座談会「ドライバーに優しい事業者」
その他
2025/02/11 5:00
出席者(順不同)
札幌豊興/社長
村元 良美氏
アルプスウェイ/社長
田村 裕章氏
ティール/社長
北出 幸一氏
〈進行〉元全日本空輸/客室乗務員
吉永由紀子氏
「選ばれる企業」つなげる
ドライバーも上司を評価
ドライバーにとって働きやすく、やりがいを感じられる会社をどうつくっていくか──。「2024年問題」の影響で更なる労働力不足が懸念される中、あらゆる物流事業者が直面する課題だ。実現には、具体的な労働環境の見直しはもちろん、現場で日々働く従業員への思いやりが欠かせない。ドライバーが能力を発揮して生き生きと働ける会社を目指し、挑戦を続ける経営者に、取り組みや課題、業界への思いを語ってもらった。
北出 毎日帰れて同じ給料に
田村 社内検定で指導者育成
吉永 今日は、ドライバーに優しい事業者というテーマで皆さんからお話を伺います。トラック協会さんや物流企業さんと、講演などを通じて接する機会もありますので、皆さまの業界の理解につながることを期待しています。自己紹介をお願いいたします。
村元 運送では札幌市を中心とした一般貨物と本州からの特積みの二つの事業があり、倉庫業も展開しています。私自身は異業種の営業畑を歩いてきて、12年前に入社しました。
田村 大手コンビニエンスストア向けの日配・食料品の共同配送が99%を占めています。参入障壁の高い業態ではありますが、専業だとどうしても視野が狭くなってしまう部分があり、課題だと感じています。
北出 10㌧車やトレーラでの全国配送と、倉庫業を行っています。今の社名は23年4月に変更したもので、以前は増田運送という会社でした。元々はブラウン管などを運んでいましたが、最近は化成品が中心です。私は19歳の時にドライバーとして入社し、20年ほど務めてから内勤になりました。
吉永 労働環境改善に向けて取り組まれていることや成果を教えてください。
村元 入社当初はドライバーの半分がすぐに辞めたり、新しく入ったりしているような状態で、入退社の少ない安定した職場を目指してきました。関西・関東に拠点を置くグループ会社の豊興(堀川顕広社長、大阪府松原市)からトレーラで毎日2、3本の貨物が届きます。以前はドライバーが早朝から荷下ろしをしていましたが、負担を減らすため、専門のアルバイトを雇っています。
労働時間の短縮も続けています。始業時間を1日10分遅らせるだけでも、1カ月で3時間半の削減になります。残業代が減ることで退職につながるという話もありますが、固定残業代制度を活用し、早く帰っても手取りが減らないようにしています。労働時間をリアルタイムで確認できるソフトにより、管理の強化も進めています。
一番大きいのはコミュニケーションです。あいさつを徹底するとともに、積極的に声を掛けるようにしています。評価制度では、上司が一方的に評価するのではなく、ドライバーも同僚や上司を評価する「360度評価」を設けています。「会社は自分をちゃんと見てくれていない」といった不満もなくなりました。
田村 ドライバーからも上司を評価するというのは、とても理にかなっていると思います。当社も取り組み中で、まだ課題もありますが、ぜひ完成させたいと思います。
北出 私がドライバーとして働いていた頃は、月の残業時間が120、130時間はあり、1週間に一度、家に帰れるかどうかという職場でした。ですので、「家に毎日帰れて、今と同じ給料をもらえるようにする」ということを目標にしてきました。今では残業時間が1カ月当たり66時間まで減っています。一時期は残業が減ったことで給料も下がり、退職率も上がりましたが、理解が進んだ今では、ほぼなくなりました。
吉永 村元社長がドライバーさんとマンツーマンでお食事に行かれた、というエピソードも伺いました。
村元 新型コロナウイルス禍で皆ストレスがたまっていた頃、札幌市で大雪が降った年がありました。段々、皆の表情が曇ってきて、「一度話を聞かなくては」と思ったのが始まりです。面談は賞与の時にしていましたが、お酒が入るとまた違う話が聞けました。最初は警戒されていた部分もありますが、次第に参加者が増えました。私の思いを伝えることもでき、良かったと感じています。
吉永 ドライバーの皆さんの真の要望を聞く機会を設けられたことが、大きく奏功していらっしゃるんだろうなという印象を受けました。次に、アルプスウェイの田村社長、お願いできますでしょうか。
田村 離職率が高かったことが原点です。採用を担当する中で、離職率25%という数字と、社員1人を一人前に育てるまでに80万円ほど掛かっていることが分かりました。300人ほどのドライバーの4分の1が1年間で辞めて、補充する経費が1人80万円と考えると、これは大変なことだと感じました。
改めて現場を見て分かったのが、指導する側の問題です。以前はけがをして配達に行けない人が新人を指導することも多く、けがが治って指導者が代わると指摘する内容も変わり、新人の早期離職につながっていました。そこで、入社したスタッフは一人前になるまで必ず同じ人が指導するようにしました。指導者は社内検定に合格した人に限定し、給与の面でインセンティブを設け、質を高めることを目指しました。始めてから7年目ぐらいですが、アルバイトも含めて離職率は約4・8%、5分の1まで減っています。
