座談会「24年問題と行政の役割」
その他
2025/02/04 5:00
出席者(順不同)
国土交通省物流・自動車局貨物流通事業課長
三輪田 優子氏
経済産業省商務サービスグループ消費・流通政策課 / 物流企画室長
平林 孝之氏
中小企業庁事業環境部/ 取引課長
鮫島 大幸氏
農林水産省大臣官房新事業・食品産業部食品流通課長
藏谷 恵大氏
公正取引委員会事務総局経済取引局企業取引課長
亀井 明紀氏
〈司会〉小紙東京支局
田中 信也
交渉力高めるため支援
経営層の意識向上期待
「2024年問題」に対応するため、政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づき、取引環境の改善や輸配送の効率化などに向け、関係省庁が枠組みを超えて連携し取り組みを進めている。トラック・物流Gメンの活動が初の勧告につながったり、異業種間での共同配送を行う荷主企業の動きが広がったりするなど、社会的課題としての24年問題の認知が拡大。そうした中、更なる物流改善に向け、行政の果たす役割は一段と大きくなっている。各関係省庁の担当責任者にこれまでの取り組みの進捗(しんちょく)や課題、今後の展望について話し合ってもらった。
平 林 荷主に意識変容を促す
亀 井 労務費転嫁へ環境整備
三輪田 政策実効性高める段階
――物流を巡る問題に対する認識は。
三輪田 国の血流である物流を産業全体で軽んじてきたツケが、働き方改革などの流れの中でクローズアップされてきました。関係者の努力もあり現時点では問題が顕在化していませんが、影響は徐々に現場に表れています。
労働時間規制を守れないという声も一部で耳にする中で、30年に輸送能力が34%不足するという試算もあり、構造的問題は今後も続く見込みです。
長時間労働で低賃金という労働環境はドライバーのハンデになっていて、改めて人材確保や省力化・省人化に向け、各省庁が取り組んでいます。昨今の追い風を絶やさず問題を世の中に発信し、荷主を含め理解を求めることが必要です。
藏 谷 農林水産品・食品分野では、23年に現場での物流改善に向けた取り組みが進み、これまでのところ大きな混乱は生じていません。関係者の尽力に深く感謝しています。ただ、時間外労働上限規制に対応したオペレーションの見直しは進みましたが、物流そのものの構造改革は道半ばです。今後、ドライバーの減少が予想される中、いかに物流負荷を減らし、持続性を保てるか、中長期的な視点で取り組むことが重要です。
平 林 人手不足が中長期的に見込まれる中で、物流を国の産業競争力の源泉として捉え直す必要があります。そのためにも、物流システムの革新に取り組まなくてはいけません。物流の負荷軽減を前に進ませるためには、荷主の取り組みが極めて重要だということが24年問題でクローズアップされてきました。荷主の意識や行動の変容を積極的に促していきます。
亀 井 労務費割合が高い6業種に含まれる道路貨物運送業の多くが、労務費上昇を理由に交渉しても価格転嫁に結びつかないという調査結果も出ていて、価格転嫁の面で苦しい状況にあると把握しています。
23年は労務費を転嫁できる環境づくりのために、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を出しました。作って終わりではなく実際に価格交渉で使われて初めて意味があるので、現場での活用が進むよう事業所管省庁と協力して働き掛けていきます。
鮫 島 トラック産業は中小企業の存在感が大きい業界と認識しています。ただし、取引環境は他と比較して厳しく、価格交渉促進月間での転嫁率の調査結果をみても、毎回、最下位に近い結果です。
背景には荷主に対する交渉力の弱さ、他の運送事業者に対する委託の頻度の高さなど構造的問題に加え、荷役料、待機料といったコストが発注代金に明示的に含まれない取引環境上の問題があります。逆に環境の整備を進めれば伸びしろの多い業界だと思うので、公取委と連携して取引適正化を進めていきたいです。
――政策パッケージに基づく取り組みの現状は。
