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物流とメディア/テレビ、業態・環境の変化を色濃く反映

その他

2024/02/15 13:13

 コマーシャルは「時代を写す鏡」と称され、世相や流行を鋭く反映してきた。近年はインターネットやSNS(交流サイト)といった新たなメディアに押されつつあるが、テレビCMによって知名度を上げ、飛躍につなげた企業は枚挙にいとまがない。テレビCM誕生から70年の歴史を振り返ると、その黎明(れいめい)期から物流は深く関わり、業態や取り巻く環境の変化を色濃く反映してきた。 (田中信也、園川萌子、小菓史和)

およそ70年前にCM参入

 日本のテレビCMは、初の民間放送局、日本テレビが放送開始した1953年8月28日に産声を上げた。第1号は精工舎(現セイコー)提供の「時報」で、ニワトリがぜんまい仕掛けの時計を調節するアニメーションだった。  
 物流関係のテレビCM第1号について、文化・メディア研究者で初期のCMに詳しい茨城大学人文社会科学部教授の高野光平氏は「日本通運は50年代からテレビCMをやっている。55年制作の『日通コンテナー』というCMがアドミュージアム東京に保存されており、現存最古ではないか」としており、黎明期から存在していたことが分かった。
 会社やアパートの引っ越しでのコンテナの使用例を90秒超にわたり紹介する、当時主流の実写CMの典型といえる作品。大量生産・大量消費の時代が幕を開け、大規模な輸送がサービスである「物流」の概念の確立を予感させる内容だ。
 ヤマト運輸は「宅急便」のサービスをスタートした76年、自社初のテレビCMを制作。「ヤマトグループ100年史」(ヤマトホールディングス編)によると、第1号は、東京12チャンネル(現テレビ東京)で放送した「電話ひとつで翌日配達」をキャッチフレーズにしたアニメーションの15秒のスポットCMで、「問い合わせの電話が寄せられるなど効果は絶大だった」としている。
 翌77年からはテレビCMを本格展開。78年4月からは俳優の和泉雅子さんを起用し、広告宣伝活動を全国的に行い、宅急便の名が急速に広まった。79年4月には「クロネコヤマトの宅急便」のワンフレーズを用いたCMソングも制作。全国の家庭に浸透していった。

「動物戦争」勃発で熾烈化

 「宅急便に続け」と、名だたる物流企業が宅配便事業に参入。そのシンボルマークがペリカン、イヌ、カンガルー、小熊などだったため「動物戦争」と称され、90年代初頭にかけて熾烈(しれつ)なPR競争が繰り広げられた。テレビCMでも「ペリカン便」(日本通運)が榊原郁恵さん、「カンガルー便」が三田佳子さん、「フットワーク」(フットワークエクスプレス)は樹木希林さん、岸部一徳さん――と有名芸能人をキャラクターに起用した。
 だが、ヤマトの牙城は高く、フットワークは2001年に経営破たんし、宅配便から撤退した。「ペリカン便」は97年度まで業界2位のシェア20%と健闘してきたが、企業間物流を手掛けてきた佐川急便が98年に参入後、取扱量が低迷。日本郵便との合弁会社「JPエクスプレス」の設立を経て、2010年に「ゆうパック」に一本化された。
 ヤマトは、「スキー宅急便」「ゴルフ宅急便」「クール宅急便」などサービスを順調に拡大。91年にはサービスドライバーのクロネコと、お客を表現したシロネコのキャラクターが登場した。第一弾の「日本のわがままを運びます」は、サービス拡大を反映し、シロネコの「スキーがしたい。」「おいしいお魚が食べたい。」といった要望にクロネコが応えるコミカルな内容が評判を呼んだ。
 だが、90年の物流2法施行を契機とする規制緩和の流れにより、業界は荷主や消費者の立場が強まり、「買い手市場」に変容していく。また、EC(電子商取引)市場の拡大により、個人間のCtoCを想定していた宅配便がBtoC(企業―消費者)サービスにシフトした。皮肉にも「顧客(荷主)のわがまま」に応え続けた結果、宅配クライシスが顕在化。運賃値上げや時間指定の縮小など事業の転機を迎えていく。

