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政府/副業・兼業を推進、労働時間管理どうする? 改善基準、合算して順守

行政

2018/08/30 0:00

 政府は、人手不足解消や労働者のキャリアアップ・収入増に向け、副業・兼業を推進している。これを踏まえ、厚生労働省は労働者が副業・兼業しやすくなるよう「モデル就業規則」を一部改定し、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と明記。一方、物流業界では、運輸労連などが「ドライバーは現時点でも働き過ぎなのに、更なる長時間労働を招くことになりかねない」と警鐘を鳴らす。しかし、副業・兼業の希望者は年々増加しており、実際に行う労働者はこれから増える可能性がある。労務管理の方法などルールをまとめた。(辻本亮平)  Q 副業・兼業は自由に行えるのか。  A 原則として自由に行える。判例では、働いていない時間をどのように過ごすかは、基本的に労働者の自由である、とされている。  Q 問題がある場合は禁止できる。  A モデル就業規則では①労務提供上の支障がある②企業秘密が漏洩(ろうえい)する③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある④競業により、企業の利益を害する――場合は禁止できる。  Q 労働者は雇い主に届け出る必要がある。  A 従業員が副業・兼業を行うことで「労務管理に支障は無いか」「企業秘密が漏れないか」「長時間労働を誘発しないか」などを確認するため、事前に会社へ届け出る必要がある。また、厚労省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で、副業・兼業を行う前に、労使でよく話し合い、納得感を持って進めるよう求めている。  Q 運送事業者が関わった判例は。  A 準社員のアルバイト許可申請を4回にわたって断り続けた運送事業者が、慰謝料を支払うことになったケースがある。アルバイトを許さなかった4回のうち、2回は理由が無く、不法行為に当たるとされた。また、年に1、2回、アルバイトをしていたドライバーを解雇しようとして無効となったケースでは、このアルバイトが「職務専念義務の違反や信頼関係を破壊したとは言えない」ことが判決の理由となった。  このように、特段の理由なく副業・兼業を禁止することはできない。一方、運送事業者で管理職を務めていた従業員が競合他社の取締役に就任したケースは、懲戒解雇事由に該当するとされ、解雇は有効との判決が出た。  Q 運送業界で副業・兼業を推進するのは時期尚早との声もある。  A 長時間労働や過労死の多い運送事業では、副業・兼業をすると健康を害する恐れがある。厚労省はトラックドライバーの労働環境を是正するため、改善基準告示の中で、連続8時間以上の休息期間を確保するよう求めているが、副業・兼業を行うドライバーが守るのは難しい。  想定されるケースとしては、本業でトラックドライバー以外の仕事をしている労働者が、夕方から3、4時間程度、副業・兼業でトラックに乗務することが考えられる。ルートは、長時間労働になりにくいコンビニ配送などが挙げられる。  Q 副業・兼業を行うトラックドライバーの労務で留意すべき点は。  A まずは安全教育を意識的によく行うこと。雇用者は、従業員の本業と副業・兼業での労働時間をともに把握しなければならないため、IT(情報技術)機器を使うなどして確実に労務管理をすることが推奨される。  Q 改善基準告示を守らなければならない。  A 一般の労務管理と同様、本業と副業・兼業の労働時間を通算して適用する。なお、それぞれの雇い主がドライバーの通算した労働時間を把握するやり方は、厚労省のガイドラインで「労働者からの自己申告によって把握することが考えられる」とされている。同省では7月から、健康を損なわずに副業・兼業を行えるような実効性の高い労働時間の把握の仕方について検討を始めている。  Q 労働基準法上の労働時間の規定はどう適用するのか。  A 本業と副業・兼業での労働時間を通算して適用する。合算して法定労働時間を超える場合は、後で労働契約を結んだ事業者に三六(サブロク)協定締結や割増賃金支払いの義務が発生する。  例えば、A社と「所定労働時間8時間」の契約を結んでいる労働者が、B社と「所定労働時間5時間」の契約を結び、8時間働いた日と同じ日に5時間働いた場合、B社で働いた5時間が法定時間外労働となる。  また、平日にフルタイムで働く契約をA社と結んでいる労働者が、土曜日に5時間働く契約をB社と結んだ場合、法定労働時間は平日で使い切られているため、土曜日の5時間分の労働は法定時間外労働となる。  なお、本業と副業・兼業での労働契約上の所定労働時間を通算しても法定労働時間内である場合は、残業をさせるなどして法定労働時間を超えさせた雇い主に、三六協定締結・割増賃金支払いの義務が発生する。  Q 短時間労働者の健康診断の実施義務は。  A 所定労働時間の4分の3以下の契約を結んでいる場合は必要ない。本業と副業・兼業の労働時間を合わせると4分の3を超える場合も同じ。ただし、雇い主が労働者に副業・兼業を推奨しているケースでは、労使の話し合いを通じ、必要な健康確保措置を講じることが望ましい。  Q 労働災害保険給付額はどう算定するのか。  A 労災が発生した就業先の賃金に基づいて算定する。また、労災保険法に基づく業務の過重性の評価も、事業所ごとに行う。なお、A社で勤務した後、B社へ移動する途中で労災に遭った場合は、B社での通勤災害となる。B社の労災保険を使って保険給付を受けられる。 【写真=夕方から3、4時間程度、トラックによるコンビニ配送を副業・兼業にするケースなどが想定される(イメージ写真)】





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