最先端技術、輸送省人化へ期待 ニーズ反映し普及拡大を
産業
2017/01/02 0:00
2017年、自動運転技術とドローン(小型無人機)は、物流の未来を支える最新技術としてどこまで進化するか――。人口減少や少子高齢化社会の到来で労働力不足が喫緊の課題となる中、貨物輸送の省人化に向け、自動運転とドローンの活用に高い期待が集まっている。現在、開発状況や安全性の面でドローンがリードしているが、積載量や移動距離などの面では自動運転が有利。物流ニーズをどれだけ反映させるかが、今後の技術開発と普及拡大のカギを握る。(田中信也) 新たな有望成長市場の創出・拡大と、人口減少社会や労働力不足を克服するための生産性向上の観点から、政府はインターネットとあらゆるモノをつなぐIoTや、ビッグデータ、AI(人工知能)、ロボットといった最先端テクノロジーを「第4次産業革命」として位置付け、規制改革、研究開発に対する支援、人材育成などの取り組みを加速させている。 「日本再興戦略16」ではこれらテクノロジーのプロジェクト推進を打ち出しており、自動走行分野で「20年に高速道路での自動走行」、ドローンでは「3年以内にドローン配送実現」を目標に掲げる。こうした流れを受け、国土交通省でも生産性革命本部の推進プロジェクトの一つとして、「自動運転技術とドローンの活用」を挙げている。 自動運転では、高速道路での追い越しや先行する車両の追随、衝突の回避といった機能の市販車への搭載が先行してきたが、完全自動運転(自動走行)の開発が世界的に加速してきた。 物流分野では、トラックの自動隊列走行の実証を国交、経済産業の両省が連携して進めている。21年度以降の商業運行開始に向け、16年度からシステムなどの具体化への検討に着手。17年度はテストコースで実証を行い、18年度に夜間の高速道路で、後続車両が無人の3台以上による試験走行を行う予定だ。 一方で、地域配送での活用に向けたプロジェクトもスタートする。ヤマト運輸(長尾裕社長、東京都中央区)とディー・エヌ・エー(DeNA)が16年7月に発表した、次世代物流サービス「ロボネコヤマト」は、ハンドル操作や加速、制動を自動化し、緊急時のみドライバーが対応する「レベル3(準自動運転)」を想定したシステムで、3月から1年間実用実験を行う。 高齢者や小さな子供のいる家庭を利用者として想定し、オンデマンド配送サービスと買い物代行サービスを展開。20年以降には、レベル4(完全自動運転)を使った高度なサービスへの移行も検討している。 更に、国交省も12月に発足させた自動運転戦略本部(石井啓一本部長、国交相)の初会合で、高齢者の移動手段や物流確保の観点から、中山間地域での道の駅を利用した自動運転サービスを提起。近くワーキンググループ(WG)を立ち上げ、具体的に議論する。 ただ、現時点では政府方針と自動車メーカーなどによる技術開発競争が先行し、利用者側のニーズに追い付いていない印象が強い。加えて、もう一つの重要課題である道路などのインフラ整備はほぼ未着手。 国交省が12月開いた検討会で、隊列走行の技術開発を担当する先進モビリティ(東京都目黒区)の青木啓二社長は「高速道路の本線合流時と隊列形成時の課題に対応した道路インフラ整備が必要」と指摘。当面の運用に関して「東京-大阪のサービスエリア(SA)パーキングエリア(PA)間を想定している」と話しており、今後は高速道路の区間を決めた上での集中投資が必要となりそうだ。 また、物流利用では隊列走行に注目が集まるが、ITSJapan(佐々木真一会長)の内村孝彦常務は「物流では『何が役立つか』の観点が重要」と強調。港湾地区でのトラックの長時間待機の課題解決策として「(隊列走行の技術を活用し)港湾地域全体に協調型自動運転システムを導入すれば、ドライバーが運転席を離れていても自動で車両が進むため、ドライバーの待遇改善につながる」との切り口を提示する。 一方、ドローンはかつて趣味用がメインだったが、最近では産業用ドローンの開発・実用化が急ピッチで進んでいる。日本では15年の首相官邸へのドローン墜落事件を契機に、ドローンの基本的な飛行ルールなどを規定する改正航空法が同年12月に施行。以降、技術が格段に進歩するとともに、もともと利用が多かった農薬散布から測量調査警備、空撮など産業での利用が飛躍的に拡大した。 こうした中、物流利用は技術や制度面での難易度が高く、中長期の課題とされてきたが、14年11月に安倍晋三首相が「3年以内にドローン輸送を実現」との目標を打ち出したことで、潮目が大きく変わった。 国交省は、過疎地での実用化に向け16年2月、中山間地域の徳島県那珂町で高齢者の買い物代行を想定した実証実験を実施。また、物流では自動離着陸できるシステムが必須として、物流用ドローンポートの技術開発を産学官の連携で進めている。 一方、内閣府は、国家戦略特区に指定された千葉市が計画する市川塩浜周辺の物流施設から海上ルートで幕張新都心まで飛行する都市型のドローン宅配を支援している。 楽天と共にシステムを開発する自立制御システム研究所(千葉市美浜区)の野波健蔵社長は「市場性を考えれば、都心部での実用化が必要」と強調。 これに対し、ドローン関係の企業・団体で構成する日本UAS産業振興協議会(JUIDA、鈴木真二理事長)の千田泰弘副理事長は「都市部での実用化は航行への制約条件が厳しく、まずは制約の少ない過疎地での航行が現実的。地方創生の観点からも、地方自治体が真剣に活用を考えるべき」との見解を示す。 地方と都市、どちらを優先して進めるかに関しては議論が分かれるが、ドローンの技術開発は超スピードで進んでいる。ただ、物流では、ある程度の重さの荷物を載せ、長時間飛行できないとメリットは無いが、現状では数キロのせて20~30分航行するのが限界だ。 こうした問題を解消するため、五光物流(小林章三郎社長、茨城県筑西市)が事業主体となり、産業技術総合研究所(中鉢良治理事長)のサポートで「最大積載量60キロ、最大航続時間2時間」を実現する、世界初の大型物流ドローンの開発を進めている。「1年~1年半後には実用化できる見通し」(千田氏)で、実現すれば活用のニーズが大きく広がる。 現時点では、技術の進ちょくや安全性の面でドローンの実用化に現実味があるものの、大量輸送の観点から、トラック輸送をサポートする自動運転技術の潜在的需要も高い。ただ、いずれも技術開発に合わせた利用では本末転倒で、地域や用途によって使い方や重要性も異なる。利用者それぞれが最適な活用方法について真剣に考える必要がある。 【写真=国交、経済産業の両省が連携して進める(12年に実施したトラック隊列走行実験)】