北海道/物流網、危機的な状況 影響「計り知れない」
物流企業
2016/09/12 0:00
台風10号の影響で、北海道の道央と道東をつなぐ物流網が危機的な状況に陥っている。貨物鉄道が長期運休を余儀なくされ、道路も国道38号、274号が通行止めとなっており、道東自動車道へ交通が集中している。物流事業者は倉庫の全壊など直接的な被害を受けただけでなく、大幅な迂う回かいによる燃料消費量の増加、長時間労働に悩まされている。道路と鉄道の復旧メドは立っておらず、農業の被害も甚大で、物流への影響は計り知れない。(那須野ゆみ、北原進之輔、大島杏奈) 8日に道が発表した被害状況によると、死者2人、行方不明2人、住宅の全壊・半壊、浸水被害も多数に上った。道路は、国道で大17路線・27区間、道道で76路線・92区間が通行止め。農業へのダメージも甚大で農地は1万2310ヘクタールビニールハウスなどの農業施設は2514棟に被害が及んでいる。 十勝地区の清水運送(梶竹征社長、北海道清水町)では、本社から車で5分ほどの倉庫事務所(面積3万6千平方メートル)の管理する営業倉庫11棟と車庫1棟のうち、床面積990平方メートルの営業倉庫2棟と車庫が損壊。保管していた農業加工品の一部も被害に遭った。 帯広測候所によると、周辺地域では、8月29日午前0時から31日までの72時間の積算雨量が300ミリを超えた。この影響で、同事務所の近くを流れるペケレベツ川が増水し、上流の橋きょう梁りょうや道路を破壊。コンクリートの塊や倒木が押し寄せ、倉庫が壊された。 梶社長(71)は「倉庫事務所と川は20メートル以上離れており、堤防もあった。30日の時点で、天気予報を聞き『大丈夫だろう』と判断した。堤防決壊は、31日の午前3時ごろ。こんな経験は初めてで、自然の恐ろしさを思い知らされた」と語った。 利用していた短距離の道路や橋が決壊したため、倉庫事務所に行くまで3、4倍の時間がかかるようになったが、被害を免れた倉庫の貨物は移動を済ませ、6日時点で業務はほぼ平常に戻った。 隣町にあるDHS.(有働聡禎社長、芽室町)では、「社屋が床上浸水し、社員の通勤用乗用車2台が水に漬かる被害を受けた」(同社)。 一方、旭川地区の南富サポート(川村拓志社長、南富良野町)では、地下1階地上2階建ての社屋が空知川の氾濫(はんらん)により、1階部分の3分の2が土砂で埋まり、車庫も壊れて使用不能になっている。トラック2台が流された上、ダンプカーと作業車、社員の乗用車の計9台が、プールと化した駐車場で水に漬かったり、互いにぶつかるなどして破損している。 堀内四郎常務(60)は「グループの中には土木会社もある。空知川の2カ所の決壊部分をはじめ道路などの復旧を優先しなければ、市民生活を取り戻せない。社屋の片付けはボランティアの人たちにお願いし、我々は災害現場に行って頑張るしかない」と前を見据える。 鉄道輸送も厳しい状況だ。JR根室線の新得(北海道新得町)―芽室(芽室町)は複数の橋梁の流失により不通となっており、北海道旅客鉄道(JR北海道)は7日、復旧は早くても12月以降になる、との見通しを明らかにした。これにより、帯広貨物駅(帯広市)―札幌貨物ターミナル駅(札幌市白石区)の貨物列車は長期運休を余儀なくされる。日本貨物鉄道(JR貨物)は4日から、同区間でトラックによる代行輸送を実施。6日にはトラックに加え、本州に向けた海上輸送も行う、と発表した。 帯広―札幌での、トラックによるコンテナの代行輸送は、8日時点で車両を十分に確保できず、目標としている1日当たり150個のうち80個となっている。今後も農産物の被害状況を調査しながら、本州の通運事業者にもトラックの応援を要請する、としている。 同区間を通過して帯広、釧路地域から札幌苫小牧関東、関西方面に向かう貨物列車は従来、1日16本でコンテナ(5トン)を片道565個運んでいた。車両を確保できたとしても、線路復旧前に農産物輸送の盛期を迎えることが確実で、トラックだけでは足りない。このため、釧路港からの海上輸送も実施し、輸送繁忙期に対応する。 日本通運が運航している週2便の釧路港―東京港の定期RORO船を利用するとともに、釧路港―八戸港のチャーター船を仕立てる。RORO船は1隻当たりコンテナ34個、チャーター船には大80個積載。八戸からは貨物列車で輸送する。 また、道内輸送ルートで検討されていた、帯広貨物駅から富良野駅までトラックで運び臨時列車に積み替えて輸送するとの手段は、帯広から富良野へ向かう国道38号の通行止めが解除され次第、開始する予定となっている。 【写真=土砂で埋め尽くされた日勝峠の7合目付近(3日、日高町)=室蘭開建部提供】