指導者の資格を与える時は、人間性を重視し、コーチングできるかをポイントにしています。ただ指導するのではなく、ドライバーのやる気を引き出す係と捉えて指導者を育成しています。
北出 コーチングの教育はどうされたのですか。
田村 1時間程度の研修用のビデオを活用したほか、人事制度に組み込んだり、一緒に食事に行ったりして、意識改革に時間を割きました。ただ言うことを聞く人ではなく、自律的に動ける人を育てるために何ができるのか、考えてもらいました。
北出 ドライバーを束ねるリーダーのような人はいますか。
田村 8人程度の班を班長が束ねており、全体で班長が30人以上います。班長の中には、上手にコーチができる人も、できない人もいます。コーチの適正によって専任ドライバーと班長を自らの意思で選択できるような仕組みや、部下が上司を選べるような仕組みも採り入れ、どちらも成長できるような形にできたらと考えています。
北出 チームをまとめている人は、高いリーダーシップをお持ちなんですね。
田村 それだけに、ハードルが高いという面もあると思います。モチベーションづくりも課題の一つです。
北出 集まりやすい場所整備
村元 働くやりがい つかんで
吉永 ANAでも、新入社員1人に対し、業務を教えるインストラクターとは別にメンターがつき、心のケアをする体制を取っていました。アルプスウェイさんでは、インターンシップを積極的に受け入れているというお話も伺いました。
田村 長野県は就労人口の減少や過疎化、高齢化が進み、ドライバーのパイが足りなくなる状況です。そこで、小さい子や若い人が、将来大きい車に乗ってみたいと思う機会をつくれたらと思い、インターンシップをしています。物流業界に興味を持ってくれたら、当社でなくても良いのです。もちろん、当社に入ってくれればありがたいですが。
それから、指導者の改革と併せ、中途採用者と新卒者との入り口教育の違いを研究しました。中途は即戦力だからと入社後の対応や教育の手を抜くと、早期離職につながります。なので、中途も新卒も、共通の内容で3日間の新人研修をします。私もそこに登壇し、自分の考えや「うちはこういう会社なんだ」ということを伝えるようにしています。
北出 私の場合は、現場の目線で考え、トイレなどの整備から始めました。夕方にコーヒーを飲みながらコミュニケーションをとるドライバーが多いので、集まりやすい場所も整えました。今、問題になっている手積みなどについても、メーカーに依頼して改善を進めています。当社も中途採用がほとんどです。京都、大阪に近い県南部では応募が来ますが、過疎化が進む北部に行くにつれて人が集まりづらくなっています。給料ももちろんですが、やりがいがどこにあるのかを常に模索しています。
田村 集まる場所をつくる上で、工夫されていることはありますか。
北出 外に冷凍庫を置いて、夏場はアイスを食べて休憩できるような形をとっています。
村元 当社もサントリーの「社長のおごり自販機」という制度を導入しました。2人で社員証をかざすと、飲料が2人分無料でもらえるというものです。待遇をよくするだけでなく、この会社で働くやりがいもつかんでもらいたいのですが、なかなか難しいですね。
田村 運賃引き上げへ施策を
村元 品質を追求し常に改善
北出 皆で明るい職場つくる
吉永 お話を伺っていて、「優しい」というのは、「大切にする」ということなのだろうと感じました。大切にされていると感じると、貢献したいという思いが芽生え、やりがいにつながっていくのではないでしょうか。次に、より働きやすい職場を目指す上での課題について伺います。
北出 言い始めたらきりがないのですが、物流を巡る環境です。国土交通省の方針や、高速道路通行料金の引き上げなど、24年問題と逆行する部分があると感じます。
吉永 やはり、自助努力だけでは難しい現状もあるのですね。物流業界や社会全体にもっと理解してほしい、協力してほしいところなども伺えたらと思います。
田村 一言で言うと、原資の確保です。標準的な運賃も示されましたが、「この運賃を払ってもらえないのならやめます」というのはやはり難しいでしょう。荷主さんが本当に切羽詰まれば値上げへの理解が進むのかもしれませんが、それを待つのも本意ではありません。運賃引き上げを促進するような施策があってもいいのかなと感じます。
村元 特積みの業界でもダンピングが依然としてあります。歯止めを掛けるには運賃を認可制に戻すしかないのではないかと思います。今のところは品質で勝負するしかありませんが、努力して品質を高めても、安い値段で受けるところがあれば厳しいのが実情です。トラック・物流Gメンが荷待ち以外に、運賃についても本腰を入れて対策してくれないと、大きくは変わらないのではないでしょうか。
吉永 航空業界でも、格安航空会社(LCC)の参入により、ANAのような、フルサービスキャリアと言われる航空会社は大きな影響を受けました。そこで、値段ではない価値を目指して差別化を図るという道を選んできました。皆さんも、選ばれる企業になるために大切にされていることがあり、ドライバーの皆さんのやりがいにもつながっているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
村元 一番は品質です。建築関係のメーカーに務めていた頃、運賃の高い運送会社さんのほうが安いところと比べて品質が良かったので、多少高くても安心できる会社に任せていました。当社に入ってからも、会社全体で品質を追求し、常に改善してきました。おかげで、荷主さんからは良くしてもらっています。原資についても、関係ができているところは理解してくれますね。
