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西日本で記録的豪雨 物流の大動脈が寸断 土砂で橋梁流失

産業

2018/07/12 0:00

 記録的な豪雨が西日本を襲った――。気象庁は6日から8日にかけて、数十年に一度の重大な災害が予想される場合に出す「大雨特別警報」を11府県に発令。高速道路や国道といった幹線道路が至るところで通行止めとなり、物流の大動脈が寸断された。高知自動車道では橋梁(きょうりょう)の道路部分が土砂に流され、復旧作業は長期化する見通し。鉄道にも障害が出ており、広島貨物ターミナル駅では貨物が停滞している。陸路が断たれたため、フェリーなど海路に活路を見いだす運送事業者も出てきているが、中四国を経由する幹線輸送は今後、山陰や四国がメインとなる可能性が大きそうだ。(江藤和博、矢野孝明、上田慎二、武原顕)  最も多くの死者が出た広島県では、6日から山陽自動車道、国道2号で通行止めが相次いだ。物流の大動脈が寸断され、広島県内のスーパーやコンビニエンスストアなどでは9日時点でも弁当、惣菜、パンを中心に品切れの状態が続いている。また、食材の調達が難しいことから、休業する飲食店も出ている。  西日本高速道路によると、7日午後6時時点で1741キロの区間が通行止めとなっている。このうち山陽道の河内インターチェンジ(IC)-本郷IC、志和IC-広島東IC、中国自動車道の新見IC-北房ICなどは、土砂流入やのり面崩壊などにより「復旧までに相当な時間を要する見込み」としている。  日本貨物鉄道(JR貨物)にも大きな障害が出ている。西日本旅客鉄道によると、9日から山陽本線の海田市駅-岩国駅、徳山駅-新山口駅で運転を再開しているが、海田市駅-三原駅は運転再開には相当の時間がかかる見込み。特に、急勾配(こうばい)のため貨物列車を補助機関車で押して運行することで知られる通称「セノハチ」(瀬野駅-八本松駅)で土砂流入や変電所の水没が発生しており、広島貨物ターミナル駅(広島市南区)に集まった貨物が滞っている状況だ。  JRコンテナ貨物を扱う広島運輸(田中保昭社長、広島市南区)の鈴木正道専務は「完全復旧には相当の時間が掛かるだろう。東方面への代替手段として広島駅以外でコンテナを積み替えるには、福山駅か岡山駅になる。しかし、コンテナを運ぶトラックは小回りが利かず、大きな主要道路しか通れない。う回にも制約が大きい」と説明する。  県内各地で道路の通行止めが続いているため、トラックも渋滞に巻き込まれ、長時間の乗務を余儀なくされている。また、マツダは8日、本社工場(広島県府中町)と防府工場(山口県防府市)の生産を9、10の両日、休止することを決定。物流網の寸断が基幹産業の操業にも大きな影響を与えた格好だ。  四国では、高知自動車道の新宮IC-大豊ICの立川橋(全長約63メートル)の道路部分が土砂に流された。復旧作業は長期化する見通しで、物流に大きな影響が出るのは必至だ。高知県トラック協会(森本敬一会長) の西村伸矢専務は「下り線をどう開放するのか、今後の動向を注視している。当面は、国道197号や32、33、55号を通って対応するしかない」と懸念を示す。  愛媛県では土砂崩れや冠水、洪水などにより宇和島市吉田町や西予市、大洲市で特に大きな被害が発生。愛媛県トラック協会(一宮貢三会長)によると、肱川の氾濫(はんらん)によって市街地が水没した大洲市では、保有車両のほぼ全てに当たる10台のトラックが浸水した運送会社もあるという。愛媛ト協では、会員の被災状況など具体的な情報を収集。7日には県の要請で、被害の大きかった大洲市に向け、県が備蓄する毛布1800枚を松山市からトラック1台で輸送している。  他のトラック協会でも緊急輸送の要請に対応しており、岡山県トラック協会(遠藤俊夫会長)は7日、県から緊急輸送の要請を受け、避難所2カ所に毛布を運んだ。