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トレーラ鉄板落下事故/遺族が講演 運送5社、立ち上がり

その他

2015/07/09 0:00

 2012年12月、広島県東広島市の国道で大型トレーラの荷台から鉄板が落下し、直撃された乗用車の男性2人が死亡した事故から2年半――。事故の記憶を風化させず、プロとして改めて自らを律しようと、広島県の運送会社5社が立ち上がり、5月31日に広島市西区で「生命(いのち)の大切さを学ぶ会」と題する講演会を開いた。亡くなった松本康志さんの妻、里奈さんは、時間の経過で癒えることの無い被害者遺族の苦しみと悲しみを打ち明け、「『法律を守っていたら物流業は成り立たない』という加害者の主張に、怒りを持ってもらえたらありがたい」と訴えた。(江藤和博)  主催したのは、久保運送(現KUBOXT、久保満社長、広島市西区)、カープトラック(杉田健司社長、佐伯区)、リジョー(藤井巌社長、同)、ミサキ運送(三崎竜社長、西区)、今井運送(高西宏昌社長、同)。各社の従業員を中心に128人が集まり、被害者遺族の生の声に耳を傾けた。  あいさつに立った久保社長は「我々は日頃から公道を職場としているが、無謀とも言える運転をするトラックドライバーを頻繁に目にする。危ないことを危ないと思えない我々の仲間が、公道で商売できることへの感謝を忘れ、事故を発生させてしまった。我々は本当に事故を防ぐ努力をしているのか。一瞬の緩みが事故につながることを自覚してもらいたい」と語った。  NPO(非営利活動法人)広島頸髄損傷Life Netの徳政宏一理事長の講演に続き、里奈さんが登壇。事故が発生して以来、加害者である運転者の刑事裁判で長男と共に被害者参加制度を利用して証人尋問、意見陳述を行い、運転者は自動車運転過失致死罪と道路交通法違反で禁固3年6カ月、罰金50万円の判決が確定した。  また、加害者の勤務していた楓商事(福山市)と元社長、博多雅和被告の起訴を求める署名活動を展開し、1万2305人分を広島地検へ提出、13年12月に在宅起訴に持ち込んだ。こちらも被害者参加制度を利用して長男、長女と共に被告人質問、証人尋問、意見陳述を行った。  博多被告は14年10月、「事故には予見可能性があり、未然に防止する指導・監督の義務を怠った」として、業務上過失致死、道交法違反で禁固2年(執行猶予3年)、罰金50万円の判決を受け、刑が確定している(楓商事も道交法違反で罰金50万円)。  これらの経緯を説明しながら、里奈さんは運転者について「ワイヤー1本で固縛していたことを認め、3回の公判で終わった。判決は、これまでの判例に比べて重かったが、遺族としては納得がいかなかった。謝罪の言葉も無く、頭も下げず、手を合わせてもらったことも一度も無い」と悔しさをにじませた。  また、博多氏については「初公判から『自分には全く責任は無い』と主張した。運行管理しているのは労働時間だけで、積載方法はドライバーの判断であり、確実に指導するのは不可能で、同業他社もきちんと固縛しておらず、通行許可制度を守っていたら物流は成り立たない――と陳述していた」と説明。指導・監督義務がありながら、危険な積載を放置していた実態を語った。  里奈さんが遺族としての思いを吐露し始めてから、会場は更に厳粛な空気に包まれた。  「病院に行ったら、主人はストレッチャーに寝かされていた。周囲に医療器具は無かった。この時初めて、圧死による即死で、治療も受けずに死んでいったことを悟った。警察からは犯罪被害者のパンフレットを渡された。この時、こちらには非が無い犯罪被害者になったことを知った」  会場では、長男の陳述書が配られたが、表現は「事故」ではなく「事件」で貫かれている。トラック業界では重大事故の一つでも、過失の無い遺族にとっては「犯罪事件」となる。  里奈さんは「けんかばかりの夫婦だったが、主人がいたからこそ子供一番でいられたのだと気付いた」と話し、被害車両から取り出した遺品について「主人の存在を確認できるのは、遺品に染み付いた血のにおいだけ。いまだに捨てられずにいる。家族を他人に奪われた悲しみや苦しみに終わりは無い。今でも主人が長期出張に行っていると思ったりする。この苦しみから解放されるなら死にたい、と思うこともあった」と打ち明けた。  更に、「理不尽に殺されるなら、好き放題に生きた方がいい」と投げやりになり、一時は不登校になった長女の「父さんが加害者じゃなくて良かった。加害者じゃったら、うち(私)は生きていかれんかった」という言葉も紹介した。  トラック業界に対しては、「義務付けられていなくても、やった方が良いと思うことは積極的にやるべき。運送業界は変わったよ、もう二度とあのような事故は起きない――と主人に報告できる日が必ず来ると信じている」と締めくくった。  里奈さんが大勢の聴講者の前で事故のことを語ったのは今回が初めて。最後に、カープトラックの杉田社長は「つらい実体験を語ってくれたことに心から敬意を表する。厳かな気持ちのまま講演が終わるのは初めての経験。心の緩みや横着心が取り返しのつかないことになる。知識としてだけでなく、全員がプロとして、当たり前のように危険回避の行動を取っていこう」と呼び掛けた。 【写真=松本里奈さんが講演する壇上には、亡くなった康志さんの遺影と事故当時に履いていた靴を飾った等身大パネルを展示】





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