トラ業界/長時間労働の実態 専門家に聞く 過労死防止の動き加速
物流企業
2015/06/08 0:00
【新潟】長時間労働を改善して、過労死を防止しようとする国の動きが加速している。「今や長時間労働は社会悪。その象徴がトラック業界だ」と言い切る労働局関係者すらいる。5月12日のNHKニュース「おはよう日本」の運送に関する特集では「運転者の長時間労働で成り立ってきた運送業」とキャスターが表現するほど、トラック業界に長時間労働のイメージが定着しつつある。北陸信越の実態に詳しい労働基準監督署の関係者、運輸関係コンサルタントら専門家に話を聞いた。(俵箭秀樹) 国が示す過労死の認定要件によると、「発症前1カ月間に100時間、2〜6カ月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連が強い」と判断される。2014年度の「脳・心臓疾患」の全国労働災害支給決定件数306件のうち、93件(30.4%)がドライバーだった。 厚生労働省が14年4〜11月に実施した過重労働解消キャンペーン結果が、今年1月に公表された。運輸交通業では、全国328事業場に重点監督が入り、労働基準法違反は283事業場(86.2%)。このうち、労働時間の違反は195事業場(59.4%)と全体の6割近くまで迫った。 また、13年の改善基準告示違反では、トラックが全国1980事業場で摘発され、1カ月間の総拘束時間違反は1253件と63.2%を占めた。労働局別では、新潟が告示違反58件のうち総拘束時間違反30件(51.7%)で、長野は18件のうち12件(66.6%)となっている。 富山労働局の関係者によると、「改善基準告示違反を内部通報してくる場合、月間拘束時間違反の訴えが多い」と説明する。 富山労基署の関係者も「富山―東京便が1人で2週間に5回運行されていると、『改善基準告示違反の疑いがある』と判断して調査する。一般産業の1カ月間の労働時間は、残業も含めてせいぜい200時間。運送業の320時間は長すぎる」と指摘している。 砺波労基署の広島立監督・安衛課長(42)は「改善基準告示を完全に守れている運送会社が、どれだけあるだろうか。今や長時間労働は社会悪。経営者のスタンスが変わらないと解消されない。交通事故が起これば、真っ先に過重労働が無いかを疑う。過労死が起きる前に改善してもらいたいからだ」と、強く改善を求める。 あいち経営コンサルタント(名古屋市中区)の和田康宏社長(43)は「長距離ドライバーは、月320時間超えが普通だ。愛知県では、月360時間働いても、月給は30万〜40万円。月に50万円稼ぐには400時間は必要になる。荷主が手待ち時間に料金を支払う考え方に変わらないと、低賃金・長時間労働は解決しない」と手待ち有料化の必要性を強調する。 また、運輸コンサルタント綏塾(すいじゅく、富山県射水市)の長谷川典敦代表(73)も「庫内作業員(貨物係)は月350時間が頻繁。特別積合せの集荷配達ドライバーも長時間労働が問題だ。運賃値上げが第一の解決策」と言い切る。 一方、富山県トラック協会の前事務局長で、行政書士の川村日出男氏(62)は「ドライバーの交代ができれば良いが、人のやりくりがつかず、結局、長時間労働になっている。トラック業界の社長には1車1人制の意識が根強く、2人制の発想が無い」と発想の転換を求める。 元警察署長で、安全管理やすらぎコンサルタント(富山市)の孫田文夫代表(66)は「改善基準告示に48時間スパンを求める要望が出てきた。行政は民意を後追いする傾向が強いので、こうした現場のニーズを把握して告示を見直すべきだ」と訴える。 輸送アドバイザーの芳賀俊一氏(63)も「経営者やドライバーは改善基準告示の正しい運用を理解していない。拘束時間が15時間になる東京便をドライバー1人が週3回走ると違反になるが、2人でそれぞれ2回と1回走れば、コンプライアンス(法令順守)に合致する」と指摘。こうした正しい運行ができるような教育を経営者とドライバーにすべき――と提案し、「告示を使いこなすようになれば、荷主を説得できる。今の時代、法令順守を無視する荷主はいない」と強調する。 【写真=長時間労働のイメージが定着しつつある(イメージ写真)】