また、徳島県トラック協会(粟飯原一平会長)でも8日、徳島市からの要請で東海運(粟飯原社長、徳山市)が15トン車1台を提供。倉敷市の施設にミネラルウォーター、食料、毛布を輸送した。  また、陸路が断たれる中、海路にトラックが殺到。広島-呉-松山でフェリーを運航する瀬戸内海汽船(仁田一郎社長、広島市南区)では7、8の両日、全便が満車となった。広島港(広島市南区)-呉港(呉市)でも予約があふれ、各港付近では乗船を待つ車両で渋滞が起こった。  柳井港(山口県柳井市)-松山港(松山市)を就航する防予フェリー(瀬尾典利社長、山口県柳井市)も同様の状況だ。通常はトラックの利用が半数以上を占める航路だが、渋滞を回避するトラックも押し寄せ、キャンセル待ちが多く出た。  中四国を経由する幹線輸送は今後、山陰や四国がメインとなる可能性が大きい。四国では、高知道で橋梁の道路部分が土砂に流されたが、松山自動車道と徳島自動車道は通行可能。臼杵港(大分県臼杵市)と八幡浜港(愛媛県八幡浜市)、または佐賀関港(大分市)と三崎港(愛媛県伊方町)を運航するフェリー航路で四国に上陸し、松山道や徳島道を経由して関西、中京、関東などに向かうトラックが増えるとみられる。  九州北部でも土砂崩れや大雨による通行止めが発生。9日午前11時時点で、九州管内の高速道路では九州自動車道・小倉東インターチェンジ(IC)-門司ICの上下線、東九州自動車道・豊前IC-苅田北九州空港ICの上下線で通行止めが続いており、物流への影響が広がっている。  福岡県トラック協会(眞鍋博俊会長)は6日、北九州、飯塚両市から緊急救援物資輸送の要請を受け、北九州市消防局や筑豊緊急物資輸送センター(飯塚市)に備蓄していた食糧や水、毛布を被災地へ輸送した。  6日正午過ぎ、北九州市危機管理室から福岡ト協本部に入った緊急要請に基づき、市消防局に備蓄していた食糧入りの段ボール280個を市内7カ所の区役所(避難所)に向け、マルニシ(西川隆啓社長、北九州市門司区)などの2トン車3台が出動。同日夜には、筑豊緊急物資輸送センターに備蓄していた飲料水、アルファ米、缶詰パンを九州工業大学や市内の小中学校、更には毛布190枚を市内7カ所の避難所に提供した。  昨年発生した九州北部豪雨で、本社と物流センター倉庫、駐車場が大きな被害を受けた長野トランスポート(福岡県朝倉市)の長野臣巳社長は「近郊を流れる桂川が決壊することも無く、大きな被害は無かった。しかし、九州自動車道の通行止めの影響で、6日朝に熊本を出発して本社に向かう車両が、久留米市近郊で1キロ進むのに4時間を要した」と説明する。  一方、福岡市東区の博多港箱崎ふ頭から熊本方面に向かう国際海上コンテナ輸送車両にも大きな遅れが生じた。江富運輸(熊本市北区)の江富聡社長は「6日昼ごろ、箱崎ふ頭を出発した40フィートコンテナが翌日未明に熊本に到着した」と指摘。藤木運送(藤木徳昭社長、熊本県菊池市)でも、箱崎ふ頭から本社に向かう国際海コン車両を運転中のドライバーが、一般道の大渋滞で車中泊になった。本社の運行管理スタッフは、ドライバーの健康管理に全力を挙げたという。  佐賀県では6日、唐津市浜玉町で起きた土砂崩れのため、国道202号唐津バイパス、JR筑肥線が同時に寸断。松浦通運(馬渡雅敏社長、佐賀県唐津市)では一時的に、伊万里方面へのう回などの対応を強いられた。馬渡社長は「6日、隣接市でも通行止めが相次ぎ、唐津市は『陸の孤島』のような状況に陥った。県内外の営業所の拠点機能を強め、危機管理体制を再整備する必要がある」と話す。 【写真=気象庁は数十年に一度の重大な災害が予想される場合に出す「大雨特別警報」を発令(東広島市八本松西2丁目・溝迫信号機付近、7日午後1時49分撮影)】





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