国交省事故調/山陽道多重衝突事故、安全管理「任せきり」 代表者の責任指摘 休暇申請しやすい環境を
行政
2017/12/07 0:00
国土交通省の事業用自動車事故調査委員会(酒井一博委員長、大原記念労働科学研究所所長)は6日、山陽自動車道で2016年3月に発生した中型トラックの多重衝突事故に関する調査報告書を公表。連日の過酷な勤務で疲労が蓄積しているドライバーの状況を把握しながら措置を講じなかった運行管理者の責任、管理者に任せきりにしていた代表者の安全管理の重要性に対する認識の欠如を指摘。再発防止策として、ドライバーが休暇申請や体調不良申告をしやすい環境づくりや、安全運行確保のための指導の徹底などを提示している。(田中信也) 当該事故は、トラック運送事業者が第一当事者の事故では初めて、事故調の「特別重要調査対象」となった案件。広島県東広島市の山陽道下り・八本松トンネルで、引っ越しの荷物を積んだ中型トラックが片側2車線の第1通行帯を走行中、渋滞で停止していた車列に追突し、計12台の車両が絡む多重衝突を発生。うち5台で車両火災が起こり、相手車両の2人が死亡、4人が軽症を負った。 事故調は11月29日に会合を開き、事故原因と再発防止策などに関する調査報告書を議決。事故原因は、ドライバーの皆見成導受刑者(34)が事故の前々日に一睡もすることなく計36時間の乗務を続けるなど、過酷な勤務状況で疲労が蓄積する中、居眠り運転をし、渋滞で停止中の車両に80キロで追突したことが「一次的要因」と報告。ただ、その背景として、ドライバーが勤務していたゴーイチマルエキスライン(現ツカサ運輸、後藤義雄社長、埼玉県川口市)の運行管理者と、代表者である後藤社長の責任を指摘している。 運行管理者は、ドライバーの過酷な勤務状況を把握しながら、疲労を回復させるための措置を取らず、始業点呼の際も疲労状況を注意深く確認せずに運転させたこと、更には、法令で定められた管理者の業務内容を正確に理解していなかったことが事故につながった――と言及。一方、代表者については、運行管理業務を管理者に任せきりにしていたことを問題視。こうした「安全管理の重要性に対する認識の欠如が事故の背景にある」と分析している。 その上で、事業者が取るべき安全対策として、普段からドライバーの体調・疲労状況を把握でき、ドライバーが休暇申請や体調不良を申告しやすい環境づくりや、改善基準告示を順守した乗務割の作成、作業の遅れなど状況の変化に応じた変更を要請。 また、運行管理者に対しては①安全運行確保のための具体的な指示②点呼時などにドライバーの疲労状況を注意深く確認した上での乗務の開始・継続の判断③ドライバーが乗務中に眠気や体調異変を生じた場合は直ちに停車させ、報告するよう指導すること――を求めている。 更に、居眠り防止装置や衝突被害軽減ブレーキの導入など、予防対策安全装置の導入も促している。 報告書の取りまとめを踏まえ、酒井委員長は「16年1月に長野県軽井沢町で起こったスキーツアーバス事故と同様、あまりにずさんな管理体制で、個人的には運送事業者の資格が無いと思っている」と指摘。今回の調査結果に対し「単なる報告ではなく、貸切バス事業者と同様に、事業者全体に対策を水平展開すべき」といった厳しい声も上がっており、トラック・タクシー事業者などへの対策強化に発展する可能性もありそうだ。 【写真=山陽道での多重衝突事故の発生直後の状況(調査報告書より)】