「引越専業」不動のものに

 宅配便と並ぶ日本の物流産業での二大発明といえる引越サービス。アート引越センターが引越専業に転換したのは、くしくも宅急便開始と同じ76年だった。同社の創業者で、引越専業サービスの生みの親とも言われる寺田千代乃氏(現アート引越センター名誉会長)は「当初は電話帳広告を展開するも、これでは限界がある」(日本経済新聞、20年9月13日付「私の履歴書」)と、78年にテレビCMを開始。CMソングの女王と呼ばれていた天地総子さんが歌う「ゼロ、イチ、ニー、サン」の歌詞とメロディーは広く浸透し、引越専業サービスの立ち位置を不動のものとした。
 「勉強しまっせ 引っ越しのサカイ」――。サカイ引越センターが93年から放送開始した関西弁のリズムに合わせたコテコテのCMは強烈なインパクトを与えた。「子どもたちが口ずさんでくれるようなメロディーと、コミカルな映像にすることで、『引っ越しのサカイ』の名前とイメージの定着を狙った」(広報課)。その後も俳優の徳井優さんをキャラクターとした「おもしろCM」を05年まで展開。同社の名前を全国区とし、引越サービスの最大手に押し上げた。
 倉庫は、90年代後半から高機能設備の導入や加工スペースなど保管以外の付加価値をつけた「大規模物流施設」へと進化した。こうした中、大和ハウス工業は俳優の役所広司さんをメインキャラクターに起用し、物流施設に特化したCM「物流も大和ハウス」「物流にAIを」(18年)を展開。同社は「物流事業者ではないが、物流施設開発は事業の一つの柱。物流施設の建設を手掛けていることや、AI(人工知能)技術を駆使した先端の施設を提供していることを訴求する目的で制作した」(総合宣伝部)としている。
 ほかにも、トラックを投資対象とする金融商品「トラックファンド」のリアライズコーポレーションや、エイチームの「引越し侍」などの引越し比較サイトといった、かつて想像できなかった業態が盛んにCMを展開するようになった。
 一方、旧来の物流事業者によるCMは、以前に比べ地味な印象を受ける。インターネットやSNSの台頭で、テレビの影響力が落ちていることもあるが、物流業界は、かつての動物戦争のような一般大衆を相手にした自社の商品・サービスから、専門性の高いソリューションにアピールポイントがシフトしたことも影響している。
 佐川急便は、長らくイメージCMを展開してきたが、13年に自社の物流戦略・ソリューションを全面的にPRするCMに転換。14年に俳優の織田裕二さんを起用したCMは、先進的ロジスティクスプロジェクトチーム「GOAL」による海外でのコールドチェーン(低温流通網)物流など実例に即した取り組みがモチーフで、物流のソリューションを示すコンセプトを明確化した。
 また、近年は、採用や自社のブランディングのための企業CMが目立つ。センコー(現センコーグループホールディングス)は、1980年に制作した「センコー引越プラザ」のCMを皮切りに個別のサービスをアピールするCMを制作してきたが、2007年に「物流にアイデアを」のイメージソングで、企業イメージを前面に押し出す方針に転換。22年には新たなCMソングをつくり、イメージを一新している。
 高野氏は「企業広告は90年代以降、様々な業種でみられるようになり、物流業界も例外ではなかったのではないか。対人的な業務である宅配や引っ越しは、ちょっとしたことで印象が変わりやすいので、とりわけ企業イメージを良好に保つことに力を入れたのかもしれない」と分析する。
 ヤマトが、アートが、サカイが、テレビCMを起爆剤に業界のメインステージに躍り出る――といったケースは過去のものとなったのか。こうした中、NXホールディングスは野球日本代表「侍ジャパン」をスポンサードし、CMを積極展開。22年に全国CMを31年ぶりに復活させた西濃運輸はパラアスリートの谷真海さんを起用。新たな潮流が広がる可能性もある。いま一度、物流のCMが大きな話題を呼ぶことを期待したい。


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