準中型車免許創設1年、取得者 1万人に迫る 警察庁が乗車定員拡大へ 運転者「予備軍」増やす
産業
2018/03/12 0:00
準中型自動車免許の創設から1年――。警察庁によると、準中型自動車免許の2017年12月31日時点の全国の取得者数は8198人と、1年間で1万人の大台に迫りつつある。こうした中、警察庁は準中型で乗せられる定員の拡大を検討。ホテル、旅館などの送迎用車両での活用を視野に見直すものだが、トラックドライバー「予備軍」を増やす観点からも、準中型免許の取得者拡大の起爆剤として期待できそうだ。(田中信也、井内亨、小菓史和、矢野孝明) 準中型免許は17年3月12日、2トン車でも冷凍・冷蔵装置の搭載で総重量5トンを超えるコンビニエンスストアなどへの配送車両が旧普通免許では運転できなくなったことや、近年のトラックドライバー不足を解消するため、高校新卒者(18歳)でも取得できる、総重量3.5トン以上7.5トン未満、かつ最大積載量2トン以上4.5トン未満の貨物自動車限定の免許区分として創設された。 創設から約半年後の取得件数は、8月31日時点で3716件。その後の4カ月で倍以上増加したことから、徐々に浸透していると言える。一方、準中型創設以前の普通免許取得者による限定解除の件数は1万7065件で、準中型の新規取得に比べて既存のトラックドライバーによる対応が大きく先行。しかし、9月1日以降は5527件と伸びが鈍化しており、既存ドライバーの対応は落ち着きつつあるようだ。 全日本指定自動車教習所協会連合会(田中節夫会長)によると、全国の指定自動車教習所735校のうち、622校(2月28日時点)が準中型の講習を実施しており、全国的に受け入れ体制が整ったといえる。 準中型は18歳から取得できる「基礎免許」だが、20歳以上が4109人、20歳未満は4089人と取得者は拮抗(きっこう)。トラック業界が最も期待していた高校新卒者による取得は、やや伸び悩んでいる印象もあるものの、今後は逆転していく可能性が高いとみられる。 本紙が17年11月6日~12月27日、全国の高校の進路指導担当者を対象に実施したアンケート調査では、「(準中型が)創設されたことを知っているか」の設問に対し、「中身を含めて知っている」の回答が61%と過半数に上った。ただ、「名前だけ知っている」の回答も35%と少なくなかった。「取得を勧めるか」の設問に対しては、「ぜひ勧めたい」「勧めたい」が合わせて54%だったのに対し、「あまり勧めない」「勧めない」が46%と拮抗した。 勧めたい理由をみると、「トラックドライバー職に就くなら」「就職希望者には勧めている」といった意見が多かった。また、「取得するよう(就職先の)事業者から依頼されている」「運送系の事業者から説明された」など、トラック運送事業者側が取得を求めるケースが少なくないことも分かった。 松下運輸(坂田生子社長、東京都港区)では、17年に10代と20代の若手を採用した。「もともと新卒者を採用する予定は無かったが、準中型は新卒でもすぐに取得できるため、若い人を取りやすくなった」(坂田氏)として、若手ドライバーの確保に生かした。 一方、服島運輸(鳥取県米子市)の服島龍男社長(51)は「建設や流通などの業界でも準中型が必要となる仕事は多いが、そうした会社に就職が決まった新卒者は、入社前に準中型の存在を知らなければ普免を取ってしまう」と指摘する。その上で、「学校で指導できれば生徒も早い段階で準備できるが、就職担当の先生が準中型をほとんど知らないケースが多い。トラック協会や運輸行政にはもっと周知して欲しい」と要望。本紙アンケートでも「内容が不明」「名称だけで中身を知らない」などの認識不足が散見された。 滋賀ユニック(滋賀県東近江市)の田中亨社長(67)は「若年労働者の雇用拡大への道を開くという意味で大きな意味があった」と評価する。その一方で「運転できる車格が十分に理解されていない」として、運送事業者は最大積載量を基準に考えてしまい、総重量に対する意識が薄いため「運転できない車両に乗務させてしまうケースもある。業界を挙げた周知徹底が必要」と強調する。取得側のみならず、受け入れ側に対しても、更なる周知徹底が必要と言えそうだ。 こうした中、準中型の取得拡大の追い風になりそうな動きが出ている。政府が16年6月に閣議決定した規制改革実施計画の中で、「乗車定員11人以上のワゴン車を準中型で運転できるよう乗車定員の見直し」の方針を打ち出したためだ。これに基づき、警察庁に対して「遅くとも18年に結論を出す」よう求めている。 トヨタ「ハイエース」、日産「キャラバン」などのワゴン車の中には、同じ重量で乗車定員が10人、14人、15人と異なるタイプが存在しており、10人乗り以外を運転するには中型免許が必要。旅館などの送迎車両を運転する際の制約条件となっていた。このため、人材の有効活用の観点から、現行11人以下の準中型の乗車定員について、限定解除審査の在り方、安全確保措置など必要な事項とともに見直しを要請。警察庁運転免許課は「実施計画(での要請内容)を踏まえ、現在検討を行っている」としており、規制緩和はほぼ確実とみられる。 一見、トラックには無関係にみえるが、乗車定員が緩和されれば準中型の用途が広がり、取得者の拡大につながる。少子高齢化が進む中、即戦力のドライバーになり得る若者が増えていくことは、トラック事業者にもメリットがあると言えそうだ。 【写真=準中型は近年のトラックドライバー不足解消のため17年3月に創設】