三輪田 現在の行政の枠組みで取り組めることはパッケージに凝縮されていて、かなり進めてきています。国交省でも標準的な運賃やトラック・物流Gメン、物流効率化法(新物効法)と改正貨物自動車運送事業法の「新物流2法」のほか、初の枠組みとなる経産省・農水省との3省合同審議会などが設置されました。予算も増額し、これからは政策の実効性を高めていく段階です。
女性の社会進出や育児休暇制度の改革が進んだように、商慣行や人の意識を変えるには、意識レベルへの継続的な取り組みが必要で、行政にはその調整役の役割があります。法律に盛り込まれた物流改善の中長期計画の作成や、荷主企業での物流統括管理者(CLO)の選任などの規制的な措置の運用を通じ、荷主の経営者層の意識レベルが上がることにも期待しています。
藏 谷 農林水産品・食品分野では、自主行動計画の作成が進みました。150以上ある自主行動計画のうち、半分ほどは農林水産品・食品の関係団体・企業によるものです。遠隔地からの輸送、温度管理・衛生管理の必要性、天候に左右される出荷ロットなどの課題がある中で、多くの関係者が危機意識と問題意識を持って取り組んでくれました。
また、加工食品の製造・配送・販売の三層が一体となった取り組み(FSP)やスーパーマーケットの物流研究会の設置など、業界で自主的に進めていただいているものも多々あります。
藏谷 標準型パレ普及へ努力
平林 CLO設置が大転換点
――農水産物は荷姿の関係で効率化が難しい。
藏 谷 農水省としても、品目ごとの商品特性に着目した流通標準化ガイドラインを策定し、11型パレットの導入推進や、卸売市場の場内物流の改善を進めています。パレット化は物流効率化に加え、負担軽減効果も大きいです。
現状では、青果物のパレット化の割合は6~7割ですが、11型レンタルパレットの利用は1割程度にとどまります。パレット化率全体の向上を進める中で、標準型パレットの普及にも努めていきたいです。
23年12月には農林水産相をトップに省内全部局が参加する「農林水産省物流対策本部」を設置し、各地方農政局などに相談窓口を設けたほか「官民合同タスクフォース」として本省、地方農政局、民間の生産者・流通・小売団体などに物流団体も加わった体制を構築し、全国各地の問題を具体的に相談しながら解決していく、現場主義の取り組みを行っています。
平 林 パッケージの三本柱のうち効率化では、ロボットやAI(人工知能)で省力化・効率化を進めるために物流を非競争領域と捉え、企業間の共同輸配送を進めていくことが重要と考えています。また、商慣行の見直しには荷主の意識や行動変容が重要です。
自主行動計画を150以上の団体・企業が作成し取り組んでいるのは非常に象徴的で、バース予約システムの導入やパレットの活用といった荷主に求められる取り組みをガイドラインで具体的に示したのは大きなポイントだと思います。
荷主、消費者の行動変容ではCLOの設置が大きな転換点になるでしょう。企業が変わるには、サプライチェーン(SC、供給網)全体に横串を刺す時、経営層が物流をコストではなく利益を生み出す部門として捉え、事業戦略に落とし込んでいくことが大切です。
――今まで物流を深く考えていなかった荷主が、どこまで対応できるのか。
平 林 例えば、空調機器メーカーのダイキンは従来の製品開発の考え方を逆転させ、製品部門と物流部門が共同でエアコンを設計しています。物流最適化を起点に、パレットサイズに合わせた製品梱包の大きさを基に、どんな機能を載せ、どんなデザインにするか、という視点です。
できるか否かではなく、やらないと日本企業の競争力は低下します。早くから重要性を認識して取り組む企業が前に進んでいくと思います。
藏谷 荷主との共存共栄必要
亀井 特徴生かした連携大切
――公正取引委員会、中小企業庁の取り組みも活発化している。
亀 井 下請代金支払遅延等防止法(下請法)では20年前の法改正で物流が対象とされて以来、指導482件、勧告24件を行っています。また、23年度の独占禁止法に基づく物流特殊指定の運用状況は、買いたたきや代金の支払い遅延といった独禁法上の問題につながる恐れがある荷主573者に注意文書を送っています。中には30年前の運賃表に基づく内容で毎年契約を更新して運賃を据え置いていた事例などもありました。
