再雇用者賃金格差違法判決、トラ業界「ひとごとでない」 同一労働同一賃金
行政
2016/05/23 0:00
政府は18日、少子高齢化の解消などに向けた「ニッポン一億総活躍プラン」を発表した。とりわけ、産業界での深刻な労働力不足の解決策として踏み込んだ「同一労働同一賃金」は、非正規労働者の待遇改善を目指す目玉政策。こうした中、定年退職後に再雇用したドライバーに賃金格差を設けたトラック事業者を違法とした東京地裁(佐々木宗啓裁判長)の判決は、東京高裁での控訴審に持ち込まれた。トラック業界にとっても「ひとごと」ではない。政府の政策と今回の判決は、趣旨が異なっており、同一労働同一賃金の是非を問う意味でも、その動向が注目される。(田中信也) ニッポン一億総活躍プランでは「再チャレンジ可能な社会をつくるためにも、正規か非正規かといった雇用の形態にかかわらない均等・均衡待遇の確保、同一労働同一賃金の実現に向け、雇用慣行に十分配慮しつつも躊躇(ちゅうちょ)なく法改正の準備を進める」と強調。労働契約法やパートタイム労働法、労働者派遣法などの的確な運用を図るため、ガイドラインを策定する方針を示した。 具体的には、不合理な待遇差に関する司法判断の根拠の規定、事業者の説明義務などを整備するため、労契法などの関連法を一括改正する方針だ。 「同一労働同一賃金にこだわることで、むしろ働き方を縛り付け、雇用環境に悪影響を与えるのでは」――。東京都に本社を構えるトラック事業経営者は、長沢運輸(長沢尚明社長、横浜市鶴見区)がドライバーの再雇用時に、業務内容を変えないまま賃金を引き下げたことを労契法違反とした東京地裁の判決に疑問を呈している。 訴訟では「正社員と期間の定めのある社員との労働条件が違う場合、その理由が不合理であることを禁止」する労契法20条の違反の有無が争点だが、地裁は「再雇用後も業務内容や責任の大きさが変わらないにもかかわらず、賃金が3割前後引き下げられている」と訴えたドライバー側の主張を認めた形。 しかし、長沢運輸と同様、退職後のドライバーの雇用契約を巡り係争中の経営者は「退職後も同じ仕事内容の方が働きやすいはず。この判決を踏まえると、庫内作業など他の業務に配転した上で賃金をカット 不合理な労働条件を禁止する労契法20条は、2013年4月に施行されたばかりの新しい規定。厚生労働省労働基準局の松原哲也・労働条件政策推進官は、本紙の取材に対し、「20条に関する判例は少なく、確定した判決はまだ無い」と説明する。 また、その数少ない係争中の事案では「被告である経営者側の主張を支持するものもある」。このため、東京地裁の判決をもって「正規と非正規の社員の賃金格差が全て違法と判断されるわけではなく、個別事案で判断していくことになる」と言及。「控訴され、まだ係争中なので今後の動向を見守っていく」との立場を強調しつつも、「同じ勤務シフトで賃金が大きく下がるのは、形式的に問題があると判断したのではないか」との見方を示している。 非正規雇用だからといって、職務内容や賃金、労働時間などで差別されることを不合理とするのが労契法20条の趣旨であり、これを侵害することは許されない。ただ、定年退職者を再雇用する際、業務内容を変えないまま賃金を引き下げる事例は多いとみられ、東京地裁の判決内容がそのまま確定すると、全国の事業者に混乱が広がりかねない。 労使双方にとって最適な雇用環境を追求していくことが第一だが、今後の再雇用の方向性を占う意味でも、今回の裁判は注目されるだろう。 【写真=今後の再雇用の方向性を占う意味でも、東京高裁での控訴審が注目される】