に応じ、被災地への緊急支援物資輸送を担う各県トラック協会は東日本大震災の際、被災地への救援物資輸送で功績を残す一方、行政や関係機関との連絡体制などの課題も明らかになった。大震災以降も台風や豪雨など数々の災害が日本列島を襲ったが、各協会はこの10年で大震災の教訓を基に、どのように災害対策を強化し対応してきたのか。東北6県トラ協の動きをまとめた。(特別取材班)

本部敷地内に備蓄庫 宮城

 岩手方式――。岩手県トラック協会(高橋嘉信会長)が大震災発生後、9カ月間にわたって展開した支援物資輸送方法は後にこう呼ばれ、関係各方面で高い評価を受けた。
 行政側と調整し、滝沢村(現滝沢市)の岩手産業文化センター「アピオ」に、全国から届く大量の物資を集積。アリーナへ直接トラックを乗り入れ、フォークリフトを活用して物資を積み込み、効率良く被災地へ送り込んだ。この貴重な経験は一つの成功例として全国から注目され、依然として各地からの視察や当事者への講演の依頼が後を絶たない。
 当時、アピオで陣頭指揮を執った佐々木隆之専務は、県との緊密な連携と迅速な情報収集の重要性を指摘し「自治体の担当者は定期的に変わるが、疎遠にならないよう繰り返し連絡を取り合うことが必要」と強調。加えて「広い県土の中、どこがどのような状況なのかを把握し、トラックが通れるルートを見極めた上で対応することが大切」と話す。
 2013年、本部と各支部に衛星携帯電話とポータブル発電機を導入し、行政や自治体、会員各社との連絡体制を確立した。
 宮城県トラック協会(庄子清一会長)は、災害時のきめ細かな緊急輸送体制の構築に注力している。本部が災害時協定を結ぶ宮城県、仙台市に加え、各支部と市町村も13年から15年にかけて順次協定を締結。これにより、従来は県を経由していた各市町村からの輸送要請が支部に直接届くようになり、スピーディーな輸送体制が整った。
 ハード面では、11年8月に三菱自動車の多目的スポーツ車(SUV)「パジェロ」を導入。未舗装道路などの悪路でも安定した走行が見込める四輪駆動車を取り入れた。また、本部敷地内に備蓄庫を整備し、ディーゼル発電機や保存食セットなどを保管・管理している。更に、災害時優先電話として携帯電話を2台確保しているほか、本部に電源不要で無停電対応の固定電話機1台を、本部と各支部にアナログ回線電話機をそれぞれ配置した。
 広瀬雅彦業務部長は「協会としての輸送体制づくりは重要。自治体と各支部長、緊急輸送特別委員との連携を一層強化したい」としている。

緊急通行車両を登録 福島

 福島県トラック協会(右近八郎会長)は、大規模災害発生時の災害対策本部の設置基準を明確化するとともに、初期対応を迅速化するための役職員への連絡、指示系統などを取り決めた防災業務計画をまとめた。従来の衛生電話に加え、業務用IP無線のボイスパケットトランシーバーを本部と管内6支部、全日本トラック協会(坂本克己会長)にも配備してリアルタイムでの情報共有を図っている。
 本部、支部には食料や飲料水、アルミ毛布などを備蓄。また、大震災後の15年10月に国道4号沿いに開設した白河の関トラックステーション(TS)の広大な敷地(1万8400平方㍍)を生かし、同TSを緊急車両が待機できる中核拠点とした。緊急用のヘリポートも併設しており、救急患者用のドクターヘリの離着場としても利用されている。
 緊急通行車両などの登録手続きについても県公安委員会との事前届け出を推進。車両ごとに事前登録することで輸送依頼が来た際にスピーディーに対応できるようにするためで、現在、323台が登録(確認)証の交付を受けている。
 青森県トラック協会では、大震災の発生から3日間、停電のため外部との通信が途絶した。発電設備などを備えた会員の対応やその後の電話回線の復旧で、11年4月14日までの間に延べ23回にわたり支援物資約580㌧を輸送したが、初期に県からの要請に応えられなかったことが大きな課題となった。
 そこで、11年のうちに関係機関と連絡を取るための衛星電話設備を本部に導入。本部と各支部には、12年に各1機の自家用発電機、18年に計8機の無線機を導入し、現在も毎月通話訓練を行うなど連絡体制の強化を図っている。
 また、支援物資輸送車に使う燃料の不足が深刻だったことから、20年に県との災害協定を見直した際、県が燃料確保の義務を負う項目を新設した。今後、燃料販売業者を含めた協議会の設置も検討し、災害時には優先給油を受けられる体制づくりを目指す。
 発災時における初期対応マニュアルや、県災害対策本部へ物流専門家を派遣することを盛り込んだ防災業務計画も作成する方針で、近く理事会で承認を得る予定だ。

宮城ト協は未舗装道路などでも走行できるSUV「パジェロ」を導入

会館に防災拠点機能 山形

 秋田県トラック協会(赤上信弥会長)は、19年に列島を襲った台風19号を契機に、大規模災害が発生した際の初動対応と輸送ルートについて見直しを進めている。
 災害協定を結んでいた秋田市の物資備蓄施設が各地に分散し、道路が狭く、大型トラックを搬入できないなど多くの課題が見つかったため、県立中央公園スカイドーム(秋田市)やナイスアリーナ(由利本荘市)など県内6カ所の一次物資集積拠点について現在、協会職員が行政担当者とともに搬出入路や備蓄物資の確認を進めている。
 また、協会の災害対応マニュアルが複数存在して混乱したため、20年11月に緊急輸送検討委員会を設置し、初動対応の一本化に着手。自然災害以外にも豚熱(CSF)や鳥インフルエンザの発生に備えた内容とする方針だ。
 3カ所の協会研修センターには、それぞれ毛布、保存食、テントなどの備蓄品のほか、発電機、衛星電話、外部に電源供給が可能な自動車を備える。これら設備の実運用も含め、21年夏までに初動対応について一定の方針を固めたい考えだ。
 山形県トラック協会(熊澤貞二会長)は大震災の教訓を踏まえ18年4月、研修施設とともに災害時に対応できる防災センターの機能を持たせた山形県トラック総合会館を建設した。
 災害時には、地域住民の避難場所になるとともに、緊急物資輸送施設としての対応が可能。事務棟には衛星電話を配備し、緊急物資輸送対策本部や避難施設、救護室、風呂設備、ボランティア待機室などに転用できる。
 緊急物資貯蔵庫(253平方㍍)には、自家発電機や毛布、シート、飲料水などを備蓄するほか、フォークリフトを配備し、効率的な荷さばきを行える体制を整えている。現在、県が管理する家畜伝染病防疫資材などの一部を備蓄しており、2月中旬からは、地元青年会議所のボランティア活動に使用する用具、資材類の備蓄も引き受けている。
 また、敷地の3分の1に当たる5千平方㍍の遊休地を利用した、山形県の防災センター建設の誘致運動も進めている。石黒光弘専務は「総合会館は県の中央部に位置し、高速道路のインターチェンジにも隣接する好立地。緊急輸送では物流のプロとして物流専門家や車両をすぐに集められる。これらの利点を強くアピールし、県防災センターを誘致したい」としている。

秋ト協が備えている自家発電機
岩手安行文化センター「アピオ」では、トラックを直接乗り入れられるようにして緊急支援物資の搬出入を迅速化(11年4月12日)




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