「送料無料」表示見直し、国民意識醸成に効果
荷主
行政
2024/06/04 4:00
「2024年問題」に対応するため、政府が打ち出した宅配の再配達率半減の達成に向けたポイント還元や通販での「送料無料」表示見直しの方向性は、消費者からも大きな関心を集めた。総物流量で宅配便が占める割合は2%弱に過ぎないものの、物流改善に向け、国民意識を醸成する効果は大きい。有効かつ説得力のある施策が求められている。(田中信也、ダシルバ・サミー)
説得力ある対策が必要
23年6月に政府が決定した「物流革新に向けた政策パッケージ」に盛り込まれた「送料無料」表示見直しの方針を受け、消費者庁は、全日本トラック協会(坂本克己会長)を皮切りに、物流事業者、業界労使、EC(電子商取引)事業者(プラットフォーマー)、消費者団体などと意見交換。表示の実態や見直しによる影響の把握に努めた。
8月に行われたEC事業者が加入する3団体との意見交換では、団体側が「適正な運賃・料金を収受できていない合理的根拠は示されていない」と指摘。企業努力や顧客満足度を阻害するといった観点から「別の表現への置き換えは困難」と表示見直しに反対した。
同庁は12月、送料無料表示の見直しについて、事業者に自主的な取り組みを促す方向性を打ち出した。法規制など強制力を伴う対応は見送られたが、全ト協は「販売側に自主的な対応を要請し、取り組みを注視する方針を打ち出したのは前進だ」(星野治彦企画部長)と評価した。
一方、運輸労連(成田幸隆委員長)の世永正伸副委員長は「法規制のみならずガイドライン(指針)も示されなかったことは残念だ」と主張。その上で、労使ともに、EC事業者の取り組み状況を注視していく、としている。
表示見直しに反対するEC事業者が少なくない中、いち早く見直しに着手したのが、化粧品大手のファンケルだ。24年5月8日から自社の通信販売サイトをはじめ、広告や会報誌などでの「送料無料」の表示を見直し、「送料はファンケル負担」もしくは「送料当社負担」へ切り替える、と発表した。
担当者は「24年問題をはじめ、物流の持続可能性について大きな課題と感じている。置き配の推進も1997年から始めており、リーディングカンパニーとして先頭を切って取り組みを進めている」と語る。併せて、再配達の削減に向け、置き配の利用者にポイントを付与する取り組みや、複数回の注文をまとめた配送方法などを推奨する。
再配達半減めざす
政策パッケージでは消費者の行動変容に向けて、12%前後で推移している宅配の「再配達率の半減」を目標に掲げている。23、24年の4月には「再配達削減月間」として、国土交通省、経済産業省など関係省庁とEC事業者、宅配事業者が連携し、テレビCMを放送するなど周知・広報活動を強力に推進した。
また、早期に具体的な成果を上げるため、宅配荷物の受け取りでのポイント還元の実証事業を今秋にも実施する。EC事業者などが運営するウェブサイト(ECサイト)上で、コンビニエンスストアや宅配便の営業所での受け取り、置き配、ゆとりある配送日時(リードタイム)などを選択した際にポイントを還元するもので、実証を経て、各事業者による実運用への移行を促していく。
ただ、「インセンティブを与えるのではなく、再配達に対してペナルティーを与えるべき」など事業の効果を疑問視する声は多い。また、23年度補正予算で44億5千万円もの巨費を計上したことへの批判があるのに加え、1回当たりのポイント還元額の設定が最大5円であることに対し、「この程度で果たして効果を見込めるのか」といった指摘も上がる。国民一人ひとりが物流改善を「自分事」と捉えてもらうため、政府のみならず全ての関係者が取り組みの有効性を検証し、より説得力のある対策へ磨き上げていく必要がある。
=おわり
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