広島の運送会社、時短目的「高速無制限利用」 コスト1000万円アップ
物流企業
2016/02/15 0:00
深刻化するドライバー不足により、クローズアップされる労働時間の短縮――。コンプライアンス(法令順守)の観点から、対策が急務となっている。こうした中、広島市内の中堅物流企業が、時短を目的に高速道路を無制限に利用する試みを行った結果、改善基準告示をクリアするためには、膨大なコストが必要であることを実証。同時に、地方における物流の根本的な課題を浮き彫りにした。 この会社は、関東を始め中部、関西向けの長距離部門で、大型トラックを中心に70台を稼働。ドライバーは通常、会社の指示で一般道と高速道を使い分けているが、実験として2015年12月の1カ月間、ドライバーの意思に任せて自由に高速道路を利用できるよう許可した。その結果、以前と比べ労働時間を2割短縮できた一方、1カ月間の通行料は70台で計1700万円となり、前年同月比1千万円以上のコストアップとなった。 この会社の社長は「全行程で高速を使えば、渋滞など不測の事態を除き、改善基準告示をおおむね守れる。しかし、年間に換算すると1億円を超えるコストアップとなり、自社だけでは吸収できない」と説明。更に、「労働時間規制をクリアできるといっても、関東方面は翌々日着に限定され、翌日着では法令違反になる」と指摘する。 実験は今年2月末まで継続し、高速道路の利用を段階的に制限していく計画。コストとコンプライアンスのバランスを見ながら、「現実的な着地点を探りたい」としている。また、得られた時短の状況と収支に関するデータを今後、荷主との交渉にも役立てていきたい考え。 最大の消費地である関東圏から遠く離れた地方では、物流コスト削減とリードタイム短縮は大きな課題だ。しかし、実験結果によれば、トラックで地方から関東へ荷物を運ぶ場合、改善基準告示を守るためには膨大な費用が必要。加えて、翌日着の要望に応えるためには、ツーマン運行が不可避となる。そのコストを荷主に転嫁することは極めて困難で、仮に荷主が負担したとしても、荷主の競争力が低下するため、物流にマイナス影響を及ぼしかねない。 折しも、都道府県レベルで「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」が立ち上がり、産業界と労働行政も交えた議論が進行中だ。前出の社長は「全国一律のルールは、地方の競争力を低下させる懸念がある」と強調。地方ごとの実情を踏まえた、根本的かつ現実的な解決策が求められそうだ。(矢野孝明) 【写真=実験は2月末まで継続し、高速道路の利用を段階的に制限】