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脱「嫁ブロック」、家族の満足度向上カギ 「仕事を変え もっと稼げ」

産業

2018/07/26 0:00

 少子高齢化に伴う深刻な労働力不足の中で、内定辞退や人材流出に拍車を掛けているのが「嫁ブロック」(妻による反対)だ。トラック事業者は「あの手この手」で人材確保に取り組んでいるが、せっかく内定を出しても「妻から反対された」という例が後を絶たない。こうした事態を打開するため、事業者はホームページ(HP)やブログによる情報発信、家族参加型イベントの企画、地域へのアピールなどに注力。従業員満足度(ES)にとどまらず、人材の採用や定着のカギを握る「家族」の満足度を高めようとする企業が増えてきている。ただ、企業個別の努力には限界があり、業界を挙げてのイメージ向上、適正運賃・料金の収受といった取り組みも求められそうだ。(岡杏奈)  札幌市内のある会社では、「妻から『帰って来られない日があるような仕事は辞め、違う会社に転職して欲しい』と言われた」として、子供が生まれたばかりのドライバー2人が退職した。この会社の役員は「ドライバー自身はこのまま当社で働きたかったようだが、結局、奥さんを説得できず退社してしまった。人員や配置の都合もあり、融通を利かせることができず、残念。気持ちは分からなくもないが、子育ては一過性のことなのに」と肩を落とす。  また、別の会社では、ドライバーの家族が生活水準に見合わない外車を購入したにもかかわらず、妻から「稼ぎが足りない。仕事を変え、もっと稼いでこい」と不満を言われ、泣く泣く退社した事例も。「給与体系を変更したわけでなく、生活水準に見合わない買い物だったのに、会社のせいにされても困る。ドライバー自身は頑張っていただけに、やりきれない」(社長)と憤る。  運送業界に限らず、じわじわと浸透してきている嫁ブロック――。求人求職情報サービスなどを手掛けるエン・ジャパンが行った「嫁ブロック実態調査」によると、男性(35歳以上)の4人に1人(24%)が「嫁ブロックをされた経験がある」と回答している。ブロックされた理由(複数回答)は「年収が下がる」が42%で首位。30代に限ってみると、「有給休暇の取得率が低い」が57%、「年間休日日数が少ない」29%、「残業が多そうだから」は29%と、労働時間に関する理由が多くなっている。  政府が進める「働き方改革」の中で、特に生産性向上が求められる業種に位置付けられたトラック業界では、長時間労働を理由とした嫁ブロックが多いとみられるが、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)を重視する企業も増えている。  清水運送(北海道清水町)の梶竹征社長(73)は「当社では、できるだけプライベートな時間を持たせられるよう取り組んでいる。『仕事最優先』だった昔と違い、仕事と家庭の両立を重視する人が増えているように感じる。早く帰宅し、家族との時間を持てるということも人材定着につながる」と力を込める。  また、北栄運輸(中尾光昭社長、浦幌町)では、一日の労働時間によって、休日の日数を変えている。中尾社長(51)は「一日の労働時間が長ければ休日を増やし、一人当たりの労働時間が大体同じぐらいになるよう調整しており、休みが月10日ある従業員もいる」と強調。更に、翌日を気にせずに、家族との時間を楽しんで欲しいという思いから「ほとんどの社員に対し、月に1度は3連休になるようシフトを組んでいる」と説明する。  ただ、注意しなければならないのは「嫁」だけではない。特に、新卒や若年者に多い「親ブロック」も増加。最近は、子供がスマートフォン(スマホ)で社名を検索し、HPや口コミを見て転職を勧める「子供ブロック」まで出てきており、魅力的なHPの構築やブログの更新、フェイスブックなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による情報発信の重要性が増している。  丸吉運輸機工(北広島市)の吉谷隆昭社長(44)は、従業員はもちろん、その家族、検索してくれた人に社内の様子を開示し、会社や業界を知ってもらいたいという思いで、2011年4月1日からブログをスタート。18年7月22日時点で2670日間、毎日欠かさず更新している。これが実を結び、妻がHPを検索して「この会社なら大丈夫」と太鼓判を押されて入社してきた人もいるという。  また、会社のことをよく理解してもらうため、家族や地域を巻き込んだイベントを催す企業もある。家族参加型の花見を40年以上続けている大和輸送(大頭和彦社長、北海道白老町)では、小学生以下の子供を持つ従業員に対し、子供が希望するオモチャやゲームソフトなどを事前にリサーチして当日プレゼント。家族にもゲームの景品として、テレビや掃除機など豪華景品をそろえている。  2016年には、長年継続してきた無事故手当の基準を一新。全車に取り付けているドライブレコーダーの採点機能を利用し、100点満点を700円として1日単位で計算、合計金額を無事故手当としてドライバーに贈呈している。こうた取り組みが奏功し、以前に比べて事故が格段に減少。大頭社長(49)は「家族を交えた親睦会を開くことで、働いている環境を知ってもらいたい。また、安全最優先であることが家族にとっては一番重要なので、無事故は絶対。家族から愛される会社にしていきたい」と笑顔を見せる。  一方、光輪ロジスティクス(沼崎孝則社長、登別市)では地元、登別市の観光名所のラッピングトラックで地域にアピール。絵本「ウォーリーを探せ」のようなユニークなラッピング車で地域の注目を集めている。沼崎社長(40)は「地元にも『こんなに面白い会社があるんだ』と地域の人や子供たちにアピールしたい。ほかにも周年祭や焼き肉など家族参加型のイベントを企画し、社員の家族にも会社に愛着を持ってもらえるよう取り組んでいる」と強調。  更に、「こうした取り組みの成果か、現在はドライバーの9割が従業員の紹介による入社だ。ドライバーの定着につながっていると感じるとともに、家族や仲間に紹介できる会社と思ってもらえることはうれしい。『ここがお父さんの会社なんだ』と誇りを持ってもらえるような会社を目指したい」と意欲をみせる。  このように、家族の満足度向上に成功している企業もあるが、これだけでは、嫁ブロックの理由の1位である「年収の低下」は解消できない。また、ブロックする理由の2位には「転職先の企業や業界に、あまり良いうわさを聞かない」が挙げられており、これら課題の解決には企業個別の努力では限界がある。  業界を挙げて、早期に適正運賃・料金の収受、魅力向上を実現する必要があるだろう。 【写真=ユニークなラッピングトラックで地元をPR(光輪ロジスティクス)】





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