田村 当社もただ届けるのではなく、気持ちの良い納品ができるよう、立ち居振る舞いやあいさつ、会話の仕方について教育しています。コンビニ配送では、納品時のドライバーの態度などについて指摘を受けることも多いです。荷主さんには「業務品質に対する要望を明確にした上で、きちんと応えている会社にはインセンティブを設けるなど、しっかり区別してほしい」と伝えています。
北出 あいさつについては、当社も講師を招いて改善を図りました。人付き合いが苦手なドライバーもいますが、皆で明るい職場をつくっていきたいと考えています。
田村 付加価値生む仕組みを
北出 フラットな組織めざす
村元 高齢者むけ受け皿用意
吉永 今後の展望や成長戦略について教えてください。
田村 創業以来、売り上げの拡大を追い求めてこなかったのですが、そこは今後も続けたいと思います。ちゃんとした仕事をして利益が出ていれば、仕事はついてくると思うので、むしろ社員からの信頼を大切にしていきたいです。
そのためには、給与水準を上げ、誇りを持って生活ができる業界にしなければいけません。ただ、荷主さんに負担を全部押し付けるのではなく、積載率の向上など、こちらから提案していきたいです。また、最近はほとんどのトラックがドライブレコーダーを取り付けていますが、その映像を必要としている人がいるかもしれません。毎日走り続けることが社会課題の解決につながり、ドライバーの付加価値にもなるような仕組みをつくれたらと思います。
北出 ティールという社名に変えたのは、自由に仕事ができる「ティール組織」をつくりたい、という思いからです。皆が考えたことをどんどん採り入れられる、フラットな組織を目指しています。給料もこの2年間で10%ほど上げてきましたが、社員には、更に給料を上げるにはどうしたらいいか考えてほしい、と伝えています。DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めて、管理費など削減できた分も還元していきたいと思います。
村元 まずは継続・安定雇用に尽きます。全産業で人手不足が進む中、定着を図っていくことが大切です。自分たちで給与や損益を考えてほしい、ということは伝えています。これだけ頑張ればこれだけもらえる、というのを示すことで、やりがいにつなげられたらと思います。
今、当社の平均年齢は44歳で、離職率も23年は3%ぐらいまで下がりました。高齢になれば当然、体力も落ちるので、倉庫の仕事など受け皿を用意できたらと思います。介護施設への送迎をパート・アルバイトの人がしているケースがありますが、将来規制が入る可能性を見越して、そうした方向にも手を広げられないか考えています。
吉永 「働く喜び」感動を創造
田村 厳しさ上回るやりがい
吉永 色々な企業さまとお会いして、従業員の皆さまが働く喜びを持っている企業風土の先に、お客さまの感動創造が生まれているように感じます。最後に、御社にとって「優しい会社」とはどのような会社か、お話しいただけますか。
村元 厳しさとうまく両立することが必要だと思います。世代によって育ってきた環境も違うので、その辺りをくみ取りながら、こちらの思いを伝えることと、社員の家族への配慮も大切です。自分たちが稼がないと会社は発展しないし、何より面白くない、そんな風に考えて自ら動ける会社が「優しい会社」なのかなと感じます。
田村 厳しさや自己責任を伴いつつも、それを上回るやりがいを持てる会社だと思います。あとは、上の者が下の者を一方的に指導するような文化を変えていけば、優しい人間関係を構築できるのではないでしょうか。
北出 会社は社員さんのためにあります。日頃の愛情を感じてもらえたら一番良いですね。人とのつながりを大切にしていけば、色々な部分で優しさにつながると思います。
吉永 社員の方やそのご家族、会社、そしてお客さまを大切にされることが、選ばれる企業につながっているのだと改めて感じました。皆さまの未来が、更に明るいものであることをお祈りしています。本日は本当にありがとうございました。
(朽木崇洋、高清水彩、原田洋一、小菓史和、矢野孝明が担当しました)
▼むらもと・よしみ 1962年生まれ、北海道出身。インテリア用品や建築関連塩ビメーカーなどを経て、2012年9月に札幌豊興入社。24年4月から現職。
▼たむら・ひろあき 1972年生まれ、長野県出身。2005年4月、アルプスウェイ設立とともに入社。大手総合商社へ出向後、品質管理部次長、取締役経営企画部長などを経て、22年6月から現職。
▼きたで・こういち 1970年生まれ、京都府出身。90年2月、増田運送(現ティール)入社。営業課長、業務推進部部長、部長取締役などを経て、2018年5月から現職。
▼よしなが・ゆきこ 1975年生まれ、広島県出身。98年4月、全日本空輸入社。2003年3月退社。客室乗務員経験を生かし、接客研修やマナー研修、キャリア教育に携わる。
![](https://logistics.jp/wp-content/uploads/2021/10/nuru-scaled-e1634297825788.jpg)
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