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取引労働改善協、業界関係者に焦燥感 好事例で終わらぬ成果を 形がい化の指摘も

団体

2017/10/02 0:00

 国土交通省と厚生労働省によるトラック輸送の取引環境・労働時間改善に向けた取り組みは、2回目のパイロット事業が各都道府県でほぼ出そろうなど順調に進んでいる。だが、トラック運送業界の期待を受け、2015~18年度の4カ年をかけて取り組んだ成果が、パイロット事業の結果を踏まえた生産性向上のベストプラクティス(好事例)集にとどまってしまっては報われない。事例の水平展開は難航が予想され、検討を主導すべき中央・地方協議会の形がい化も指摘されており、業界関係者の焦燥感は強まる。(田中信也)  ドライバー不足の深刻化や長時間労働・低賃金の劣悪な労働条件の改善、トラック運送業界の地位向上・雇用促進の「最後のチャンス」として鳴り物入りで15年度にスタートしてから、既に3年目も半ばを過ぎた。9月25日に開かれた、トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会(野尻俊明座長、流通経済大学学長)とトラック運送事業の生産性向上協議会の合同会合では、17年度は全都道府県で54件のパイロット事業を実施することを明らかにした。  1年目(16年度)の事業と同じ実施集団で取り組みを深めるところもあれば、新たに集団を組成し、全く異なる事業を行うケースもある。同日の会合では、2カ年にわたる事業を基に取りまとめるガイドラインの骨子も提示され、いよいよゴールが見えてきた。  だが、会合でのトラック事業者、荷主団体双方の委員の意見からは、期待のトーンは小さく、むしろ、諦めや苛立ちの思いがにじむ。  黒川毅委員(日本機械輸出組合国際貿易円滑化委員長)は「施策が具体的になってきたので後は実践だ」とする一方、「ヤマト運輸(長尾裕社長、東京都中央区)が総量規制に踏み切るという新聞報道のインパクトは大きかった。これに対し、(取引環境・労働時間改善に向けた)3年間の検討でトラック業界の厳しい状況を認識できた荷主企業はせいぜい10%程度」と指摘した。  事実、今回の協議会では、パイロット事業の進ちょく状況とガイドラインの骨子の説明を除けば、政府の自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議が8月に打ち出した「直ちに取り組む施策」や、7月から適用した荷主勧告制度の運用改善、11月施行の運賃と料金を明確化する改正標準貨物自動車運送約款など、決定事項の報告に多くの時間が割かれた。  このうち改正約款は、中央協議会の下に設置したトラック運送業の適正運賃・料金検討会(藤井聡座長、京都大学大学院教授)の協議を経て、決定したものだ。一方、本体であるはずの中央協議会はパイロット事業と、その成果を踏まえたガイドライン策定に専念。前回まで中央協の委員を務め、運賃・料金検討会の立ち上げを強く主張した全日本トラック協会の坂本克己会長は「労働時間短縮だけでなく、適正運賃を収受できるようにすることが働き方改革の要諦」と断言する。  国交、厚労両省が取引環境・労働時間改善に取り組むことになったきっかけは、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率50%の中小企業への適用の決定だった。労働基準法などの関連法案を15年の通常国会に提出したものの、いまだ成立せず、時間外労働の上限規制導入などと併せ、改めて臨時国会に提出する予定だった。しかし、労基法改正自体は労働政策審議会の検討事項であり、自動車運転業務での月80時間の上限規制や、これを受けての改善基準告示改正も含め、改善協議会で協議することは無い。  15年11月の2回目の中央協議会から、生産性向上協議会との共同開催になったことが、生産性向上に偏る契機になったのではないか。このままでは中央協議会が形がい化したまま、淡々と取り組みが終わることになりかねない。  こうした状況の中、荷主団体の委員から「我々も不当廉価は避けたいが、ヤマト運輸(など大手事業者)が運賃を上げても、中小事業者が安い運賃で受けたらいたちごっこだ」「実効性が課題であり、業界の零細構造を温存したままでは、生産性向上に必要なコストを(荷主側が)負担することはできない」といったトラック業界の姿勢を問う声が上がった。  これに対し、辻卓史委員(全ト協副会長)は「我々ができることは限られている。『物流は社会システム』との意識改革が必要で、物流の諸課題を『ごみの分別回収』のような社会的な仕組みとして考えていくべき」と強調。馬渡雅敏委員(同)も「(経団連が発表した)商慣行の是正に関する共同宣言に盛り込んだ6項目を全て順守する荷主がいれば素晴らしいことで、(宣言を)実効性のあるものにして欲しい」とクギを刺した。  パイロット事業の実施集団は「良好な関係を構築している荷主とトラック事業者の組み合わせがほとんど」との指摘がある。好事例を積み上げることだけに傾注するのではなく、残された期間に荷主、事業者双方の溝を埋められる実践的な取り組みにチャレンジしていくべきではないか。改善協議会にはいま一度、実のある検討に着手することを期待したい。 【写真=決定事項の報告に時間が割かれた中央協議会(9月25日)】





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