鮫 島 下請中小企業振興法に基づき、少なくとも年に1回は、受注者との交渉に臨むよう求めているほか、3、9月の価格交渉促進月間での調査と、これに基づく社名公表、指導・助言を行っています。物流業界では指導助言や社名公表の後、受注先に対する取引方針の見直しや運賃値上げに応じる事業者が多くいます。ただ、その原資確保のための荷主への運賃値上げについては苦労しておられるのが実態です。
価格交渉月間の直近の調査結果では転嫁率は改善の傾向ですが、他の業界よりは2割ほど低く、いまだ十分ではありません。交渉でも転注をにおわせたり、実際に失注してしまったりといった声もあり、強気にはなれない状況です。荷主への交渉力を高めていくための支援が必要です。
――トラック・物流Gメンの取り組みの進捗は。
三輪田 24年8月末時点で千件以上の是正指導を行いました。Gメンの先達である公取委や中企庁にも指南を頂きつつ連携しています。今までは相場観を養うために本省主導でやってきましたが、現在は主導権を地方運輸局に渡し、よりきめ細かい是正指導ができるよう図っています。
各都道府県トラック協会の地方適正化事業実施機関の職員から選任するGメン調査員の活躍にも期待しています。適正化機関の指導員は巡回指導のノウハウに加え、総合評価がD(悪い)・E(大変悪い)評価の事業者との接点が多いこともあり、悪質な荷主・元請事業者に関する多くの情報が集まるはずです。国の是正指導との連携で、Gメンの制度がより有機的に機能することが望まれます。
――通報者の身バレ問題がネックになっているとの指摘がある。
三輪田 情報管理はGメンの制度が成り立つための肝なので、提供者の意向に沿った情報の扱い方をした上で、内部でも守秘義務をかけるなど徹底します。
――公取委の調査官や下請けGメンとの連携についてはどうか。
亀 井 公取委、中企庁、事業所管省庁にはそれぞれ得意分野があるので、3者が特徴を生かした連携をしていくことが大切です。中企庁とは連絡会議を立ち上げました。下請法の調査手法や、勧告案件などの事実認定ノウハウを共有し合ったり、それぞれが取得した問題事例に関する情報を共有したりして、下請法の調査に生かしています。こうした取り組みを下請法の調査権限を持つ事業所管省庁にも広げて、調査ノウハウの提供など、関係省庁を股に掛けた面的な執行ができればと考えています。
鮫 島 下請振興法に基づく指導助言を行う場合には、国交省とよく連携しています。ほかの業界では「このような取り組みをしている」といった参考情報をトラック事業者に提供することもできますし、逆にトラック業界の運賃や手数料の適切な水準といった、我々にない知見は国交省のお力添えをいただきながら、幅広く、深い指導・助言を行っていきます。
――新物効法の趣旨・意義は。
平 林 新物効法では全ての荷主に荷役時間・荷待ち時間の短縮や積載率の向上などの努力義務を求め、一定規模以上の特定荷主には中期計画の作成、報告なども義務付けました。規制的措置の導入は、時代の大きな流れの中では自然で、揺り戻しが起こった形かもしれません。それを認識して各社が取り組んでいかなければならず、法律なので手を抜けませんし、荷主にとっては大きなプレッシャーだと思います。
藏 谷 短期的に見れば荷主にとっては負担が増えるという側面もあると思いますが、中長期に輸送力を確保するためには荷主とトラック事業者の共存共栄が必要であり、乗り越えなければいけない課題です。
三輪田 新物効法は国交省にとっても関係省庁の理解を得られた画期的な内容です。これまでの法体系では荷主勧告が精いっぱいで、それもなかなか抜けない伝家の宝刀でした。
元請けの立場にも荷主的な要素があるので、実運送事業者が適正運賃を収受できるようにし、ドライバーに負担を強いることもないよう、しっかり取り組んでいく必要があります。
