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改正貨物事業法、業界一丸へ合意形成を事業者むけ周知がカギ「労働条件改善」前面に

行政

2019/01/10 0:00

 改正貨物自動車運送事業法がトラックドライバーの労働条件改善、事業者の健全発展の決定打となるか――。全日本トラック協会(坂本克己会長)での検討開始から、議員立法による国会での可決、成立まで5カ月弱という異例のスピードで実現したが、荷主勧告の強化、標準的運賃の告示制度創設など政策の大きな転換点となる可能性の高い措置を規定。ドライバーの働き方改革に加え、業界の適正化・健全化へ期待が高まる。一方、超スピードで実現したことから、法改正の趣旨を理解している事業者は多いとはいえず、悪影響を指摘する声も上がる。荷主や国民の理解・協力を得るには、まず業界内が一枚岩となる必要があり、施行までに合意形成と意識醸成に努めることが求められる。(田中信也、黒田秀男、佐々木健、井内亨、小菓史和、黒須晃、江藤和博)  12月8日未明、参院本会議で可決、成立した改正貨物自動車運送事業法は、働き方改革関連法の施行により、自動車運転業務にも時間外労働への罰則付き上限規制が適用されることから、「この機を逃したらあかん」(坂本氏)と、ドライバーの労働条件改善とともに、事業者の健全な維持・発展を目的に全ト協を中心とした業界労使が実現を模索してきた。  働き方改革関連法の施行から「5年」の猶予期間を踏まえ、2023年度末までの時限措置として、違反の恐れのある荷主に対して国土交通、農林水産、経済産業、厚生労働の各大臣の協力による要請・勧告などの働き掛けや「適正原価、適正利潤」を基準とした標準的運賃を告示する制度を創設するのが最大の目玉。  また、悪質事業者の排除を目的とした健康保険未加入への改善命令や、車庫の整備・管理の明確化などを規定する「事業の的確な遂行に関する順守義務」の新設、行政処分による事業廃止後の欠格期間の現行2年から5年への延長、荷主勧告を受けた事業者の公表制度の法的位置付けなどを恒久的な措置として講じる。  坂本氏(80)は「再規制ではなく、時計の針を30年前に戻したわけでもない」と強調するが、事業法改正により、物流2法施行後の行き過ぎた規制緩和で弱体化した業界に適正化・健全化を促す効果が期待されている。  異例のスピードで議員立法として起案され、全会一致で可決されたのは、事業者の発展よりも、ドライバーの労働条件改善を前面に押し出したことが大きい。議員立法としての成案に向けては運輸労連(難波淳介委員長)、交通労連(山口浩一委員長)など労働団体にいち早く協力を求め、それぞれのルートで要請活動を展開したことが功を奏した。  改正法の成立を受け、運輸労連は「『安全・安心・安定』と『信頼』の物流システム構築を目指し、ドライバーの労働条件をはじめとする課題解決、魅力あふれる産業を目指し、不断の運動を進めていく」とコメントしている。  事業者にとっても、「悪貨が良貨を駆逐する」不健全な競争環境や、下請けの多層化が進んだことによる不適正な取引構造の改善に向け、期待が高まる。東配(仙台市若林区)の渡辺誠治社長(60)は「これまで要請事項に過ぎなかったことが改正法に盛り込まれたのは評価する。運用面でどうなるか関心を持って見守りたい」と語る。  ただ、「何も聞いていない」「全ト協から説明が無かった」「専門紙の報道で初めて知った」など改正法の中身を正確に理解していない、あるいは説明を受けていないとする事業者は、都道府県トラック協会の幹部も含めて少なくない。  実際には、11月20日に開かれた自民党トラック輸送振興議員連盟(細田博之会長)の総会での報告を前に、全ト協が同月中旬、県ト協会長宛てに各都道府県選出の国会議員へ法改正の協力を求めるよう要請文を出している。ただ、電光石火で改正を実現させるため、県ト協の会員事業者に対する周知・説明が後回しになったことは否めない。  法改正で新たに盛り込まれる措置では、特に標準的運賃創設への関心が高い。交野運送(大阪府交野市)の田崎一人社長(42)は「顧客に標準的運賃を提示できるのは非常に喜ばしい」と歓迎。その上で、「標準貨物自動車運送約款の改正時以上に周知が必要となる」と指摘する。  野田運送(守口市)の野田義雄社長(65)は、運賃と料金を別建てとする標準運送約款の改正に4割程度の事業者が未対応であることを踏まえ、「法改正について把握している荷主はまだまだ少ないので、トラック事業者がしっかり交渉していくことが重要。『仏作って魂入れず』にならないよう、十分に議論を重ねて欲しい」と注文を付ける。  宗和物流(岡山市南区)の森末章博社長(37)は「特別積合せ運賃のイメージで強制力は無く、目安にもならないだろう」と指摘。その上で、「どうせなら高めに設定して欲しい。当社は原価に適正な利潤を乗せ、これまで通り誠実な数字を荷主に提示していきたい」と話す。 【写真=事業法改正案に全ての与野党が賛成したように、業界内の合意形成を図る必要がある(12月4日の衆院国土交通委員会)】





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