熊ト協&協会けんぽ熊本、健康経営で魅力づくり 会員事業所むけ指導 きめ細かい管理が必要
物流企業
2018/08/02 0:00
健康経営は労働力確保の切り札――。ドライバーをはじめとする従業員の健康管理は、事業者にとって最重要の経営課題の一つだ。こうした中、熊本県トラック協会(住永豊武会長)は全国健康保険協会(協会けんぽ)の熊本支部(斉藤和則支部長)と連携し、会員事業所の健康指導に乗り出した。一方、企業側は「魅力ある職場づくりこそ人手不足解消につながる」として、健康増進への取り組みに注力。「健康企業宣言」を行い、働きやすい職場環境整備を進める企業が増えてきている。(武原顕) 熊ト協と協会けんぽ熊本支部は2017年10月、「健康づくり推進のための協力連携に関する協定」を締結。トラック協会が協会けんぽと協定を結ぶケースは全国的にも珍しい。同支部は、独自に策定した基準に基づき、従業員の健康づくりに積極的な企業を認定する「ヘルスター認定制度」を設けており、7月10日時点で県内トラック事業者の60事業所が認定を受けているという。 熊ト協の住永会長(74)は「脳・心臓疾患に起因する交通・労働災害事故が多い。健康に配慮した経営に取り組んでいる企業が多いが、きめ細かい管理が必要」と指摘。人手不足解消、長時間労働是正といった経営課題に直面する中、「従業員がいきいきと働くことのできる職場環境の整備を促す」と協定締結の意義を説く。 具体的には、県民の健康寿命延伸を目指し、健康診断の受診勧奨や保健指導、健康相談などを通し、働きやすい職場環境整備を推進。一方で、医療費や健診結果データの分析にも取り組み、相互に協力が可能な分野で連携することで、安定的な労働力確保につなげるのが狙いだ。 こうした取り組みもあり、県内では健康経営に向けた取り組みを実践する機運が向上。経済産業省が創設した健康経営優良法人認定制度では今年、運送事業者から熊本旭運輸(於久初治社長、益城町)、AZUMA(上田裕子社長、嘉島町)の両社が認定された。 「10人が禁煙に成功した」と語るのは、熊本旭運輸の於久社長(64)。83人の従業員のうち半数以上が喫煙者だったが、「17年9月、敷地内に冷暖房を完備した喫煙所を設け、まず分煙から始めた。その過程で、禁煙を決意したのはドライバーたちだった」と喜びを隠せない。協会けんぽのデータでは、禁煙に踏み切れるのは一握りとされているだけに、取り組みは成功といえるだろう。保健士によるきめ細かい保健指導の効果も大きく、胃がんや大腸ポリープの早期発見につながった事例もあったという。 山地智治次長(42)も「健康に自信があり、定期健診を受けたがらないドライバーもいるが、保健士の熱心な指導はもちろん、職場全体が健康を目指そうという雰囲気になったことが大きい」と話す。健診の受診率は100%。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査も全員が受診しており、現在6人が治療中だ。出張歯科健診の活用や「歩こう会」主催のレクリエーション、定例の安全衛生会議、美化活動など「あの手この手」で健康づくりに励み、従業員のコミュニケーションも深めている。 一方、AZUMAでは従業員90人の平均年齢が45歳と年々高まっているものの、上田社長は「健診の受診率は100%。大きな病気も発見されていない。健診で引っかかった従業員は、保健士から熱心な指導を受けている」と強調。「5年前から血圧計を導入し、早くから健康経営を心掛けてきた。認定制度への申請も苦にならず、スムーズにできた」 また、申請に関わった総務課の柿本留井氏は「本社では健康ドリンク、サプリメントなど栄養補助食品を準備している。社内報でも健康経営を取り上げ、意識の徹底を図っている」と説明する。 ただし、健康経営に成功している企業ばかりではない。協会けんぽ熊本支部は18年6月、熊ト協支部連絡会議で、熊ト協に所属する754社の会員事業所のうち650事業所から抽出した17年度の健診結果に基づくデータを提示。メタボリックシンドロームの該当者の割合が県平均の1.3倍、高血糖が1.4倍、喫煙者の割合は1.5倍――という深刻なものだった。 この結果に対し、協会けんぽ熊本支部企画総務部保健グループの伴美紀保健グループ長は「他業種に比べて健診結果の数値が高く、異常値といえる危険信号が出ている」と警鐘を鳴らす。今後、保健士による事業所訪問を増やし、「受診率の向上はもちろんだが、強制的にでも徹底した健康指導に努めたい」と強調する。 厚生労働省は18年度から、健診受診率など五つの評価項目に基づいて47都道府県のけんぽ支部をランク付けし、上位過半数の支部の健康保険料を引き下げる「保険料インセンティブ制度」を始めた。受診率が保険料率に影響するだけに、受診率向上は協会けんぽだけでなく、企業にとっても至上命題。10月からは、継続的に「健診未受診」がみられるトラック事業者に対して重点的な監査が実施される。ただ、受診率の数字にばかり気を取られては、ドライバーの健康は維持できない。実効性のある取り組みが求められるだろう。 【写真=健康経営優良法人の認定証を手にするAZUMAの上田社長(左から2人目)と社員】