首相「荷主の協力必要」 トラック事業者プレゼン受け見解
行政
2017/06/26 0:00
安倍晋三首相は21日、トラック運送業での生産性向上や、ドライバーの労働条件改善には「運送事業者だけではなく、荷主の協力が必要不可欠」との見解を述べた。トラック運送分野の生産性向上の指針(ガイドライン)策定のみならず、トラック業界の課題解決に向け力強い後押しを受けた格好だ。 同日、首相官邸で開催した、生産性向上国民運動推進協議会の第2回会合でのトラック運送、宿泊、介護の各業界による、製造業のノウハウの展開による、生産性向上の取り組みのプレゼンテーションを受け発言した。 トラック運送分野では、トラック事業者5社と食品卸、倉庫業者の計7社で取り組んだが、プレゼンでは早川運輸(早川孝雄社長、山梨県笛吹市)と日通長崎運輸(本多正昭社長、長崎市)の事例を、運輸・物流研究室の主席研究員を務める流通経済大学流通研究所の小野秀昭教授が報告した。 早川運輸では、待ち時間短縮に向け、着荷主のセンターでトラック受け付け、予約システムを導入するとともに、従来の手荷役を「パレットプールシステム」を利用した一環パレット輸送体制に切り替えるなどの対策を実施した。 これにより、ドライバーの拘束時間が18時間から5時間半削減され、労働生産性が44%向上。時間短縮による帰り荷の確保が可能になったほか、発荷主の商品事故リスクの低下や着荷主のセンターでのバースの滞留時間短縮など、関係各者に効果をもたらした。早川社長は「ドライバーの労働時間改善と(荷主との)取引環境改善に役立つ」と成果を強調した。 日通長崎運輸は、パンの輸送で使用した空容器(バンジュウ)を着荷主から発荷主まで返却する輸送で、ドライバーを2人から3人に増員することで、集荷先での積み込みと運送を分離。更に、高速道路の利用可能区間を全て高速利用に切り替えたことで、拘束時間を2時間10分減らすことに成功。高速利用により輸送の安全性も向上した。 本多社長は「これまで荷主に改善基準告示を説明してもなかなか理解を得られなかったが、事業に参加したことで安全に対する意識変化が感じられた」と振り返った。 小野氏は両事例による成功要因について、「発・着荷主が事業者の窮状を理解するとともに、物流の条件やコスト負担で一定の歩み寄りを得たこと」と総括。その上で、「荷主の協力が不可欠なことが浮き彫りになった」と指摘した。 業界を代表して、全日本トラック協会(星野良三会長)の坂本克己副会長が「全都道府県で100件に及ぶ(取引環境・労働時間改善の)パイロット事業を荷主と協力して取り組むことで、全国に好事例を波及させ、生産性向上を実現する」と取り組みの横展開を宣言した。なお、トラック運送業からは、全ト協の次期会長に内定した坂本氏をはじめ7人の副会長ら45人が出席した。 3業界によるプレゼン後、経団連の榊原定征会長、連合の神津里季生会長があいさつに立ち、榊原氏が「物流効率化に向け荷主の生産性向上に積極的に取り組む」ことを約束した。 最後に首相が発言し、早川運輸が拘束時間を5時間半削減し、労働生産性を向上させたことを「すばらしい成果」と評価。荷主の協力が不可欠とした上で、「(経団連の)榊原会長から『積極的に』との力強い回答を得た」と言及した。 「生産性向上は安倍政権が次の柱に位置付ける『人づくり』につながるので、取り組みで明らかになった課題や成功事例を積極的にインプットしていく」と締めくくった(田中信也) 【写真=全ト協の坂本副会長(左端)が取り組みの横展開を宣言し、首相がトラック運送業での成果を評価】