西日本豪雨、物流機能が一時寸断 メーカー 従業員の通勤困難 在庫拠点の分散加速
産業
2018/07/23 0:00
西日本豪雨によって甚大な被害が生じた広島県では、経済活動でも大きな打撃を受けている。高速道路や主要な国道の通行止めに加え、西日本旅客鉄道(JR西日本)が山陽本線の一部区間や呉線などを運休したため、物流機能や通勤手段が一時的に寸断。メーカーの中には、在庫拠点の分散を加速させたり、新たな輸送手段を検討したりする動きも出始めた。また、基幹産業である自動車メーカーでは従業員の通勤が困難な状況が続いており、生産体制が完全復活するまで長期化する見通しだ。(矢野孝明) 調味料メーカーのオタフクソース(佐々木直義社長、広島市西区)は、災害発生当初から県外への出荷を試みたものの、道路の通行止めにより断念。6~8日はトラックが県内から出ることができず、10台以上が製品を積んだまま引き返した。 中国自動車道の通行止めが解除された9日から、徐々に状況が改善。それでも数日間、大阪や名古屋、東京など東方面は、通常の3割程度しか出荷できなかった。14日には、山陽自動車道も全線開通。主要な道路インフラの復旧により、通常の90%以上を出荷できるまでに回復した。 ロジスティクス部の小田孝広部長(51)は「一時は渋滞によって輸送時間が全く読めず、綱渡り的にトラックを手配しながら、何とか乗り切った。ドライバーのプロ意識の高さに頭が下がり、物流パートナー各社には本当に感謝している」と話す。 トラック輸送はほぼ平常に戻ったものの、山陽本線の運休は続いたままだ。北海道と東京方面の一部で採用しているJRコンテナ輸送については、トラックだけでなくカーフェリーを含め運行再開まで代替輸送でしのいでいる。 JR西日本によると、山陽本線の復旧は、海田市―瀬野が8月中旬を予定、全線開通は11月までかかる見通し。オタフクはコンテナ輸送の比率が全体の物量の数%に過ぎないが、今後はフェリーの定期利用など、新たな輸送モードも検討していく。 また、同社では以前からBCP(事業継続計画)の一環として在庫拠点の分散を推進。リスクマネジメントの観点から関西地方にも物流センターを計画している最中に、豪雨災害が発生した。 小田氏は「当社の場合、広島の工場機能を移転するのは難しく、在庫拠点の分散を進めている。発災前に関西センターができていたら、そこから関西以東や岡山エリアへ輸送できたかも知れない。メーカーとしての供給責任を果たすため、最善を尽くす」と説明。同センター開設への取り組みを加速させ、11月中の完成を目指す。 一方、基幹産業の自動車メーカーでは、豪雨の影響が長引いている。JR運休などにより従業員の出勤がままならないマツダは7日の昼勤から、本社宇品工場(広島市南区)と防府工場(山口県防府市)の操業を一時停止。部品確保に一定のメドが立った12日から再開したものの、宇品工場は昼勤のみの短縮操業にとどまった。 マツダは大規模災害対策も踏まえ、宇品工場の生産機能を防府工場に分散。多くの部品メーカーも、マツダの動きに合わせるとともに、自社の工場が被災した際には、別工場での代替生産や輸送、従業員の通勤手段を確保する手順など、BCPを策定していた。 しかし、各地で多様な交通インフラを破壊した豪雨は、自動車産業の想定を上回ったようだ。県内の大手部品メーカーの幹部社員(50)は「防府工場は早期に通常操業したが、生産を増やして宇品工場の減産をカバーするにも、広島から防府まで部品を運ぶトラックを確保するのは困難」と指摘。 更に、「普段の運行は、荷役作業も含めて1往復2時間のところ、防府工場にシフトすると、5時間程度まで延びてしまう。ドライバー不足や労務管理の観点から、運送会社も対応しきれない」とみている。 マツダは18日、宇品工場の操業について、部品の供給や従業員の通勤に一定の見通しが立ったため、23日から8月10日までは、生産量を抑えながら昼夜勤の2直操業を再開する、と発表した。一方で、復旧活動を妨げることのないよう、交通網への負担を最小限にとどめる通勤・物流を徹底する、との考えを示している。 部品メーカーの幹部社員は「県内にあるサプライヤー約80社の多くは、フル稼働に対応できる準備を整えている。地域経済を守るためにも、夏季休業明けには平常に戻って欲しい」と期待する。 【写真=自然災害を教訓にBCPを進化させるオタフクソースの本社工場(広島市西区)】