平 林 規制措置を規定するまでに、荷主と様々なやり取りがありました。荷主も「どうすればできるのか」という意識で行動していて、物流事業者と同じベクトルを向いています。業界ごとに扱う荷物が異なり、それぞれの事情がある中で、ビジネスと法律が求める部分で、どこまで歩み寄れるかを非常に苦慮しながらも前に進めています。
三輪田 トラ業界も自浄作用を
鮫 島 納得できる取引環境へ
――改正貨物自動車運送事業法についての取り組みは。
三輪田 実運送体制管理簿をはじめ、川上から川下まで見える化することが趣旨ですが、多重下請け構造は引き続き議論が必要です。荷主に行動変容を迫っていくことと並行して、トラック業界も自浄作用を働かせる必要があります。実運送事業者の立場で主張すれば済むという問題でもなく、業界全体にとっては痛みを伴う変革が求められます。
――「水屋」というパンドラの箱にもメスを入れる。
三輪田 なかなか全貌(ぜんぼう)が見えづらく、調査も難航しましたが、非常に重要なテーマです。明確な出口はまだ決まっておらず、調査結果を見ながら対策を考えていこうという段階ですが、実効性のある形を目指したいと思っています。
――下請法改正の趣旨と課題、研究会の検討状況についてはどうか。
亀 井 夏に中企庁とともに企業取引研究会を開催しました。適切な価格転嫁を新たな商慣習としてSC全体で定着させていくための取引環境を整備する観点から、優越的地位の乱用規制の在り方について、下請法を中心に検討していただくことが趣旨です。SC全体で考えないと、どこかにしわが寄るため、下請法や独禁法のガイドラインも含めてご検討いただいています。
鮫 島 下請法の改正については、実態とニーズを踏まえる必要があります。同法の対象となるトラック事業者同士の取引だけでなく、荷主との契約関係、例えば、荷役や荷待ち時間分の報酬などが契約に明記され、運賃にも反映されて、お互いに納得できるような取引環境になるよう目指していきます。
――下請法は契約関係がないと適用できない。この点の議論も行われているのか。
亀 井 独禁法や下請法は、平たく言えば無理な取引を強いることを規制するもので、取引関係のない当事者間にそのまま両法令を適用することは困難です。通常、発荷主と着荷主間での契約を踏まえて、発荷主から物流事業者に発注があるものと理解していて、物流事業者と着荷主との間には取引関係がありません。
面的な執行につなげるためにも、例えば、着荷主が物流事業者に荷役や荷待ちをさせた場合には、その対価に関する取り決めを発荷主と着荷主の間での契約内容とするよう、業法などで事業所管省庁に対応していただけると、独禁法や下請法が出ていける場面も増えていくと思われます。こうした制度間連携も必要ではないか、という議論も行っていただいています。
――本日はありがとうございました。
(山根藍利、ダシルバ・サミー、田中信也が担当しました)
▼みわた・ゆうこ 1974年8月生まれ、兵庫県出身。97年東京大学法学部卒業、運輸省(現国土交通省)入省。2020年観光庁国際観光部国際観光課長などを経て、24年から現職。
▼ひらばやし・たかゆき 1975年8月生まれ、長野県出身。98年中央大学経済学部卒業、通商産業省(現経済産業省)入省。2017年産業技術環境局地球環境対策室室長などを経て、24年から現職。
▼さめしま・ひろゆき 1975年10月生まれ、鹿児島県出身。99年東京大学法学部卒業、通商産業省(現経済産業省)入省。2001年国土交通省都市・地域整備局、10年金融庁保険課などを経て、22年から現職。
▼くらや・よしひろ 1972年5月生まれ、青森県出身。95年東京大学農学部卒業、農林水産省入省。2021年在イタリア日本国大使館参事官などを経て、23年から現職。
▼かめい・あきのり 1973年11月生まれ、神奈川県出身。97年3月東京大学経済学部卒業、通商産業省(現経済産業省)入省。2021年内閣官房デジタル市場競争本部事務局参事官などを経て、23年から現職。
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