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最賃引き上げ、原資確保へ対応必至 来年度「1000円超」向け パート雇用 センター業務に支障

荷主

2018/08/30 0:00

 2018年度の最低賃金改定額が全国で決まり、引き上げ率が3年連続で3%を超えたことから、トラック運送事業者は給与体系の見直し、利益率の向上といった対応を迫られている。特に、物流センターで働くパート従業員に関しては、賃金の引き上げが求められる事業者も出てきそうだ。一方、ドライバーについては、既に最低賃金をクリアしている事業者が大半とみられ、「時給1千円程度までは対応可能」な見通し。しかし、19年度には東京都で千円を超えるとみられており、給与体系の見直しだけでは限界がある。給与の原資となる適正運賃の収受に向け、継続的に取り組む必要がありそうだ。(辻本亮平、那須野ゆみ、井内亨、河野元、星野誠)  厚生労働省は10日、18年度の最低賃金(時給)の改定額が全国で答申された、と発表。引き上げ幅は全国加重平均で26円となった。各都道府県で10月から順次、適用される。このままのペースでいけば、最低賃金が最も高い東京都では19年度に千円を、最も低い鹿児島県では20年度に800円を、それぞれ超える見通しだ。  引き上げ率は3年連続で3%を超え、政府が「働き方改革実行計画」で示した目標に沿う形となった。今後も3%程度ずつ引き上げられることが予想されるが、共通運送(札幌市白石区)の前田裕総務部長(58)は「パート従業員の確保が難しく、最低賃金の引き上げはやむを得ない。しかし、上がった分が、すぐに運賃や料金としてもらえるわけではないので、大変頭が痛い」と述べる。  同社では、賃金を見直すために荷主との交渉を続けており、「ドライバーの給与は最低賃金を上回っているが、物流センターのパート従業員については対応しなければ、センター業務に支障を来す恐れがある。一にも二にも、原資となる運賃・料金の値上げにかかっている」。  また、上伊那貨物自動車(長野県駒ケ根市)の小池長社長(58)も「(最低賃金の引き上げは)働き方改革を推進する上で当然、理解できる流れ」とした上で、「当社では、最低賃金で働いてもらっているわけではないが、賃金テーブルを見直し、給与総額の中で各項目の金額をやり繰りする必要が出てくるだろう。結局は、運賃収入アップを図り、賃金を上げていく方向が望ましい。しかし、収入を増やすのは極めて大変だ」と強調する。  このように、最低賃金が引き上げられることから、トラック運送事業者には適正運賃収受に向けた対応が迫られている。こうした中、石原運輸(千葉県柏市)の石原敏和社長(49)は「(引き上げ額の)数値が公表されるため、運賃値上げ交渉の材料になっていい」と評価する。  また、最低賃金の引き上げについては「総額の『決め方』と『支払い方(明細)』は別で、最低賃金が上がって変わるのは『支払い方』。総額の決め方が変わらないようにする」ことで対応。「固定給の内訳部分を毎年10月に上げており、最低賃金が時給1千円になるまでは、総額が上昇することはない」  最低賃金引き上げの対策として考えられるのは、利益率の向上に加え、給与体系を工夫することだ。しかし、利益率の向上は一朝一夕にできることではなく、短期的な対応としては現実的ではない。  中田商事(中田純一社長、三重県伊賀市)では、トラックドライバーの給与体系に時間給制を採用。これにより、適正な労務管理がしやすくなった。中田社長(55)は「時給制の当社では、最低賃金を社内時給の最低ラインに定めている。全体のバランスと整合性を図る必要はあるが、最低賃金引き上げは想定の範囲内。三重県も800円台半ばに上がるが、千円ぐらいまでは想定している。現時点で、特に慌てることはない」と話す。  同社は2月から、給与体系だけでなく、運賃にも時間制を導入。定期便のドライバーの勤務を一定の時間で区切り、原則として残業を無くすのに加え、人件費も管理しやすくしている。  最低賃金をクリアしているかどうかは、所定内給与(割増賃金、賞与、皆勤・通勤・家族手当除く)の金額を、1カ月当たりの所定労働時間数で割れば確認できる。また、歩合給を設定している場合は、歩合給を1カ月当たりの総労働時間数で割り、「所定内給与÷所定労働時間数」と足せば判別可能だ。  保険サービスシステムHD(橋本卓也社長、東京都千代田区)で取締役を務める、特定社会保険労務士の馬場栄氏(50)は「最低賃金は、今年度以降も3%程度ずつ上昇していくと思われる。特に、パートやアルバイトとして働く従業員への対応が迫られており、トラックドライバーも同様だ。しかし、最低賃金をクリアするために基本給を上げていくやり方では、時間外労働の割増賃金支払額が膨大になってしまう。時間外労働が長くなりがちなトラック運送は、経営が立ちいかなくなる」と指摘する。  「自動車に乗る仕事に就く時、タクシーではなくトラックを選ぶ人は、基本給を求めているケースが多い」ことも踏まえ、特に中距離程度の運行を担うドライバーについては「基本給と出来高給を合算して支払う給与体系が望ましい」と説明。基本給の割増賃金単価(時間)が「基本給÷所定労働時間数×1.25」なのに比べ、出来高給の割増賃金単価は「出来高給÷総労働時間数×0.25」で、残業代の支払額を比較的抑えられるという。  加えて、「住宅手当は最低賃金の算定式に取り入れることができ、割増賃金の対象に入らない。住宅関連の拠出がある従業員(賃貸住宅を借りている場合や、ローンの支払いをしている場合)に出すことができる」と話す。  また、ドライバーにとって透明性が高く、公平な給与体系とするため、「出来高給の金額を『社内運賃』で決めるやり方が望ましい」と強調。配送ルートの大変さを荷役の程度や走行距離などでランク付けし、大変なほど多くの給与を支払うやり方で、「制度設計や運用が難しくなく、ドライバーにとっては『この運行をやればいくらもらえる』というのがはっきり分かる。ドライバーの定着率の向上などにも役立つ」。  こうしたことを踏まえ、馬場氏は「給与を多く支払うため、荷主と交渉するにも、それをしやすい会社と、そうでない会社がある。経営を守りながら、ドライバーにとっても納得できる給与体系を構築する必要がある」と強調する。  賃金体系の工夫は、最低賃金の引き上げに対応しなければいけない事業者にとって「即効薬」と言えるだろう。また、ドライバーにとって公平で透明性の高い給与体系を構築することも、経営にプラスとなる。  しかし、先々のことを考えれば、「適正な運賃を収受できていない」という根本の課題を解決しない限り、いずれ経営は行き詰まる。長時間に及ぶ残業も、大きな課題として横たわっている。荷役料金の別建て収受など、国が進める施策も踏まえ、継続して是正に取り組む必要がある。 【写真=トラック運送業界では利益率を高めなければならないケースも考えられる(イメージ写真)=一部画像処理】





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