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あおり運転、トラック業界挙げ対策を 社会共生へ広くアピール 加害者にも被害者にも 「無実」「被害」DR証明

行政

2017/10/30 0:00

 東名高速道路で執拗(しつよう)に進路妨害を繰り返し、死亡事故を誘発した男が逮捕された6月の事件をきっかけに、「あおり運転」への関心が高まっている。かねて事業用自動車では、トラックのあおり行為に対する指摘が多く、テレビニュースやインターネットの動画サイトなどで、現場を捉えた動画が頻繁に取り上げられている。トラックのあおり運転による重大事故が一度でも起きれば、業界への批判の嵐は避けられない。あおり運転防止に取り組む事業者は少なくないが、「社会との共生」を掲げるトラック業界では、事業者単位にとどまらず全国的に対策を徹底し、広く社会にアピールすべきだ。(田中信也、岡杏奈、井内亨、矢野孝明)  6月、神奈川県の東名高速でワゴン車に乗っていた夫婦が、乗用車に進路を塞がれ車を止めた後、大型トラックに追突され、死亡した。神奈川県警は10日、進路を妨害した男を自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で逮捕。これをきっかけに、あおり運転などの威嚇行為に対する社会の関心が、急速に高まっている。  警察庁によると、「車間距離不保持」による取り締まり件数は2017年上期(1~6月)が3632件で、16年は年間7625件に及んだ。交通安全意識の高まりから年々減り続けているものの、全国で毎日20件発生している計算になる。全てがあおり運転によるものとは限らないが、取り締まりに至らないケースを含めれば、相当な数に上るとみられる。  各都道府県の貨物自動車運送適正化事業実施機関(トラック協会)では、一般消費者などから寄せられた苦情の内容を類型的に整理している。例えば「信号待ちをしていたところ、発進時にトラックがあおってきた」「ウィンカーも出さずに、急な割り込みやあおりを繰り返していた」といった事例が寄せられている。  小型車がメインの東京都のある事業者が「大型トラックによる幅寄せなど、ヒヤリ・ハット的な事案がドライバーから報告される一方、乗用車よりは大きいためか、自社のドライバ―が『あおり的な行為をした』とクレームを寄せられることもある」と打ち明けるように、トラックは加害者にも被害者になりやすい。  札幌市内のある運送会社(A社)のドライバーは今年、道東自動車道の片側1車線区間を法定速度で走行中、同業者であるB社のトラックに執拗にあおられた。その後、追い越し車線で幅寄せされ、相手のドライバーから中指を立てられた。そのトラックの後ろについた後も、ブレーキを踏むなどして走行を妨害された。A社がB社に連絡したところ、「当社にそのようなことをするドライバーはいない」と言われた。「ドライブレコーダー(DR)に映像が残っている」と言うと一転、あおり運転を認め、謝罪された。A社の社長は「非常に危険な迷惑行為。法令順守は当然であり、看板を背負って走っているにもかかわらず、あおり運転をするなどあってはならない」と憤る。  一方、千葉県の事業者の社員は、ドライバ―があおり運転に仕立て上げられた経験を話す。信号が青に変わったのに、前の車両が発進しないため、合図の意味でクラクションを鳴らしたところ、スマートフォン(スマホ)で窓から写真を撮られた。その写真を根拠に「トラックにあおられた」と騒がれたが、DRを搭載していたため、事なきを得た。  こういったケースでも分かるように、DRの映像は被害に遭ったことや「無実」の証拠になる。東名高速での事件をきっかけに、DRに注目が集まっており、あるカー用品大手では販売台数が通常の3倍に急増。後部座席の窓などに張り付けて「ドライブレコーダー装着中」と表示するステッカーも売れているという。  トラック事業者でも、ステッカーを使ったあおり運転防止の取り組みがスタートしている。光輪ロジスティクス(沼崎孝則社長、北海道登別市)は東名高速の事件が報道された後、「危険運転防止110番係」を設置。併せて、27日までに保有車両28台全てに「この車両は、GPSで管理しております。絶対にしない! 『あおる』運転は危険! 危険と思ったら(本社の電話番号)まで」と記したステッカーを貼付(ルビ:ちょうふ)した。沼崎社長(39)は「あおり運転は、自分自身をうまくコントロールできず、思いやりを失った行為であり、非常に危険。ステッカーを貼ることでドライバーがプロ意識を持ち、周りから評価をもらうことで、思いやりを持った運転につなげたい」と話している。  双葉運輸(飯尾登社長、広島市西区)は、自社ドライバーの危険行為を無くす対策として、16年から「クレーム等対応報告書」を作成。苦情を受けた担当者は、報告書に受付日時などの基本情報のほか、運転状況や荷物の扱い方など、苦情の区分と詳細、応対内容などを記入し、原因と再発防止策も書き加えている。  苦情を受けたドライバーを特定できる場合は、所属営業所長に報告書を送り、DRで事実関係を確認して指導教育した上、最終的に役員へ報告する。また、月例の安全衛生会議でも、各事案を情報共有する。収集した情報は今後、発生した時間帯や状況、仕事の内容などを分析してデータベース化し、全社的な安全対策に活用していく考えだ。  トラックによる悪質なあおり運転の存在が指摘され、国交省も看過できない情勢になりつつある。奥田哲也自動車局長は、26日の定例会見で「(あおり運転が原因の)大きな事故が起きたり、一般車両の通行を妨げるようなことがあれば、実態を調査し、何らかの措置を取るが、直ちに動くことは無い。ただ、道路交通法に定めたルールを守るのは『イロハのイ』なので、事業者には指導を徹底して欲しい」と話しており、水面下では実態把握に動いているとみられる。  コンプライアンス(法令順守)が叫ばれる中、トラックによるあおり運転は以前より減っている。ただ、世間の目が格段に厳しくなっているため、個々の事業者の対策に委ねるだけではなく、トラック業界を挙げて防止に取り組み、「あおり運転ゼロ」を目指すことを広くアピールすることが求められる。 【写真=「トラックのあおり運転による重大事故が一度でも起きれば、業界への批判は避けられない(イメージ写真)=一部画像を処理しています」】





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