大阪北部地震、物流への影響軽微 緊急輸送体制に課題 京ト協 ブルーシート配送
物流企業
2018/06/25 0:00
18日午前7時58分ごろに発生した大阪府北部を震源とする地震の影響で、その直後に主要な高速道路が通行止めとなり、一般道でも交通渋滞が発生、一時的に物流が滞るなど混乱したものの、交通事故や荷崩れなど物流企業の被害は軽微なものにとどまった。ただ、緊急物資輸送については、大阪府と被災地、トラック協会間の連携に食い違いが見られるなど、災害時の物資輸送体制に関する今後の課題が浮き彫りとなった。(落合涼二、小菓史和、蓮尾輝、高木明、高橋朋宏) 最大震度6弱を記録した枚方市のコフジ物流(堂坂佳延社長)では、自宅が一部損壊し、出勤できない従業員がいたが、業務全体への影響はほとんど無かった。本社倉庫で荷物の一部が落下したほか、渋滞の激しかった北大阪地域での集配の遅延、被災地の荷主からの出荷停止といった程度の被害で済んだ。 大信物流輸送(小林尚美社長、枚方市)でも人的・物的被害はほとんど無かった。ただ、全国ネットの長距離輸送を手掛けており、地震の発生直後から電話が極端につながりにくく、対応に追われた。府内のほとんどの高速道路が18日の昼過ぎまでに通行止め解除となったため、一部の便に延着は発生したものの、19日にはほぼ通常通りに戻った。 ワコール流通(牧邦彦社長、滋賀県守山市)は地震発生直後、物流センターのエレベーターが止まり、多層階からの出荷が午前いっぱいストップ。通常は京都府大山崎町の物流センターに納品する商品を、店舗に直接納品する対応に切り替えた。20年前から量販店向け配送は、いったん物流センターに納めた後、そこから店舗配送する仕組みを構築しており、「新たに店直用のコードや送り状の発行が必要となったため、集配業者には午後7時まで頑張ってもらった」(牧社長)という。 一方、震源地に近い京都府八幡市は19日午後3時時点で、71棟の屋根損壊や瓦落下の被害報告を受けた。京都府はブルーシート1千枚を配送するため、京都府トラック協会(荒木律也会長)に依頼。たちばな運輸(吉田敏雄社長、京都市西京区)のグループ会社、tuc(吉田知史社長、同)の4トン車1台が出動し、府庁舎から八幡市役所まで届けた。 大阪府トラック協会(辻卓史会長)は、交通機関がストップし職員の出勤もままならない地震発生直後から、常勤役員と交通・環境部のスタッフを中心に府からの緊急輸送要請に備えた。地震発生当日に要請は出なかったものの、19日の午前1時を過ぎた頃、佐藤高司部長(61)の携帯電話に府の担当者から「出動に備えてもらいたい」と緊急連絡が入った。 「被害の大きかった茨木市内の避難所へのデリバリーを想定している」との内容で、深夜から早朝にかけて会員事業者に連絡し、19日正午までに33社の協力を取り付けた。その後、「出動車両は5台を予定」との連絡を受け、2トン車5台を手配し待機させる一方、現場の指揮・連絡要員として職員を茨木市役所に派遣した。 しかし、避難者の数が想定より少なかったことや、インフラの損壊が比較的軽微だったことなどで、午後には「出動を取りやめる」との連絡を受けた。佐藤氏は「被害が比較的軽かったようで、安どしている。今後も要請があれば、速やかに対応したい」と、やや疲れた表情で話した。 共和運輸(大阪府高槻市)の新田利秀社長(67)は「緊急輸送訓練には積極的に参加してきたが、今回は連携不足でその成果を生かせなかった。人手不足で余剰人員が少ない中、運送会社も無理をしながら緊急輸送車両を工面しているため、期限未定の長時間待機を強いられるのは負担が大きい」と問題点を指摘。 更に、「有事の際には府、市、トラック協会の各者が同じテーブルを囲み、話し合える環境をつくらなければならない。今回、出動要請のあった茨木市だけでも数多くの避難所と物資集積所があるが、どの場所に、どの程度の大きさの車両が入れるのかといった情報すら不確かだ。問題が明らかになったこの機会にしっかりと整備するべきではないか」と話す。 大阪市東淀川区に本社を置く吉田運送の吉田正則社長(76)は「阪神大震災に比べると揺れも小規模で、時間も短かった。高速道路の通行止めの影響で一般道でも大規模な渋滞が発生し、ドライバーの帰社が遅れたが、業務に大きな支障が出なかったのは幸い。一方で、緊急物資輸送の面では連携に不備もあったため、大きな被害が出ると予想される南海トラフ巨大地震に向けて対応を見直す必要がある」と提起する。 営業倉庫やトラックターミナル、鉄道などでも今回の地震による大きな被害は出ていない。ただし、軽微な被害は近畿圏の各所で相次いでいる。 センコーグループホールディングスは近畿エリアに物流センター及び事業所などを約170カ所配置しているが、このうち数カ所の物流センターで、荷物の落下による破損事故があった。地震発生後の交通渋滞などで配送業務に多少の遅れが生じたが、大きな混乱には至らなかった。 岡山県貨物運送では、近畿圏にあるターミナルや流通センターに直接の被害は無かった。ただ、取引先のラック倉庫の荷崩れなどから出荷業務が一時的に滞ったという。このため、急きょ出荷場所を関西から首都圏センターに切り替え、ドライバーや集配車を手配するなど応援体制を整えた。 同社の遠藤俊夫社長は「物流の最前線では機械化や省力化が進んでいるが、『いざとなれば人力に頼らざるを得ない』との思いを改めて強くした」と強調する。 日本貨物鉄道(JR貨物)は大阪貨物ターミナル駅(大阪府摂津市)と吹田貨物ターミナル駅(吹田市)の区間(9.8キロメートル)で、架線柱が傾くなど複数の損傷を確認。地震発生直後から同区間を発着する貨物列車の運転を見合わせていたが、復旧作業を進め、20日午後18時58分に運転を再開した。 国土交通省が発表した21日正午時点の状況によると、人的被害を含め営業倉庫での重大な被害状況は報告されていない。大阪府、兵庫県内の営業倉庫31社で壁やシャッターなどに軽微な被害を確認したほか、トラックターミナル2社で通路の陥没などの被害を確認する程度にとどまっている。 【写真=高速道路の通行止めの影響で一般道路でも渋滞が発生(国道176号、大阪市淀川区)】