<私の主張>パルシステム生活協同組合連合会 植田真仁 物流共同化 競合の垣根越え社会変革 産地と各者センターを結ぶ
その他
2015/04/13 0:00
パルシステム生活協同組合連合会(山本伸司理事長)は2014年11月、産直宅配の団体(大地を守る会、らでぃっしゅぼーや、生活クラブ連合会)と共同で、有機農産物などを生産する九州の産地と各団体の物流センターを結ぶ運輸体制を構築した。宅配サービスでしのぎを削る各者が、ライバルの垣根を越えた「競合による協同」を生み出したのである。 きっかけは、福岡県の産直産地から寄せられた相談だった。九州では、13年秋ごろから「荷物を引き取りに行けない」「運賃を大幅にアップしてもらいたい」との案内や要請が、取引先の運送会社から相次ぐようになったという。 周知の通り、九州の物流業界は深刻な長距離ドライバー不足に見舞われている。その要因は、少子化に伴う高齢化と「週に1、2日しか家に帰れない」と言われる職場環境にある。更に、軽油価格高騰などによるコスト上昇が経営を圧迫し、運送会社は運賃のアップが不可欠な状況に置かれている。 一方、有機農産物などの生産団体は、出荷量が少ないため、ロットを束ねるのが難しい。こうした「ひずみ」が、集荷拒否や運賃の大幅値上げ要請につながった。 産直宅配団体にとって、化学合成農薬や化学肥料を出来る限り使用しない農産物を生産する農家とのつながりは、いわば「生命線」である。そこでパルシステムは、生産者や運送会社と物流共同化へ向けた調査と検討を開始した。 その結果、多くの産地が複数の産直宅配団体と取引していることが分かった。農産物の出荷を一元化できれば数量がまとまり、運送会社の負担軽減も見込める。参加団体を募ったところ、口コミでも話が伝わり、生産者団体だけでなく、産直宅配団体からも参加の打診が届くようになった。 物流の運用は、福岡県の丸善グループが受託し、兵庫県西宮市に中継センターを設置。これにより、九州内の荷物を西宮へ集約し、各団体の物流センター向けに積み替える。ドライバーは、九州から西宮、西宮から関東までと役割が分担され、九州と関東を往復するより負担は軽減される。 今回の共同物流は反響も大きく、産地、物流、流通の各業界から問い合わせが相次いでいる。関西や中四国地域の産地からも参加を希望する連絡が届いており、中期的にエリア拡大も視野に入れている。 ドライバー不足は、九州だけではない。東北や北海道の産地でも、関西以西に青果を送れない例が出るなど、近い将来に深刻な状況に陥ることを危ぐする分析もある。他業界に目を転じても、東日本大震災の「復興特需」や東京五輪に伴う首都圏の再整備などで、建設業界の人件費が高騰しており、公共工事で予算と入札額がかい離する「入札不調」が頻発している。 少子高齢化も含め人的・経済的な資源が限られていく中、いかに物流インフラを確保するかが重要になりつつある。生活協同組合の理念である「協同」の精神で動き始めた物流共同化が、社会を変える力になると信じたい。(東京都新宿区) うえだ・しんじ 1974年2月生まれ。法政大学を卒業後、専門紙記者、編集者などを経て2008年からパルシステム連合会において広報業務を担当。趣味はスポーツ観戦と飲酒。