賃金のルールを知ってトラブル対策⑩ 保険サービスシステム/第三コンサルティング部長 馬場栄 割増賃金率50% まず人手確保
その他
2015/06/18 0:00
目下、国会で労働基準法の改正が審議されております。中でも耳目を集めているのが、有給休暇を年間5日は会社が必ず与えなければならない――ということと、いよいよ60時間を超える時間外労働の割増賃金率を50%に引き上げる――という事項です。 前者については別の機会で触れたいと思いますので、今回は後者について紹介します。「いよいよか」という趣もありますが、実はこの話は2010年の改正の際、既に大企業には適用されています。中小企業については、法改正から3年経過後に検討する――とされておりましたが、13年は何も無く「このまま無期限延期か」と思っていたら、「19年から中小企業にも適用する」と期日を明確にしようとしています。 趣旨としては、長時間労働に対する健康障害の防止のため――というのが念頭にあります。そもそも、割増賃金は時間外労働を抑制するための仕組み――と言われておりますから、それを強化しているとも言えるでしょう。特に運送事業では、関越自動車道での事故を引き合いに長時間労働が常態化しているのが、各報道により衆目の事実となっております。 国土交通省も、労基法改正案が閣議決定されたことを受けて、4月に長時間労働の抑制に取り組むことを発表し、ロードマップを提示しました。まず15年度は「長時間労働の実態調査」を行うとしており、その後、パイロット事業の実施、ガイドラインの策定と続く――とされています。 なお、19年と言えば、オリンピック開催の前年です。景気の底堅さが見込まれる一方、オリンピック後の経済状況も見据えて対策を講じていかないといけないでしょう。 まずは、そもそもの労基法と、10年の改正の内容をおさらいしましょう。労基法では、1日8時間、週40時間を超える時間外労働については、125%の割増賃金を支払わなければなりません。この時間外労働が深夜にまたがると、125+25=150%になります。実は10年の改正法は2段階の義務になっています。 すなわち、月の時間外労働が36協定における時間外労働の上限とされる45時間を超えた部分については、125%以上に引き上げる「努力」義務を課した点と、60時間を超えた部分については、150%に引き上げる義務を課した点です。もちろん、月の後半などに60時間を超えてしまい、更にそれが深夜労働になった場合には、150+25=175%にもなります。 なお、この60時間には、通常の8時間を超えた部分の時間外労働だけでなく、週休2日のうちの1日の労働時間も含まれます。逆説的になりますが、135%の休日割増賃金の支払いを要する部分については、この60時間には含まれません。 よくある土日休みの会社(週の起算日は月曜)を例とした場合、土曜日は「所定」休日なので時間外労働扱い、日曜日は「法定」休日なので休日労働扱いになりますから、60時間の集計は、1日8時間を超えた部分+土曜日の部分が対象になってきます。 これに対して、運送事業者が行う対策としたら、抜本的には長時間労働を是正することです。60時間を超えた分の割増賃金率が上がるのであれば、それ未満の労働時間で収まるように対策すればいい――というのが国の言い分です。本気で時短に取り組みなさい、ということでもあります。ただし、オリンピック年までは恐らく、物流の量が減ることはなかなか見込みにくいでしょう。 一人当たりの労働時間を減らすとなれば、トラックドライバーの頭数を増やす必要があります。ところが、ここに来ての人手不足です。荷物もトラックもあるけれど、ドライバーがいない――という相談を最近よく受けます。そんな状況ですから、女性ドライバーや高齢ドライバーへの期待が高まります。また、抜本的なところでは、若年人材を採用し、会社が教育して自動車免許を取らせることにも真剣に取り組む企業が増えてきました。 とにもかくにも、「人手」をまず確保しないといけません。そうすると、いかに会社の「賃金体系」が求職者に魅力的に映るかを考えなければなりません。荷物を運べば運ぶほど給料が増える出来高払い制、単価は必ずしも高くないが働いた労働時間に応じて給与が連動する残業代の支払い、保証額が明確な定額残業制――。各事業者で、採りたい人材に応じた給与制度を検討することがますます重要になるでしょう。 ある程度の年代に応じて、どのような給与体系を望むかは決まってくるとも言えます。また、働く側の意思だけでなく、荷主との交渉で決まる時間の設定の仕方、運賃の支払われ方にも影響を受けるでしょう。当社の荷主にあった賃金制度も検討する必要があります。 まずは荷主との関係を見直し、運賃収入に適した給与体系を構築して、人材を確保し、長時間労働を是正していく――という循環が必要でしょう。労働者も時間と給与の関係を気にします。会社も運賃収入と給与支払いのバランスを考え直してみてはいかがでしょうか。